第三章

都、狂い乱れて (一)

 新暦八九六年盛夏八月に入ると、青年[スザレ・マウロ]派の動きが活発になった。

 モウリシア[・カスト]は緑衣党に対抗する形で、赤衣党をつくり、コステラ=ボランクを警固させた。赤衣党には、多数の元塩賊が含まれていたため、サレはひどく気分を害した。

 この赤衣党が組まれた直後から、ルンシ[・サルヴィ]に扇動された塩賊の動きがいっそう活発になり、サレは、青年派が塩賊と手を組んだのではないかと疑った(※1)

 コステラ=デイラの治安維持と塩賊退治に、赤衣党への対応が加わり、それらへの対処のため、サレの配下は三千人にまで膨れあがった。これを今の大公[マウロ]は問題視したが、サレはまったく相手にしなかった。


 九月に入ると、塩賊退治にサレが出かけた隙を突き、赤衣党の兵が適当な理由をつけて、コステラ=デイラで狼藉ろうぜきを働いた。そのときから、コステラ=デイラとコステラ=ボランクをつなぐ大橋を挟んで、両党が対峙するようになった。始終、小競り合いが増えるようになり、都の治安は徐々に悪化していった。


 大橋の両端に、それぞれの党が関所を構え、関銭を取っていたが、二重に銭を取られるみやこびとのつごうなどは考えていなかったので、大きな非難を生んだ。

 これに対して、鳥籠[宮廷]がサレに申し入れを行ったが、彼はそれを無視しようとした。しかし、執政官[トオドジエ・コルネイア]がうるさいので、サレは問題の解決を彼に任せた(※2)。

 執政官はモウリシアに話をつけ、大橋の関銭の額については鳥籠が決めることにし、また、得た銭はてんきゅうの補修費用に充てるよう、話をまとめた。


 大橋の処置により、執政官の声名が高まったので、これをよい機会と捉えた彼は、[オルネステ・]モドゥラ侍従、ホアビウ・オンデルサン、ラウザド、サレらの後押しを受け、薔薇園[執政府]から、青年派の執政府高官を排除し、今の大公との対立を先鋭化させた。

 しかしながら、この行為は、すぐに青年派の巻き返しを受け、執政官の薔薇園内での孤立が深刻な状況になった。

 サレとしては、もっと薔薇園の内情を執政官からよく聞きとったうえで、彼の暴走を止めなければならない立場であったが(現にバージェ候[ガーグ・オンデルサン]から強い叱責を受けたが)、ルンシ率いる塩賊との戦いが熾烈を極めており(※3)、そのような余裕がなく、彼の考えるままにさせてしまった。悔やむに悔やみきれない判断の誤りであった。



※1 青年たちが塩賊と手を組んだのではないかと疑った

 これについては、偶発的なものと考える史家が多数。


※2 サレは問題の解決を彼に任せた

 この頃、サレには一種の増長が見られ、独断専行が多くなったが、コルネイアの話だけはすなおに聞いた。また、特権商人の扱いなどを巡って、サレは宮廷との関係がこじれていたが、コルネイアが間に入り、事なきを得ていた。

 そのため、当時のコルネイアの屋敷には、サレとの仲介を求める都人が、頻繁に出入りしていたとのこと。


※3 

 十月には、多忙の極みにありながら、塩賊の排除を目的に、コステラ=デイラ中の家を虱潰しに探索させている。しかし、親類縁者に匿われるなど、サレの思うようには行かず、塩賊の排除は不徹底のままとなった。

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