きょうを読むひと~イベントにご注意~

大月クマ

大通りのイベントにて

 ああ、どうもおはようございます。こんにちは。こんばんは。

 あっ、今須います阿佐比あさひです。


 木枯らしが吹く中、皆さんどうお過ごしでしょうか?


 今日は祝日。新ヶ野あらがの市を護る(?)地主神――僕にとって疫病神――の『長月ながつき』様の前に座っています。


「お主……帰った方がいい」

「はい!?」


 駅前の大通りで、市のイベントをやっているのですが、何故か長月様が出店していたのです。

 えきというのでしょうか? 算木さんぎとかいう木の棒と、筮竹ぜいちくとかいう長い竹串を使う占い。

 客は誰もいませんが……

 小学生が、ボーッと座っているだけで、不憫に思い座ったわけですが――


「いや、マジで早く帰れ!」

「あの……や、長月様。僕はいなくなったみんなを探して欲しいのですが……」


 イベントがあるから、みんなで行こう! と、言い出しっぺの一夜先輩。太田、鵜沼、伏見さんまで、着いた途端の人混みに紛れ込んでしまいバラバラ。

 あっ、僕は迷子ではありませんよ。高校生にもなって、迷子なんてそんなぁ――

 それで、ひとりでフラついていたら、疫病神を見つけたわけです。

 占いをやっているから、冷やかしも含めて、みんながどこに行ったのか聞きたかったのですが……何故か、「今日の占い」をやってくれました。


「だから、帰れと行っている。真っ直ぐ電車に乗って帰れ」

「もういいです!」


 話が通じないと、最初から分かっていたので、僕は丸イスから乱暴に立ち上がりました。


「ああ……帰るなら、1回500円!」


 あの疫病神。占い代まで取っていった。

 まあ冷やかしだったのだから……仕方がないか。

 出雲からの帰りの電車代も、先輩と神様からも返してもらっていないのに。

 そもそも、後で聞いてみたところ、長月様は姿を消せるとか。なんで神様の分子供料金を、僕が持たなくちゃいけないんだ。


 マイナス500円。


 ※※※


 しばらく出店が並ぶ大通りを歩いて行くと、歩行者天国になっている場所があった。真ん中には音楽とか、ダンスとかのパフォーマンスをしている人達がいる。

 周りを見回していると、仮装している人が増えてきた。


 ――ハロウィーンは、先月だろ?


 と、思ったが駅前でもらったパンフレットによれば、仮装大会があるとか。

 歩行者天国の中央あたりに仮設のステージが造られている。そこに向かう者、すでにステージから下りた者でごった返している。

 ステージの上を見てみると――


紅葉くれは、いいですねぇ!」


 普通、ステージの下からフラッシュが焚かれるだろう。だが、それは確実にステージの上から強い光が何度も発せられている。


 ――何やっているんだ?


 カメラを構えているのが、ステージを駆け回っている。うちの学年で、奇行が激しいで有名な加納かのう青葉あおば。でもって、ステージの真ん中でまんざらでもなく……いや、確実にノリノリでポーズをとっているのは、妹の紅葉さん。確か彼女は、読者モデルかなんかの本職のはずだ。スタイルもいいし、顔もいい。

 カメラを持って騒いで走り回っているも姉の青葉も、スタイルはまだしも、落ちつこうよ。

 キミら審査される側なんじゃないの?

 それはそうと、ふたりは何のコスプレしているんだろうか?

 ふたりともセーラー服を着ている――ちなみにうちの高校はブレザーだ。ふたりとも下は藤色。青葉は短パンで、紅葉さんはプリーツスカートを穿いている。


 ――何かのゲームかアニメのキャラか?


『あっ、ありがとうございました! 加納姉妹のでした!』


 散々、写真を撮りまくっているだけのふたり組。当然のようにステージから、引きずり下ろされた。


「あッ! たしか……アマスくんですよね」

今須いますです。なんでみんな僕の名前を間違えるんですか?」


 ステージから降ろされた青葉が僕を見つけた。相変わらず、カメラを僕に向けてくる。


「勝手にとらないで下さい! お返しに……」

「とッ、撮らないで!」


 持っていたスマホを向けると、青葉は顔を隠し、後ろを向いていた紅葉さんの陰に隠れた。

 散々、人にカメラを向けてくるくせにして、自分が撮られるのは嫌いなのかこの人は……

 その時、紅葉さんがこちらを振りかえる。


「ああ、アマ……」

「今須です。今須阿佐比あさひ


 紅葉さんこの人も間違えようとしたので、先回りして訂正した。


「ゴメン。姉はカメラを向けられるのは嫌いなのよ。その代わり、私を撮って!」


 と、腰に手を当ててポーズを撮ってくれた。

 なんとラッキーであろうか! だが――


「撮るなら1回千円!」


 隠れていた青葉が、手を出してくる。


 ――お金、取るのかよ! マイナス千円……


 ポケットに手を入れかけたが、紅葉さんが制止した。


「冗談だってば。それより、神様からのお告げ。ちゃんと聞かないと!」

「お告げ? 何の話ですか?」


 はて、そんなものを聞いただろうか?

