第23話 幽霊さん、ネットに触れる

23話 幽霊さん、ネットに触れる



 カタカタ、カタカタカタカタカタ。


────カチッ。


「はぁ、やっと一段落……」


「お疲れ様です。なんだか忙しそうですね?」


 日曜日。大半の人が休みを享受するその日は、太一にとっては休日であると同時に辛い日でもある。


「いやぁ、大学の課題が溜まってまして」


 今の時代、課題は紙ではなくパソコンやスマホからサイトを通じての提出を求める大学教授は多い。


 太一の受けている講義でもその大半は課題提出をネットでするという形を取っており、そのために大学進学前の春休みでわざわざパソコンを購入した。


 まあ、そんなことは置いておいて。何故太一にとって日曜日が忙しい日であるのか。……それはズバリ、一週間分の課題を溜め込むからである。


 月曜日の講義でも金曜日の講義でも、基本的に太一の大学では課題の提出期限はその週の日曜日の二十四時までとされることがほとんど。学校にいる時は「勉強しなければ」という焦燥感に駆られて真面目になる太一だが、家では怠け者。必然的に毎週、日曜日に全ての課題を片付けるのが日課になっていた。


「でも、やっと落ち着いたところです。タイピングのしすぎで指が疲れちゃいましたよ……」


「タイピング……?」


 ずずず、と熱々のお茶(一度用意してからわざわざ数分待って飲める温度にしたもの)を啜りながら、幽霊は聞いたことのない単語に頭の上にはてなマークを浮かべる。


「タイピングっていうのは、さっきまで俺がやってた文字を打つ作業の事です。ほら、このボタンがいっぱいついたやつを使って」


「ああ、なるほどなるほど。やってましたねぇ」


 はふぅ、と身体を温めながら落ち着いた息を吐く彼女はゆっくりと太一の隣に寄り、キーボードをツンツンと指で触った。


 なんだかそれを見て猫じゃらしにはしゃぐ猫に似たものを感じながら、太一はその小さな頭を撫でそうになる衝動を必死に抑えて会話を続ける。


「幽霊さん、パソコンは初めてですか?」


「はい。存在は知ってるんですけど……触ったことはないですね」


 太一は、いい機会だと思った。


 幽霊は自分のスマホも持っていなければ、パソコンも今触れたのが初めて。今の時代便利なネット文化を知らないというのは、かなり勿体ない。


 それに、大学の講義でどうしても家を開けなければいけない時間、パソコンを彼女が触れるならばいい暇つぶしにもなるんじゃないだろうかと、そうも考えた。


「よければ使い方、教えますよ。基本的なことだけでも覚えておくととても便利ですから」


「いいんですか? では、お言葉に甘えます!」


 ちょこん、と正座をしながら少し嬉しそうに、幽霊は笑顔を見せる。


 実は彼女自身、パソコンにはかなり興味があった。太一がいない時、一人でこっそり弄ってみようとしたこともあるのだが……そもそも電源ボタンがどこか分からなくて、断念してしまった過去を持つ。


 太一とてさほど詳しいというわけでもないが、今の時代に生きる若者として、多少のネットスキルは身につけている。ネット初心者の幽霊に教えるには、充分な知識量だ。


「では、まずは文字の打ち方からですね。そのあとに検索の仕方とか動画の見方とかその他諸々、教えられるだけ教えますよ」


「よろしくお願いします!」



 幽霊さんのためのマンツーマンネット講座、スタートである。

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