第七章
都、美しく燃えて(一)
ある日、前の大公[ムゲリ・スラザーラ]が、近習のひとりからウルヴァセの戦い(※1)について問われ、次のように答えたのを、サレは直に聞いた。
「あの勝利は
近北公[ハエルヌン・ブランクーレ]に、その僥倖が訪れたのは、新暦八九八年初夏七月中旬のことであった。
遠西州のゼルベルチ・エンドラが、不治の病に倒れた。
近西州は、エンドラによる何らかの謀略の可能性を捨てきれずにいたので、彼の周辺を慎重かつ徹底的に調べ上げ、その可能性が皆無であること、つまり、エンドラがあとは死を待つだけの老人になったことを確信した。
以上のことを確認し終えると、近西州のラール・レコは、公にエンドラの容態および、要望があれば、彼の
レコからの書状を受け取ってからの公の動きは早く、読み終えた書状をウベラ・ガスムンへ手渡す際に、上洛の準備を命じた。
以上の話をサレは、[オメルセン・]ウブレイヤおよびガスムンの書状によって知った。
※1 ウルヴァセの戦い
スラザーラが、まだ東南州の一豪族に過ぎなかったとき、東部州の大軍による侵攻を受け、これを撃ち破るだけでなく、当時の東州公の首を討ち取った戦い。
現在の兵数の定説は、スラザーラ軍五千、東州軍二万五千だが、その後、尾ひれがついて、当時の
※2 彼のもとで長い平和を享受していた人々を混乱に陥れた
ガスムンのクルロサ・ルイセ宛ての書状によると、ブランクーレの南進を間接的に妨げていた、遠北州の混乱を聞いても、彼は喜ばなかったとのこと。
エンドラと彼が作り上げた遠北州の末路に、ブランクーレ自身および近北州のそれを重ね合わせたのだろう。
後の経緯を見るに、この頃から、ブランクーレの、家臣に対する疑心が深まっていった。
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