都、狂い乱れて(十二)

 執政官解任と徳政令の発布に対応しつつ、サレはコステラ=デイラの防備強化に勤しんだ。

 モウリシア[・カスト]の赤衣党だけではなく、西南州の正規軍、最悪の場合を想定すればバージェ候[ガーグ・オンデルサン]の軍を相手に、公女[ハランシスク・スラザーラ]と緑衣党、それに豪商を守れるように、コステラ=デイラを一個の城塞にしようと、昼夜問わず、工事を進めた(※1)。


 この時点でサレは、コステラ=デイラの外に出て、青年[スザレ・マウロ]派と決戦どころか、小競り合いを起こす気もなく、ただただ、政治的な変化が起こるまで、コステラ=デイラに籠る腹積もりであった。

 そのため、とくに火縄[銃]で守りやすいようにと、各所の防壁を改良しつつ、ラウザドから火縄と硝石を、言い値でかき集めた。

 その頃、「塩の道」の治安が悪化していたので、塩賊退治を名目に都から緑衣党を送り出し、ラウザドから火縄と硝石をコステラ=デイラに運んだ。

 火縄と硝石の大量購入には、今の大公[マウロ]から抗議が幾度も寄せられたが(※2)、公女のなまえを出している限り、彼が武力に応じることはないと踏んで無視し続けたが、それは正しい判断であった。


 糧秣については、先を見越して、十分な備蓄を済ませておいたが、念には念を入れて、ラウザドへ先に金を払い、この年の秋に取れる穀物を抑えた。

 金は使えるときに使っておかなければならないと考え、スラザーラ家の資産に大分手をつけた。

 さすがの公女も、報告される金の減り具合に不安を漏らしたが、「金属の塊を抱きながら、ふたりで死にたくはないでしょう」と、サレは意に介さなかった。



※1 工事を進めた

 サレの生涯を通じて非難されていることだが、彼には、立場ある者として、平民を守るという考えが欠落していた節が見受けられる。


※2 今の大公[マウロ]から抗議が幾度も寄せられたが

 サレはカストの執政官着任を認めていなかったので、執政官および執政府名義で送られてきた書状は読まずに破棄し、使者にもいっさい会わなかった。

 完全にサレとカストは没交渉となっており、あとは干戈を交えるのを待つだけの間柄になっていた。

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