雪、とけて(四)
遠北州敗れるの一報をもたらした細作に十分な報奨を与えて、一日休ませたのち、再度、
もちろん、彼一人に任せるわけにはいかなかったので、夜ごとに細作を送り出したが、無事にガスムンのところへたどり着けたのは、最初の者だけであった。
なお、この送り出しをしている間に、隧道の先にある住居が赤衣党の家探しを受けてしまい、隧道は使えなくなってしまった。それをうけて、外部との通信は完全に遮断されてしまった。
遠北州敗北を受けて、サレが次に行ったのは、和議の受け入れであった。
モウリシア[・カスト]の執政官退任は譲らないが、その後任を今の大公[スザレ・マウロ]の一任とし、[トオドジエ・]コルネイアには政界を引退させる。
サレはバージェ[ガーグ・オンデルサン]候を仲介役に、今の大公へ提案を示し、彼がそれを受け入れたので、和議がなった。
サレは、コルネイアと、サレが妾に産ませた男子(※1)を母親と共に人質として差し出し、期日までの和議の条件の履行を約束した(※2)。
※1 サレが妾に産ませた男子
サレの子であったかは不明。人質として受け取った青年派も半信半疑であったようだ。人質に送られたのちの、母子に関する史料は見つかっていない。
※2 期日までの和議の条件の履行を約束した
どういう話し合いや思惑があって、コルネイアを引退させ、人質として差し出したのかはよくわからない。
サレとコルネイアが仲たがいをした結果とする史家もいるが、その後の両者の関係を見る限り、その可能性はきわめて低い。
サレの書き振りだと、コステラ=デイラの攻防戦は良識派の優位に進んでいた印象を与えるが、しょせん少数対多数の戦いであり、その優位性は薄氷の上のものに過ぎず、和議を破っても殺されることはないと踏んでいただろうが、コルネイアを人質に出さなければ、青年派が納得しなかったのだろうか。
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