【短編】落ちこぼれ悪魔の私は求愛されても困ります――王子とわたしの王国再興物語

渡辺 とも

第1話 悪魔の女の子リリア

 わたしの名前はリリア。


 14歳の悪魔の女の子で悪魔の園に住んでるの。


 悪魔学校に通って、立派な悪魔になるよう頑張ってます。


 今日は夏休み中の登校日。久しぶりすぎて学校にいくのがだるい。


 通学路を歩いていると、後ろの方から馬車の音が近づいてきた。


 わたしのところまで来ると馬車はスピードを落とした。


 馬車から悪魔の女の子が顔を出した。



「リリア、久しぶり」


 彼女は幼馴染の同級生キャロライン。


「リリアは夏休みに魂もらえた?」


 悪魔は人間と契約を結ぶときにその代償として魂を受け取るの。人間の魂は悪魔の能力を高めてくれるし、たくさん持っていることは富の象徴でもある。


 悪魔学校に在籍中は人間との契約は危険とのことで禁止されているんだけど、高学年ともなるとこっそり契約して魂を手に入れたりするのだ。


「もちろんゼロよ、ゼロ」


 キャロラインはそうだろうね、という顔をした。わかっているなら聞かないでほしい。


「私は3個しか手に入らなくて。4個ももらった人がいるらしいのにね」


 はい、完全な自慢です。自慢したくて話しかけてきたのね。


 悪魔としての能力が高いほど人間の魂を手に入れやすい。キャロラインは学年で一番できがいいので、3個なんて余裕なんだろう。


 私は学校では落ちこぼれなので夏休みどころか入学以来、人間との契約なんて一つも取れたことがない。



「おはよう」


 馬に乗った男子生徒がわたしたちを見てあいさつをしてきた。


 正確にはキャロラインに向かって。外見もキャロラインの方がずっといい。


 とにかくゴージャスなの。


 髪の毛は赤色、青色、それに紫色のグラデーションで、ウェーブがかかってボリュームがあって派手で、鼻は高くて唇は少し厚め、モデルみたいに身長があって、胸は大きくて足元を見れないんじゃないってくらいある。


 肌は悪魔特有の薄く緑がかった色をしている。いつでも話題の中心で、クラスや部活でも何か決めるときには彼女を中心に話が進んでいく。当然男の子たちにも人気があって、学年の半分の男子は彼女に告白したことがあるとの噂だ。


 さて、私といえば。


 髪の毛は金髪ストレートでグラデーションもない。


 身長はやや低めで胸もやや小さめだ。自分ではひどくはないと思っているけど? 


 鼻は高くないし、唇は薄め、肌は白くて悪魔らしくないと言われている。


 とにかくちんちくりんなんだ。角度によってはかわいく見えるんじゃないかと思っている。教室でもモテない女子グループで集まってこそこそやってるわ。


 これが悪魔間格差ってやつね。神も仏もない話ね。いや、私は悪魔なんだけど。


 キャロラインの馬車は歩く速さまでスピードを落としている。彼女はまだ話を続けたいようだ。さっさと行けばいいのに。


「リリアはいいよね、ずっと使い魔と一緒で」


 悪魔の使い魔にも天と地ほどの差がある。キャロラインの使い魔はなんとドラゴンだ。


 本人の実力もあるが、財力のある家なので専門の使い魔捕獲士を雇って手に入れたらしい。


 3年に1回は噴火するという魔の山まで行って手に入れたとのことだ。


 さすがにドラゴンと一緒に登校はできないから寂しいということらしい。


 私はといえば落ちこぼれにふさわしく、わけのわからない毛皮の塊のような魔物。


 お父さんと一緒に近くの山に行って見つけてきた。


 手のひらサイズで全身が毛におおわれている。どっちが頭なのかお尻なのかもわからない、もこもことした魔物だ。


 図鑑にも載っていなくて、名前はわからない。特技は寝ることとゆっくり動くこと、物忘れをよくすること。これを特技と言っていいかわかんないよね。


 ピーピー鳴くからピピって名付けて、いつもポケットの中だ。


 つまり、幼馴染は使い魔がドラゴンでつらいのよっていう自慢をしたかったのだ。


「え~、使い魔がドラゴンの方がうらやましいよ」


 たぶん、こういってほしいんだろうなって答えをしておいた。




 嫌な時間が続いたが、自慢し尽くして満足したのか、馬車はスピードを上げて先に行ってしまった。


 愛想笑いして見送ることができた。




 学校が終わって水晶で人間界を見た。


 わたしだって人間の魂が欲しい。


 イケてない女子グループの中で自慢できるし。


 基本的に悪魔の召喚は早い者勝ちなので、近くにいると呼ばれやすい。


 例えば魔法陣を書き始めたとか、復讐に燃えている人を見つけたらその近くで待つのが契約獲得のためには手っ取り早い。


 人間界をあちこち眺めていると、戦争が終わって荒廃している地域を見つけた。


 こういった場所では悪魔の召喚を願うものが出やすい。


 しばらくその地域に狙いを絞って探したところ、悪魔召喚がありそうな場所を見つけたのだ。


 それは人里離れた小屋の中。ロウソクに照らされながら、憔悴しきった男が魔法書を見ながら魔法陣を机の上で書いているのを見つけた。


 これから悪魔を召喚しよう、そんなところか。


 ちなみに、別に魔法陣とかは決まりなどはない。


 要は悪魔を召喚したいという意思を示せればよいのだ。


 もちろん強制的に召喚する術もあるが、普通はそんなの必要ない。


 とにかく、これは初めての魂獲得のチャンス! 


 それに、青みがかった黒色の髪、整った顔立ち、引き締まった体つき。やつれているが、かっこいい。どうせ魂をもらうならイケメンの魂にかぎる。


 わたしはその日の夜、霧を抜けて人間界へと向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る