ウルマ・マーラ(四)

「十日で何とかなるのか?」

 鹿しゅうかんにて酒を酌み交わしながら、家宰殿[オリサン・クブララ]に問われたサレは首を振り、「なりません」と応じた。

「どうせ、ひとりではお帰りになれないのです。かんしゃくを起こされるでしょうが、我が母になだめてもらいましょう」

 サレの答えに、家宰殿は満面の笑みで「公女[ハランシスク・スラザーラ]のことをよくわかっているな」と首肯した。

「大公[ムゲリ・スラザーラ]へのご恩返しで、できるだけのことはやるつもりだが、私も年だ。後の事は、信用できる百騎長に任せたい。薔薇園[執政府]や各州の州馭使とのやりとりは私には荷が重い。……所詮、私は大公への忠義だけが自慢のいくさ人だからな」

「私も同じですよ。ご期待には応えられないでしょう。ただ、頂く金銭の分だけの働きはいたします」

「それでいい。金ならいくらでもあるから、好きなだけもらえ。そして、その分働いてくれ。……そうだ。その金の管理も百騎長にお願いする。私にはどう使えば公女のためになるのかわからん」

「そのようなことをして、老執政[スザレ・マウロ]やボルーヌ・スラザーラが黙っているでしょうか?」

「わしが黙らせる。あのような大公から受けた恩義をわすれた不忠者などに、スラザーラ本家の金について、口を挟ませはしない。とくにボルーヌには」

 そのように断言すると、家宰殿は姿勢を改めてサレに告げた。

「百騎長、私のなまえを使って好きなようにやってくれ。取れる責任はわしが取る」

 言いたいことを言い終え、卓上の酒杯を飲み干した家宰殿に対して、サレは長く息をひとつ吐き出してから、杯へ口をつけた。

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