許さないって楽しいの?

卯野ましろ

第1話 わたし、ずっと許されないの?【赤波江】

「この前は本当に、ごめんなさい」


 目の前にいる女子二人に、私は頭を下げる。すると彼女たちの返事は……。




「いやあ~、ダメだったねぇ~」

「うん……」


 私の謝罪は、二人に受け入れられなかった。


「今日の謝罪も、ざぁ~んねえぇ~ん………」

「……」


 そう、わたしの二人から許されない謝罪は何度も続いている。これで何回目となるのだろう。とりあえず、一ヶ月はこの状態が続いているというのは確かだ。


「あっ、ごめんごめん! 茶化しているつもりはないの……」

「いや、わたしの方こそ……ごめん。黄瀬きせちゃんが茶化しているんじゃなくて、和ませようとしているのは分かるよ。本当に、ごめんね。黄瀬ちゃんは何も悪くないのにね。むしろ付き合わせている、わたしが悪い……」


 わたしが二人とケンカしてしまっても、わたしの側から黄瀬ちゃんは離れないでくれている。わたしと違って黄瀬ちゃんは、あの二人とケンカしているわけでもないのに……。わたしが孤立しないようにと、わたしのことを思って、一緒にいてくれる黄瀬ちゃん。感謝している。今こうして、わたしが学校の休み時間に惨めな思いをせずにいられるのは、黄瀬ちゃんのおかげでもあるのだ。

 ……それでも淋しいし、つらいと思ってしまうのは、やはり贅沢だろうか。彼女たちを怒らせたのは、わたしなのに。


「やっだぁ~、そんなこと言わないでよぉ。うちら友達じゃん! きっと、あの二人と仲直りできるって! ずっと応援しているよ、うち!」

「ずっと……」


 ずっと。

 黄瀬ちゃんは励ましてくれたのだろうけど、わたしはゾッとした。

 これ、ずっと続くの?

 終わらないの?

 もしかして、わたし……。

 一生あの二人から、許してもらえないの?

 

「……カバちゃん? うち、何か変なこと言っちゃった?」

「あっ、ごめんごめん!」


 心配してくれた黄瀬ちゃんを見て、わたしは焦った。せっかく、わたしを元気付けてくれているのに……。

 いけない、いけない。

 こうなったのも自業自得なのだから「これ、ずっと続くの?」なんて、わたしが思ってはならない。

 わたしは今、被害者じゃなくて加害者。

 そんな奴が、悲劇のヒロインぶっちゃダメ……だよね。


「まっ、元気出しなよカバちゃん! うち、二人の様子を見てくるね~!」

「うん、ありがとう黄瀬ちゃん!」


 黄瀬ちゃんは、あの二人の元へと向かった。これも、わたしを気遣ってくれているに違いない。きっと、わたしに考え事をする時間を与えてくれたんだよね、黄瀬ちゃんは……。


「……ベイビー、マジ大丈夫?」

「へっ?」


 黄瀬ちゃんが去って数秒後、下を向いて着席していると、わたしを気遣う声が聞こえてきた。振り返った先にいたのは……。


「コムちゃん、チャチャ……」


 声の主は、小紫こむらさきさん。そして彼女の隣には、茶園ちゃぞのさんがいる。

 この二人は、わたしのことを「ベイビー」と呼んでいる。わたしの「赤ちゃん」という呼び名を聞いた彼女たちが「それならベイビーが良くない?」「うんうん。私も、そっちのがオシャレで好き!」と言って、付けてくれた愛称だ。

 わたしは名字が赤波江あかばえで、そこから色々なニックネームを付けられている。

 主に黄瀬ちゃんが呼んでいる、カバちゃん。

 よく笑われながら呼ばれる、赤ちゃん。

 恐らく「映え」ではなく虫のハエからきているであろう、バエちゃん。

 そして……わたしが最も気に入っている、ベイビー。


「コムちゃん……その言い方、キザな男の人みたい……」

「あ、確かに。私も、そんな風に聞こえちゃったわ」

「そ、そうかなぁ?」


 わたしたち三人は笑い合った。おもしろく感じた、わたし。そんなわたしに共感してくれた、チャチャ。そして少し照れている、コムちゃん。

 コムちゃんとチャチャは同じグループ(給食とか掃除とかの班ではなく、自然な流れで作られる仲良し集団のこと)ではないけれど、わたしの大切な友達二人だ。わたしがケンカしてしまう前から仲が良い。

 楽しい……。

 それにしても、どうしてかな。

 さっき黄瀬ちゃんといたときより、今の方が楽しい。

 黄瀬ちゃんには悪いけど。

 黄瀬ちゃん、ごめん!


「それはそうとベイビー……この際だから、あたし! はっきりと言わせてもらうよ!」

「えっ? な、何を?」


 突然コムちゃんの顔付きが変わり、わたしは体を少し震わせた。真剣な顔をしているコムちゃんの横で「うんうん」とチャチャが首を縦に二回軽く振った。


「……あの三人さぁ、なーんか怪しくない?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る