四、
女の子は僕を見て、そのまま足に視線を移すと、
「病院には、行きましたか?」
そう言葉を掛ける。初めてまともな言葉を掛けられた気がする。
「行ってないけど。バスケの練習中にぶつかって痛めただけだから大丈夫だと思う」
「バスケ……」
バスケの言葉に反応した女の子は僕をじろじろ見てくる。なるほど人の視線とはこうも分かりやすいものなのかと実感させられ、今度から気を付けようと思う。
女の子は僕の格好に納得したのかボソッと一言、
「そうですか……念のため病院へ行っておくことをオススメします。何もなければそれで良いんですから」
それだけ言うとまた商品の方に視線を戻し選び始める。
前回会ったときより取っ付きやすいかもしれない。そんな気がした僕は会話を試みる。
いつもはこんなに積極的に話す人間ではないので自分でも驚いている。
「あのっ、君は何を買いに来たの?」
「……湿布を」
視線は商品に向けたまま、ポツリと答えてくれる。僕的には会話のキャッチボールが出来て嬉しかったのだが、女の子の方はどうかは分からないけど感触は悪くない気がする。
「あぁ、自転車の練習で打ったとか?」
ムスッとした顔になりながらもコクりと頷く。冷たい態度だけどなんだかんだで答えてくれる女の子に優しさを感じてしまうのは、だいぶんこの子に毒されている気がする。
「他の買い物のついでですから」
それだけ言うと目的の湿布を手に入れたのか、女の子は会釈をして立ち去ってしまう。
その背中を見送ってしまった僕は、名前を聞いておけば良かったと後悔する。
初めて出会ったときより会話できたことに喜んでいて、そこまで考えが及ばなかった。
これだから日頃から女子と話すことに慣れていない僕には、彼女の影すらないのだと自分で納得してしまう。
━━名前も聞かなかった、いや聞けなかったかな? とりつく島もなかった?
お互い話すの苦手な方だから仕方なかったのかな?
普通、名前も住んでいるところも知らない二人が偶然再会したらもっと驚くよね。
今思えばもっと早く名前聞いていれば良かった。後悔先に立たずって本当なんだなって実感してるよ。
勿体ないことしたな━━
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