“ダメージはゼロだ”追放された最強タンクによる勇者育成記

あけちともあき

勇者パーティー、大地に立つ編

第1話 俺は追放されてしまったがその先で一人の少女と出会うわけである

「追放されてしまった」


 俺は愛用の大盾を地面に突き刺し、腕組みをしながら唸っていた。


「不本意にもフリーランスになってしまった」


 そう、俺は自由なのである。

 というのも、俺は先程、長年所属した冒険者パーティ、フェイクブレイバーズから戦力外通告を喰らったのだ。

 ありていに言えばクビになったのだ。


 先程投げかけられた、心無い言葉を思い返す。


『武器もろくに使えない、攻撃も当てられない、シーフやレンジャーの真似事もできない、魔法も使えない、奇跡も使えない! お前はさ、そろそろフェイクブレイバーズのお荷物なんだよ』


『そうか……』


『昔、俺たちが弱かった頃はお前の世話になったさ。だが、俺たちは強くなった。ファイターの俺は剣技を覚えたし、シーフのローグは探査能力や暗殺スキルを得た。レンジャーのワイルドはあらゆる弓矢を使いこなすし、メイジのマジカは大陸随一の魔法の使い手になった。プリーストのプレイスは大司祭の地位まで与えられたんだ。なのに、お前はどうだ』


『そうか……』


『お前は昔も、今も、そのでかい体と盾で攻撃を受け止めるだけ! 今じゃ、俺たちも強くなって、お前の出番もなくなった。なあマイティ。お前は何ができるようになったんだ?』


『うむ。タンクが上手くなった』


『お前の出番はもう、無くなってるんだよ! マイティ。お前はお払い箱だ。フェイクブレイバーズの戦力外なんだ。なあマイティ、辞めてくれ。昔世話になったお前がこのまま役立たずになり、パーティのお荷物になっていく姿なんか、俺たちは見たくないんだ』


『そうか……』


『そういうことだ。反論はあるか?』


『むう……』


『じゃあな、マイティ。俺たちはこの先に進む。お前もお前の道を行け。キツい事を言って悪かったな。だが、お前もそろそろ自分の身の振り方を考えたほうがいいぞ』


 そう言って、フェイクブレイバーズは去っていった。

 ちなみに俺に散々キツいことを言ったのは、パーティリーダーのフェイクだ。


 大陸随一の剣士にまで成長した男で、かつて俺とともに大志を抱き、ハジマリ村から旅立った仲だった。

 まさかあいつが俺を追い出すなんてなあ。


「参った参った」


 俺は呟きながら、地面に突き刺さった大盾の前で腕組みをしているのだった。

 かれこれ二時間くらいこのままだが、いや、本当に困った。

 どうしたもんかな。


 だが俺はタンクである。

 タンクというクラスの本懐は何か。

 守ることである。


 俺は一人である。

 守るものがいない。

 我が身を守るのか?


 守ってどうする?

 攻撃はどうなる?


 俺の思考が堂々巡りになる。


「参った参った」


 俺は呟きながら、地面に突き刺さった大盾の前で腕組みをして、三時間くらい佇んでいるのだった。

 そろそろ四時間目になるかなという辺り。


「う、うわー!! たすけてえ~!!」


 なんとも情けない悲鳴が聞こえてきた。

 声質は高い。

 少年か、もしくは女のものか。


 だがこれは、助けを求めている声である。

 俺にとって、行動指針となりうるものだ。


「ぬんっ!!」


 俺は大盾を抜き、担いだ。


「待ってろ! 今行くぞ!!」


 声がした方向に走り出す。

 悲鳴あるところ、守るべき対象あり、だ!




