第42話 ピュアピュア幽霊さん
42話 ピュアピュア幽霊さん
「……つまり、そこのもふもふ幽霊ちゃんと二人、同居状態だと」
「まあ、そんな感じです……」
太一はすみれの圧に負け、何もかも隅から隅まで今の現状を全て話した。
突如現れた幽霊と同居していること。本当は恋仲にはないが、すみれへの紹介方法を悩んだ末に一日だけ彼女のフリをしてもらっていたこと。そして、太一は片想いではあるが彼女に想いを寄せていることも(これに関しては気を利かせたすみれがお茶を入れてきて欲しいと一瞬幽霊に席を外させ、吐かせた)。
(くそぅ、なんでこんなことに……)
出会った瞬間に抱擁を始めるほどに幽霊に一目惚れしたすみれのことだ。本当は彼女ではないことを明かせば、本気で奪いに来かねない。だからこの秘密はなんとしても守り抜きたかったのだが、姉には弟の考えていることなど手に取るように分かるようだ。
「そうか。……まあ、いいだろう。幽霊なら年齢もあまり意味をなさないしな。姉としては弟が歳下好き……いや、ロリコンだったことに衝撃を隠し切れないではいるが」
「ロリコン!?」
「ろりこん……?」
言葉の意味がわからずに首を傾げる幽霊を、太一はチラリと見る。
ロリコンではないと、自信をもって言えるだろうか。元々そういう趣味は微塵もなかったが、今一目惚れをして想いを寄せているこの人、いやこの幽霊は、少なくとも大人な姿はしていない。ハッキリ言って、圧倒的に子供寄りな容姿だ。
「違う、とは言えないだろう?」
「……ノーコメントで」
「沈黙は肯定とみなすぞ」
「あの、太一さん? ろりこんってなんですか?」
「幽霊ちゃん。ロリコンと言うのはだな……」
「幽霊さんに変な言葉を教えるなぁ!?」
すみれはふぅ、と小さく息を吐くと、一度お茶を啜って。太一への詰問を終えると次は幽霊の方をじっと見つめる。
「して、幽霊ちゃん。君は弟のことをどう思ってるんだ? 一人の、男として」
「……ふえっ!?」
「な、何聞いてんだよ姉ちゃん!?」
ぼふっ。幽霊の顔が紅潮する。
きっと太一と出会って間もない頃であれば、涼しい顔でただの同居人だと言えただろう。
しかし、鏡の事件から始まり少しずつ太一のことを意識し始めていた今の幽霊に、そんなことはできるはずもなく
「た、ただの同居人さん、でしゅっ……」
緊張と謎の羞恥心から来る呂律の悪さでたじたじになり、最後の語尾で噛む始末。もう幽霊にとって太一という存在は、ただの同居人で済ませられる存在では無くなってしまっているのだ。
「む、違うぞ幽霊ちゃん。一人の男として、だ。好きなのか、嫌いなのか。かっこいいと思っている、魅力的では無いと思う。そんな感じの答えを待っているのだよ」
「う、あぅあ……えっと、そのっ!」
おろおろ、おろおろ。
しばらく目を泳がせながら脳内で、幽霊は太一との日々を振り返る。
彼がどう映っていたのか。彼のことを、どう思っていたのか。
容姿のことに関しては特に何も思うところはない。ごく一般的な、かもなく不可もなくな一般人。
だけど、何故か一緒にいると心があったかくなる。言葉を交わすと気持ちが高揚して、匂いを嗅ぐと幸せになってすごく落ち着く。
(わ、私は……結局太一さんのことをどう思って!?)
かっこいい……と思う瞬間はあった。優しいと思う瞬間も、もっと一緒にいたいと思う瞬間も。ただそれがなんなのか、どういった言葉で表していい感情なのか。以前にも似たようなことを考えたことがあったが、その時同様……答えは出なかった。
「分かり、ません……。ただ、これからもずっと一緒にいたいとは、思ってます……」
「!!?」
「!!!!!????」
意を決して、本音を短くまとめて言葉にする。数十秒考え抜いて出した、幽霊にとってはどったつかずでハッキリとさせられなかったごまかしの答え。
だが、それを受け取った者たちは────
(ふむ。幽霊ちゃんが義妹になる日は案外近そうだな。太一のやつ、やるじゃないか!)
(ず、ずっと一緒にいたい!? それってつまり、け、けけけけ結こ────!?)
一人はむふふんっ、と将来のことを考えながら満足そうに。もう一人は幸せと動揺と興奮で心臓がタップダンスを踊りながら、身体はそれに合わせて暴れ出しそうなほどに壊れかかっていた。
「あ、あの……すみれさん? どうして嬉しそうなんですか?」
「ふふふっ、気にする必要はないよ。それより幽霊ちゃん、これからは私のことを『お姉ちゃん』と呼ぶ練習をしてみようか」
「っ……好きだ……可愛い……アァッッ!!」
「?????」
すみれの言葉の本当の意味も、隣で小声で何かを呟きながらわなわなとしている太一のその動きのわけも分からない。
幽霊は今日もピュアピュアである。
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