第43話 おっ、罠かな?

 早速ライトダーク王国から依頼がやって来た。

 山間にある村に届け物をして欲しいという話である。


 妙に簡単な仕事なので、ちょっと拍子抜けした。

 届け物というのも、王国からの税について今年は免除するという手紙で、これは普通に国の兵士が届けてもいいものなのではないか。


「妙だな」


「マイティもそう思うか。拙者もだ。これは罠であろうな」


「罠か。例えばどんな?」


「場所は山間。なれば、山を崩してしまえば拙者らを生き埋めにできよう」


「なんだと? ライトダーク王国の村がある場所じゃないか。国民ごと俺たちを埋めちまうのか?」


「無論、国王にそのような意志はあるまい」


 俺とジュウザが難しい話をし始めたので、エクセレンが俺たちの顔を交互に見回している。

 一生懸命に理解しようとしているな。

 自分が分かるものが増えると、世界も広がるからな。偉いぞ。


「つまり、ボクたちをここで仕留めようというわけですね! ええと、怪しいのはマイティがこの間言ってた、あの占星術師!」


「ああ、そうだ。俺はタンクが長いからな。他からぶつけられる敵意ってやつに敏感なんだ。そっちに常に盾を構えておけばいいからな」


「ふむふむ、わしにはあの占星術師、思考と感情がバラバラになっとったように見えたのじゃ!」


 おっと、ディアボラの考察が深い。


「バラバラってどういうことだ?」


「そうじゃのう。理性では、国のために何かをしなければと思っとるのじゃろうが、感情では何もかも壊してしまいたい、みたいな感じじゃな」


「難儀なことだ」


 ジュウザが肩をすくめた。

 ここは、手紙を届けた後の村の中。

 お茶とお茶請けを出してもらいつつ、のんびりしているところなのだ。


 山間の村は、ぐるりと周囲を山に囲まれている。

 盆地というやつなのだが、山から流れてくる水がここに栄養を運んでくるから、木々が生い茂り、畑からもたっぷりと作物が採れる。


 豊かな村だ。

 ここで俺はふと気づいた。


「どうしてこんな豊かな村の税を免除するんだ?」


「さてな。星見の国は重要な決断を星見によって行う。あの占星術師が絡んで……むっ」


 俺とジュウザとディアボラで顔を見合わせた。


「罠だな」


「罠であろう」


「罠じゃな」


 三人の意見が一致する。

 エクセレンも理解したようだ。


「つまり、ボクたちごとこの村を潰しちゃうから、税はもういらないよってことですね?」


「なるほど、そうなるな」


 驚きの発想だ。

 だとすると、この手紙を考えたやつは相当性格が悪い。

 あるいはイカれてしまっているのだろう。


 俺たちの考えを裏付けるように、周囲の山がゴゴゴゴゴ、と鳴動を始めた。

 ディアボラが椅子をぴょんと飛び降りて、その場の床に何やらごりごり書き始める。


「使わぬに越したことは無いが、まあ使うじゃろう! わしがなんとかするから、時間を稼ぐのじゃー!!」


「おう! 食い止めるのは俺の得意な仕事だからな!」


「では拙者は、事の原因を探るとしよう。直接出向いて来ぬのだ。魔将は関わっておるまい」


 そう告げると、ジュウザが屋根の上に飛び上がった。

 そこから木々の枝に飛び移り、凄まじい速度で山に向かって駆けていく。


「凄いですね! ジュウザ、あんなこともできるんだ」


「ニンジャは本来、シーフの最上位職だからな。シーフができることは全てできるぞ。あれはアクロバットウォークとか言うののもっと凄いやつだな」


 これから村を囲む山々で地すべりが起きるとしたら、それを引き起こしているモンスターがいると睨んだのだろう。

 ジュウザが一箇所でも崩してくれれば、村への被害が少なくなる。


「来たぞ!」


 俺は敵意を感じ、その方向を見た。

 正面の山。

 そこから強い敵意と、崩れ落ちてくる山肌。


 村人たちがわあわあと叫び、慌て始めた。


「みんなー!! マイティの近くに集まってー!! マイティ、何人くらいガードできます?」


「固まってくれれば百人くらいはいけるぞ」


 ちょっと謙遜したな。

 だが、初めての土地だし、マッチングのスキルで村ごとガードするつもりだし、理想論は言わんほうがいいだろう。

 村人たちは急いで、俺たちの背後に固まった。


 大きな村ではないから、村民全員で百人足らず。

 野良仕事に出ていた者も集まったらしい。


「お、おれの畑があ」


「なるべく残るように頑張るよ」


 嘆く村人に向かってそう告げる。

 彼は不思議そうな顔をした。


「頑張るってあんた。これは天変地異だぜ。人間が頑張ってどうにかなるものじゃ……」


「どうにかするために鍛えててな。そおら、来るぞ!」


 砕かれた山肌は、徐々に加速し、森を飲み込みながら村に迫ってくる。

 果樹園を粉砕しながら迫ってきた地すべりは既に土石流となり、村の囲いを押し潰しながら俺たちに迫った。


 村人たちが絶望の悲鳴をあげる。


「なあに、任せとけ!! ふんっ!!」


 俺は全身に力を込め、踏ん張る。

 俺の盾が土石流と激突し……。


 流れが俺のところで、ピタリと止まる。

 次々と押し寄せる、土砂とへし折れた木々の流れ。


 なかなかの重みだが、こんなものは魔王星を食い止めた時に比べればそれほどのものでもない。


 恐らくはジュウザが活躍してくれているのだろう。

 左手側の山からは、何も起こりはしなかった。


「そおら行くのじゃー!! ファイアーストーム発動じゃー!!」


 ディアボラが高らかに吠える。

 俺の背後がカッと熱くなり、村人たちがわあわあ叫んだ。


 燃え上がる嵐が発生し、それが上空へと舞い上がったのだ。

 そして土石流に降り立ち、それらを熱し、溶かして固めていく。


 なかなか大胆な作戦だな。


「よおーし、ボクもがんばります!」


「エクセレンはこういう時に不向きだと思ってたんだが」


「やれそうな気がします! 右側からも来ますし!」


 おっと、次なるガードの準備をせねばな!

 身構える俺の横に並んだエクセレン。


 彼女が握った棍棒が、輝くトゲを一層強く光らせているのが見えたのだった。

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