 その時、青葉のほうが偶然目に入った。彼女の瞳、大きく目を開いて虹色に光っている気がした。


「ヤバい。私達もここから逃げ出さなくちゃ」

「そうなの? じゃあね!」


 と、ふたりは逃げだし、人混みの中に消えて行ってしまった。

 まだ仮装コンテストの結果発表前だというのに……


 ――何を慌ててるんだろう?


 相変わらず不思議な姉妹だ。

 再び、歩き出した僕の前に知った顔が現れたのだが――


 ※※※


「おい、太田!」


 と、声をかけたが人混みもあるのか、気が付かない。それよりも何かから必死で逃げているようで、目の前を通り過ぎても気が付かなかった。


 ――僕ってそんなに影が薄いのか?


 そう思っていると、人混みを縫うように走っている人物がいる。


「丁度いいところに! 太田に逃げられた。お前が来い。イマス!」

「だから、僕は今須。って、あってるか……」


 左手首を掴んだのは、人狼族の鵜沼さん。尻尾が隠れていないが……と思っていたが、スルスルと穿いている短パンの中に潜り込んでいく。


「何があったんですか? 僕をひとりにして……」

「あっちで大食い大会をやっているんだ。フライドチキンが食べ放題だ!」

「だから?」

「ペア戦なんだよ。付き合え!」


 と、強引に引っ張っていこうとした。だが、僕の右腕が重たくなった。


「やっと見つけた!」


 今度は何だと思ったら、小学生……失礼。一夜先輩が僕の右腕を抱え込んでいた。


「借り物競走で探していたのよ。早く!」


 と、紙切れを握り締めている。


「先輩、こっちが先客だ!」

「あっ! オオカミ少女は放っておいて、こっちに来て!」

「特賞が、ハンバーガー1年分の割引券!」

「1等、温泉旅行なのよ!」

「先輩! まだ夏休みの出店の買い出し、お金払ってませんよね」

「数ヶ月前のことなら忘れたわ」


 頼むから、僕の出雲から帰ってきた旅費だけは返して……いやいや、そうじゃない。なんで僕だけ……


『いや、マジで早く帰れ!』


 紅葉くれはさんが言っていた神様のお告げって、あの疫病神長月様の占いのことだったのか!?

 今、僕は右と左から、引っ張られている。腕がちぎれる……というわけではない。確実に力の強い左側の鵜沼さんに引きずられ、一夜先輩が踏ん張っている状態だ。

 読者諸君は、「ハーレム」だの「リヤ充爆発しろ」だの思っているかもしれないが、恥ずかしい。人混みの真ん中で、痴話ゲンカみたいなことされて、正気でいられると思うか!


 なんかあったよなぁ。そう、大岡裁きとか……昔、子供を取りあう生みの母と育ての母の、引っ張り合い。結局、子供が泣き出して離した方が、親と認められたんだっけ?

 何か叫べば……いや、その前にこの場に大岡様がいない。


「…………………………仁美? 一夜先輩?」


 大岡様! じゃなかった。人造人間の伏見さんが現れた。


「たっ、助け……て?」


 僕が助けを求める前に、伏見さんは異常なスピードでふたりの後頭部に手刀を叩き込み。気絶させてしまった。


「そこまでしなくても?」

「…………………………………………お困りだったようで」

「確かにそうですが、気絶させることは――」

「…………………………実は困っています」


 正直、この人と話していると疲れる。

 機械語を日本語にするのに時間がかかっているのだろう。だが、何でも出来そうな伏見さんに困りごととはどういうことだろうか。


「わたし………………カラオケに出てみたいのです」

「カラオケですか?」


 と、指をさした。

 指した方を見ると先程まで、仮装コンテストをしていたステージ。

 カラオケ大会と看板が変わり、飛び入り参加OK。ペアでどうぞ、と……


 そのために僕を探していた?

 そんなことはないでしょう。ふたりも気絶させた理由がカラオケのお誘いとは――


「………………………………ダメですか?」


 無表情のはずの伏見さんがしおらしく見える。なんか恥ずかしがっているようだ。

 珍しいこともあるものだ。だが、彼女が勇気を出して誘ってくれたのだ。


 行くしかないでしょ!


「もちろん、行きましょ!」


 僕は本当の悲劇が、待ち受けているとも知らずに、安請け合いをしてしまった。

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