第14話

 さて、今日はマーシーとの約束の期日である。

 今日までにエリオットと婚約破棄しろと言われたが、そもそも婚約していないので、特に変化はない。

 そもそもがマーシーの勘違いなのだから、べつに私が約束を反故にしたわけではない。


 そんな私はといえば、過保護の二人に挟まれ、あーんっと私が口を開けば、それぞれが作った手作り弁当を口へ運んでくれるという状況を楽しんでいた。

 もちろん、同時に口の中に放り込まれるのではなく、交互にである。


 エリオットもハワードも料理の腕は確かで、どちらの弁当もおいしい。

 あぁ、幸せ……。

 こんな状況、マーシーが見たら嫉妬で怒り狂うに違いない。


 そもそもこんな状況になったのは、半分くらいはマーシーのせいだ。

 そのせいで、私は利き腕を骨折して、包帯でぐるぐる巻きになったのである。

 だから、満足に食事もできない私のために、二人にあーんしてもらうという状況になったのだ。

 

「それでですね、今日は二人にお話があるんです。実はですね……、あーん」


 私は話していた途中だったが、エリオットが弁当を口へ運んできたのでそれを食べた。


「あぁ、これもおいしい! 私の好物を把握しているだけありますね! あ、それで話というのはですね……、あーん」


 私は話していた途中だったが、ハワードが弁当を口へ運んできたのでそれを食べた。


「おいしい! ハワードさんは、絶対にプロの料理人になれますよ! この私が保証します! あ、それで話というのはですね……、あーん」


 私は話していた途中だったが、エリオットが弁当を口へ運んできたのでそれを食べた。


「うん、おいしい! どれを食べても好物ばかり! 最高の弁当ですね! あ、それではいよいよ本題に入りますが……、あーん」


 私は話していた途中だったが、ハワードが弁当を口へ運んできたのでそれを食べた。


「おいしい! いったい、どうなっているんですか? 家庭で作ったお弁当なのに、お店の味がしますよ! あ、いよいよ話を本題に入りますが……、あーん」


 私は話していた途中だったが、エリオットが弁当を口へ運んできたのでそれを食べた。

 またまた、私の好物である。

 なんて最高なのだろう。

 しかし、このパターンをそろそろ終わらせなければいけない。

 次はハワードのターンだが、私は先手を打つことにした。


「あの、食べてばかりで、私、喉が渇いてしまいました。次は飲み物を口へ運んでください」


「え、飲み物なら左手でコップを持てるだろう?」


「そうですよ、できることは、ご自分でなさってください」


「はい……」


 変なところで厳しいな、この二人。

 しかし、確かにその通りである。

 私はコップに入った飲み物を飲んだ。

 そして、そのあと二人の手作り弁当を楽しんだ。


「さて、午後からも授業があるし、そろそろ教室に戻るか」


「そうですね、行きましょうか。あぁ、素敵なお昼休みだったなぁ……」


 私たちは教室に戻った。

 その途中で、ふと思い出す。


 あれ?

 何か大事なことを忘れている気がするけれど、なんだったかしら?

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