ウルマ・マーラ(五)
公女[ハランシスク・スラザーラ]の
まず、公女の名で、薔薇園から派遣されていた衛兵たちを解任し、緑衣党をその後任に充てることにした。
事前に薔薇園の了解を得ようとすれば、動きが滞ると判断したサレは、めんどうくさがる公女をなだめて親書を書かせ、それを根拠に「薔薇園へ問い合わせてから」という衛兵側の言を無視して、彼らを追い出そうとした。先に既成事実を作らなければならなかったので、サレは事を急いだのだった。
衛兵側の大半は素直に従い、持ち場を離れたが、衛兵の長を中心とした一部の者たちは納得しなかったので、力づくで彼らを排除した。
いちおう殺すなと緑衣党に命じてはおいたが、そのようにうまく行くはずはなく、衛兵側に死者が出た。しかし、運の良いことに身分の低い者たちばかりだったので、のちにモウリシア[・カスト]などがずいぶんと騒ぎ立てたが、結局は金で解決できた。
乱戦中、侍女を通じて公女が苦情を伝えてきたが、「掃除中です」とサレは取り合わなかった。
緑衣党による鹿集館の制圧が終わると、家宰殿[オリサン・クブララ]に薔薇園へ出向いてもらい、老執政[スザレ・マウロ]に事後報告した。
めずらしく老執政が声を荒げて、事の是非を問うたが、それ以上の大音声で家宰殿が「スラザーラの家中のことにつき、公女がお決めになった事柄を薔薇園にとやかく言われる筋合いはござらん」と言い切った。その言にモウリシアが何事か言ったが、家宰殿はモウリシアなどのような小物は相手にしなかった。
その後、モウリシアを中心に、鹿集館を攻める話がもちあがったようだったが、公女の親書が存在する以上、その行動には根拠がなかった。
薔薇園がサレの動きに対して、彼らの愛する議論に時間を費やしている間に、サレは次の動きに入った。
薔薇園側の衛兵を追い出した日の深夜、人々が寝静まる道を、緑衣党の精鋭に護衛させながら、公女を輿に乗せてサレの屋敷へ移した。公女は宵っ張りだったので、とくに文句は言わなかった。暢気なもので、月の様子が気になって(※2)輿から顔を出したので、サレは公女をたしなめた。
※1 体制を作っておく必要があったからだ
八九四年に引き続き、西南州をのぞく六州の州馭使が、内憂や外患への対応に忙殺されているなか、マウロはいち早く州内の安定を生み出した。そのマウロがさらに州内の体制を確固なものにしようとした時、ハランシスクが標的になるとサレは考えたのであろう。
※2 月の様子が気になって
公女は天文学に深い造形と関心を持っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます