第27話 戦争終了、解散!
眼下では、王国軍と帝国軍が激しく争っている。
一見して分かるが、王国軍が押されていた。
「ピンチですよマイティ! 敵が強いんですか?」
「いや、そうじゃないな。帝国はずるをしている」
「ずる?」
「見てみよ。鎧を纏ってはいるが、中身は既に人間ではない」
ジュウザが指差した先では、槍で突かれた帝国兵の兜が落ちたところだった。
その下から現れたのは、牙をむき出しにした狼の顔だ。
獣人になっている。
「あっ、モンスターだ!」
「そうだな。帝国軍はモンスターと入れ替わってしまったらしい」
これはとんでもないことだ。
つまり、統制されたモンスターの軍隊が王国に攻めてきたということなのだ。
「これは魔王の仕業ですね! 許せません!」
「そうだな。では、許せないならば次にどうするか分かるか?」
「どうするんですか?」
「ここから弓で射掛けるのか? 拙者ならばニンジュツを用いて遠距離攻撃もできるが、ナイフの投擲となると数が足りぬな」
「うむ。ならばナンポー帝国軍の中に飛び込めばいいんだ」
俺の提案に、二人とも目を丸くした。
やり方はこうである。
「俺に掴まれ! しっかりとな。振り落とされないようにするんだ。大丈夫、落下の衝撃は俺がガードする」
「飛び降りるんですか!! うひゃー、大胆!」
「正気とは思えぬ!! 自由落下なのか!?」
二人がわあわあ言いながら俺にしがみついたのを確認する。
俺は盾を下に構えて、丘の崖部分からジャンプした。
「わああああああああ」
「ぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」
二人の声が尾を引いて流れていく。
俺はと言うと、落下の軌道を制御しているのだ。
猛烈な勢いで落ちるから、俺たちに気づいた兵士も反応ができない。
次の瞬間には、俺は地面に激突していた。
これをガッツリとガードする。
よし! 衝撃は殺しきった!
「安定のダメージゼロだな」
俺は二人をぶら下げたまま立ち上がった。
どよめくナンポー軍兵士たち。
なるほど、至近距離で見ればよく分かるな。
どいつもこいつも獣の顔をしてて、体格だって人間のそれじゃない。
モンスターが鎧と武器を持って軍隊を作ってたんじゃ、王国軍には分が悪いだろう。
だけど、俺も戦えればそれでいいバーサーカーじゃない。
一応聞いておいた。
「お前さんらって、人間が魔力でモンスターになっちゃったタイプ?」
『問答無用だ! 殺せー!!』
いきりたったモンスターの群れが押し寄せてきた!
話が通じないなあ。
「ふんっ! ガードだっ!!」
これを俺は、盾を全面にして押し止める。
そして押し返した。
『ウグワーッ!?』
勢いを跳ね返されて、バタバタと倒れるモンスターたち。
どうも仕草が人間っぽい。
やっぱり丘の上にいた連中も含めて、帝国軍は元人間と思ったほうが良さそうだ。
黒騎士とやらを倒したら、元に戻るのかな?
「さて、どうするマイティ。こやつらの首をまとめて飛ばす事は容易いが?」
「なんかそれをやると、決定的にこじれそうな気がするんだよな。凄く強いやつから与えられる恐怖って、一時的には従わせられるけれど、絶対に反感を持たれるだろ?」
「ほう、お主まさか、こやつらが人間に戻れたら仲間になるとでも思っているのか? 人間はそこまで単純ではないぞ」
「分かっちゃいるがな。だけど、人間側で仲違いばっかりしてたら、それこそ魔王の思うツボだろ。ここはちょっと理想論を通させてくれ」
ジュウザが頭巾の下で、笑った気配がした。
外からは彼の目しか見えないから、なんとなくだが。
「良かろう。では殺さぬようにこやつらを無力化するとしよう!」
俺のガードの影で、ジュウザが印を結ぶ。
指先を高速で、複雑に組み合わせるこの動き。
エクセレンが興味深そうに見ている。
「スイトン!!」
ジュウザが叫びながら、地面に手を当てた。
すると、大地が裂け、そこから水が吹き出してくるではないか。
『み、水がー!!』
『ウグワー!!』
ここは帝国軍のど真ん中なのだが、いきなりそんな状況になったので、彼らは総崩れになった。
王国軍が押し返し始める。
俺たちはと言うと、水で流されていく帝国軍の中をぐんぐん遡っていくのだ。
俺に肩車されたエクセレンが、何か発見したようだ。
「いました! 偉そうなのです!」
「よおーし、射て、エクセレン! 射撃はやれるか?」
「村では弓矢で動物を狩ってましたから!」
「バッチリだな! 頼むぞ!」
「はーい! うおー、いっくぞー!!」
弓を構え、矢を番え、狙いは一瞬。
エクセレンが矢を放つ。
当たりはしなかったが、帝国軍の偉そうなのの近くに突き刺さったようだ。
向こうが慌てる。
ほう、髭の生えたダンゴムシみたいなまん丸鎧の奴だな。
あの体型、もう完全に人間辞めてるな。
『なっ、何をしておる! あれを倒せ! わしを守れえー! わしの命令は黒騎士様の命令と同じぞーっ!!』
周りの兵士たちは、嫌そうな顔をして命令に従っている。
あのダンゴムシ、人望がない。
「ジュウザ、頼む」
「心得た。雑魚は任せよ」
ジュウザは駆け出し、獣人たちを素手の打撃で打ち倒していく。
鎧も何も関係ない。
殴ると巨体の獣人が、膝から崩れ落ちて動かなくなるのだ。
「クリティカルヒットの初級程度の応用だ。上級までは、確実に敵の首を飛ばすとまではいかん。ゆえに、雑魚を一人ひとり眠らせる程度ならこれ、この通りよ。拙者もお主と出会ってから修練を積んでな。クリティカルヒットの段階を自在に落とせる程度にはなった」
便利だ。
ちなみに特級より上のクリティカルヒットになると、いきなり制御不能になって周辺一帯の首を飛ばしてしまうらしい。
難しいなあ。
ジュウザが護衛の兵士を対処してくれるお陰で、エクセレンは射撃に専念できる。
「えいえいえいえいえい!」
矢をばんばん射つ。
どんどん狙いが正確になっていっているぞ。
ついに将軍の頭にストンと刺さった。
『ウグワーッ!!』
おお、死んだ。
軍隊の要であるダンゴムシ将軍が倒されたので、帝国軍の指揮系統は完全に破壊された。
どうやら、一人ひとりは獣人になって強力なのだが、指揮するモンスターがいないと系統だって動けなくなるらしい。
帝国軍の動きがばらばらになり、王国軍が押し込んできた。
そしてついに、帝国軍が敗走を始める。
凄い勢いで逃げるな。
逃げ去る彼らを、俺たちがぼーっと見ていたら、後ろから聞き覚えのある声がした。
「誰かと思ったら、君たちか、エクセレントマイティ!」
「ボーハイム氏ですか。戦場に出ていたんですね」
馬上から、きらびやかな鎧の騎士が降りる。
兜を脱いだら、サラサラの茶髪のボーハイム氏だった。
「ああ。自ら前に立ち、功績を挙げなくてはいけなかったからね。だが、助かった! まさか敵がモンスターだったとは……。そして君たちはまた、何かを見たようだな。詳しい話を聞かせてくれ」
王国軍の追撃は国境線まで。
ここに陣を敷き、ボーハイム氏は俺たちの話を聞く態勢になったのである。
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