 少女は絶体絶命のピンチだった。

 金髪碧眼、抜けるように白い肌の彼女は、宝石の嵌った額冠と厚手の布の服を身に着けていた。

 手にしているのは、粗悪な銅の剣。


 相手は自在に周囲を動き回り、隙あらば突撃を仕掛けてくる、一本角の大うさぎだった。

 とにかく動きが速い。


「あ、当たらない! ボクの攻撃が当たらない!」


 焦りと恐怖から、少女の持つ剣が震える。

 何発も角うさぎから攻撃を受け、少女は満身創痍だった。


「こ、殺される! ボクは魔王と戦わなくちゃいけないのに、こんなところで!」


 再びの角うさぎの突進を喰らい、少女はついに倒れ込んだ。

 思わず持ち前の弱気が顔を出し……。


「う、うわー!! たすけてぇ~!!」


 そう叫んでしまっていた。

 だが、周囲に人影はない。

 少なくとも、この数時間ほど、動くものは何もなかったはずだ。


 だから、自分めがけて突進してくる角うさぎを止められるものなど、どこにも……。


「今来たぞ!!」


 視界に割り込む巨大な影。

 それが、角うさぎの突進を真っ向から受け止めた。


「いいアタックだ!! だが、それじゃあ俺の守りは破れんなあ!」


 少女は、大きな背中を見上げる。

 くたびれたプレートメイルを身に纏い、とんでもなく大きな盾をかざしたその男。


 彼は少しだけ顔を向けると、笑みを作ってみせた。


「おいお前さん! 助けを求めていたな!」


「は、はい!」


「ちょうどよかった! 俺は今、フリーで途方にくれてたタンクなんだ! ちょっと守らせてくれ!」


「は、はい!?」


「そしてお前さんに頼みがある!!」


「は、はいぃ!?」


「俺は攻撃ができん!! 敵はお前さんが倒してくれ!」


「は、はいぃぃぃぃ!?」


 とんでもない無茶振りだった。

 だが、少女は立ち上がる。

 体はボロボロだ。


 それでも、致命的な一撃は目の前の男が受け止めてくれた。


 いや、受け止め続けてくれている。

 角うさぎが連続で飛びかかってくるのを、男は微動だにせずに食い止めている。


「いいアタックだ! いいアタックだ! おっ、今のも良かったな! だが俺の守りは抜けんぞ!」


 ついに、角うさぎは激高したか、大きく助走してから飛びかかってきた。


「おっ!」


 男の盾を蹴り上がり、その上から飛び込み、無防備な男目掛けて角を叩きつけてくる……!!

 骨が砕けるような音がした。


「っ!!」


 少女は目を見開く。

 角うさぎの一撃が、男の頭蓋を砕いたのか!?

 そう思った。


 だが、少女の足元に何かが転げ落ちてきた。

 それは、折れた角だった。


「今のはなかなかよかった! 単調な守りを破っての一撃! 俺でなければ致命傷だったな! だが、ダメージはゼロだ」


 男が宣言する。

 彼の頭には、兜が装備されていた。


 どういう技術を使ったのか、兜によって角を受け止め、一方的にそれをへし折ったのである。

 角うさぎが地面に落下し、ウグワーッと激痛にのたうち回る。


「今だぜ! やれ!」


「は、はい!!」


 少女は銅の剣を構えて、飛翔した。

 小柄な彼女でも、全体重を乗せて剣を突き刺せば……!


 ざくり、と肉を貫き、骨を断つ感触。

 角うさぎは一度、ビクリと痙攣し、すぐに動かなくなった。


「…………!!」


 少女は何が起こったのか分からない。


「おっ! やったな! お見事!!」


 男の声がしてようやく、自分が角うさぎを仕留めたのだと知った。


「ボ……ボクが、やった……!?」


「うむ」


 男の声がした。

 彼は大きな盾をひょいっと担ぎ、振り返る。


 全身をくまなく甲冑で覆った大男。

 だが、兜の奥に見える瞳が優しい。


「大したもんだぜ! おっと!」


 少女の体から力が抜け、倒れかかった。

 そこを、男が支える。


「もしかしてお前さん、一人旅か?」


「は、はい……」


「奇遇だな。俺も一人旅になったんだ」


「は、はい?」


「どうだ。お前さんがよけりゃ、ちょっとお前さんのタンクをやらせちゃもらえないか?」


「は、はいぃ?」


「俺はマイティ。一応、ベテランのタンクだ。お前さんは?」


「は、はい。ボクはエクセレン。その、一応、勇者です……!」


 これが、無敵のタンク、マイティと勇者エクセレンの出会いであった。



名前:エクセレン

職業:エクセレントファイター

Lv:1→2

HP:15→20

MP:6→9

技 :なし

魔法:マジックミサイル(下級) ヒール(下級) ライト(下級)

覚醒:未

武器:銅の剣

防具:革の服



名前:マイティ

職業:タンク

Lv:85

HP:1200

MP:0

技 :ガード強化(特級) カバーガード(特級) エリアガード(特級)

   マジックガード(特級) マインドガード(特級) パリィ(特級)

   ガードムーブ(特級) ヘイトコントロール(特級)

魔法:なし

覚醒:なし

武器:なし

防具:熟練のプレートアーマー、熟練のビッグシールド

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