第5話

 (※マーシー視点)


「あの時の彼女の顔、傑作だったわ……」


 頭を押さえていて、痛みに苦しむあの表情……。

 なかなかの見物だったわ。

 これで、約束を守らないとどうなるか、少しは理解したかしら。

 さすがに抵抗しようという気は消え去っただろう。


「それにしても、エリオット様、ますます惚れてしまったわ。彼は、私のことが好きに違いないわ……」


 今日は、嬉しい出来事があった。

 エリオット様が、落ちていた私の櫛を届けてくれたのだ。

 あの女に投げたままで、拾うのを忘れていたけど、まさかエリオット様が拾ってくれるなんて……。

 私の日ごろの行いがいいから、神様がご褒美をくれたのね。


 エリオット様も、落ちていた櫛が私の物だとわかったってことは、誰の者かいろいろな人に聞いて回ってくれたのね。

 それだけのことをして私に櫛を届けてくれたのだから、彼が私のことが好きなのは、間違いないわ。

 私たちは、両思いだったのね。


 それなのに、あの女……。

 私のエリオット様に引っ付きまわって、なんてお邪魔虫なのかしら……。

 まあ、あれだけ痛めつけたのだから、きっと諦めるでしょう。


 ……でも、本当にあきらめるかしら。

 万が一ということもある。

 念には念を入れるべきだわ。

 そうだわ、約束の期日までの間、毎日呼び出して痛めつけようかしら。

 ええ、それがいいわね。


 そうすれば、約束通りエリオット様と婚約破棄するだろうし、何よりも、あの女が苦しんでいる姿を見るだけで楽しいわ……。


     *


「それで、具体的にはどうやってマーシーさんの嫌がらせを防ぐのですか?」


 私はエリオットに尋ねた。

 ここは、彼の部屋である。

 彼は椅子に座っていて、私はベッドに腰かけている。


「ある人物に頼ろうと思っている。僕が君たちの間に入ると、余計に話が拗れそうだからね」


「確かにそうですね。それで、そのある人物って、いったい誰なんですか?」


「僕の親友だ。少し変わった人物だけど、いい奴だよ。明日、彼と顔合わせしよう」


「そうですね。でも、いくら親友の頼みであっても、わざわざ他人である私の問題を手伝ってくれるでしょうか?」


「彼なら手伝ってくれるよ。僕の頼みだからというだけではない。彼の目的とも一致するからね」


「彼の目的? なんですか、それは?」


「まあ、明日彼と会った時に話すよ」


「そうですか。その人、いったいどんな人なんですか?」


「うーん、僕のクラスの女子たちは、彼のことをかっこいいと言っているね」


「かっこいいのですか? ほかには?」


「まあ、男の僕から見ても、彼の顔は整っていると思うよ」


「そうですか。ほかには?」


「客観的に判断すると、彼はイケメンと呼ばれる部類に入ると思う」


「なるほど……」


 私は仰向きになった。

 今日はいろいろあったので疲れてしまった。

 マーシーの嫌がらせを防ぐのを手伝ってくれる人物に、明日合える。

 それが少し楽しみだった。


 エリオットが、その彼の情報を色々と話してくれたので、どんな人物なのか想像してみた。

 えっと、クラスの女子からはかっこいいと言われていて、男であるエリオットから見ても顔は整っていて、客観的に判断するとイケメンの部類に入る人物……。


 あれ?

 彼に関していろいろ教えてくれたのに、イケメンってことしかわかっていないのですけれど……。

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