花駆ける春(11)

 盛冬二月。

 都や荒地での経験をもとに、長子オイルタンが元服するまでに、ホアラを七州一の都市にする野心を秘めて、サレは代官として、に戻った。

 せんちょうにつづき、ホアラの代官の職も、サレは父ヘイリプの跡を襲ったわけだが、父とはちがい、ノルセンの代官職は名目上のもので、実質上の領地であり、領主であるタリストン・グブリエラには税を払う以外の制約を受けなかった。

 しかしながら、それではグブリエラも気分がよくないとサレは考え、重要な判断については、近北公きんほくこう[ハエルヌン・スラザーラ]に無用と言われながらも、グブリエラへお伺いを立てた(※1)。


 サレは、荒地にて育てた兵とともに、公女[ハランシスク・スラザーラ]もホアラへ連れて行った。

 公女は都に戻りたがっていたが、それは外聞がわるすぎたので、我慢してもらった。産後の肥立ちがわるいため、ホアラにて療養するという言い分ですら無理があるようにサレには思えていた。

 結局、公女は一度も双子を抱くこともなく、子を近北州へ置き去りにして、サレから見れば追放のていでホアラへ向かった。

 ただし、公女の名誉のために述べておくと、彼女は実際にひどく精神面での体調を崩しており、そのまま近北州で養生することは彼女のためにならないと、サレらには思えた。

 近北公からは、サレ家の女を乳母うばとして、双子につけたいという申し出が再三あったが、サレは固辞した。

 サレとしては、スラザーラ家との縁は彼と公女の代で終わりにしたかったし、ブランクーレ家とつながりを持つ気はなおさらなかった。

 オイルタンが権力に近づきすぎるのをサレは恐れていたのだった(※2)。


 サレが代官に着任することが知られると、彼にまつわる様々ないつを耳にしていた一部の人間が、ホアラから逃げ出した。

 掃除をする手間がはぶけたサレは、いつものように、兵たちを遊ばせないため、水路を引いたり、道路をつくったりするのに勤しんだ。

 また、近北公の命令に従い、ホアラの防壁をさらに強固なものにした。



※1 グブリエラへお伺いを立てた

 サレは近北州の州法に基づいて、ホアラの統制を図り、彼の地にて定めた条文の各所に、「近北州の州法に準ずる」と書いてしまい、東南州の高官たちの非難を受けたが、グブリエラに仲を取り持ってもらった。

 しかしながら、この件によって、東南州のホアラに対する統治権が名目上のものでしかないことが知れ渡った。

 グブリエラにしてみれば、もともとホアラの統治権がどの州に属するのか不明であったために深入りを避けたか、もはや失った領地に関心がなかったのかもしれない。

 近北州と従属的な同盟関係を結んだ彼の、州内における権力基盤は、イアンデルレブ・ルモサが期待したように強固となったが、反面、東管区では強い反発を生んだ。

 それへの対応を迫られていたグブリエラには、ホアラにちからがなかったのが実情だったろう。


※2 オイルタンが権力に近づきすぎるのをサレは恐れていたのだった

 その後のウストレリ進攻反対派の政治家としてサレをみれば、この判断は明確に誤りであった。サレ家の人間が双子の乳母となっていれば、その権力や影響力をもって、ウストレリ進攻問題が泥沼化するのを防げた可能性は低くない。































[おしらせ]

ここまで読んでいただき、感謝のことばしかありません。

ありがとうございました。


今後の更新ですが、この作品を次回のカクヨムコンに出したいと考えております。

前年と同じならば、カクヨムコンは12月よりはじまりますので、本作のつづきも12月1日から再開させ、2023年1月末日までに完結させる予定です。


もし、3か月待っていただける方がいらっしゃいましたら、引き続き、よろしくお願いいたします。


ここまでという方も、これまでありがとうございました。深く感謝しております。

みなさまのおかげで、どうにか区切りの良いところまで書くことができました。

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