五、

「逆に質問です。何をしているように見えますか?」


 女の子は苛立ちを含んだ声で尋ねてくる。  

 

 何もそんなに怒らなくてもいいじゃないかと、何でこの子はもっと優しい言い方はできないのかと、少し腹立たしい気持ちを胸の内で抑えながら冷静に努める。


「自転車の練習……かな?」


「そうです、自転車に乗る練習をしています。分かってるなら聞く必要ありませんよね」


 つんけんとした態度で、突き放すように言う女の子はハンドルを握り直すと自転車を押して僕から離れていく。


 倒れた際に右足を痛めたのだろうか。ピョコピョコ軽く跳ねながら自転車を押して歩く姿が気になったが、これ以上何を言っても時間の無駄だろうし、なにより僕の心が磨り減っていくだけなのは火を見るより明らかなので、胸に上がってきた言葉は吐き出さないことにする。


 川の流れを見て悩みを洗い流すと言った当初の目的は果たされず、名前も知らない女の子に怒られるという、散々な結果だけを連れて帰ることに理不尽さを感じてしまう。


 だけども、お陰でちっぽけな悩みは忘れてしまえそうだから良かったのだと言い聞かせ僕は、女の子に背を向け河川敷を離れて行く。


 バタンッ!


 歩きだしてすぐに背中の後ろで響く音に思わず振り返ってしまう。


 日が落ち始めた河川敷の草や土は燃えるように赤く染まっていて、赤色の中に自転車と一緒に倒れ空を見上げる女の子の姿があった。


 真っ直ぐに空を見る女の子は夕日の色に染まっていて、そんな彼女に儚さと強さの両方を感じてしまう。


 泣いているような、怒っているようなその姿がすごく印象的で、瞼の裏に強く焼き付けたまま帰路へつく。



 ━━それがキミとの出会い。



 第一印象が悪い方が、ちょっとした切っ掛けで好印象に変わるって誰が言ったんだろうね。


 第一印象悪かったら、もう会いたくないし近付きたくないよね普通。


 でも、そうはならない。『運命』なんて言葉を使う羽目になるなんて、らしくないねってキミは笑うんだろうね。でもね、言わせてもらうよ、この出会いは『運命』だよ━━

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