雲行き(六)
サレとバージェ候[ガーグ・オンデルサン]は連れ立って回廊に出た。回廊の池のまわりでは、薔薇が咲き乱れていた。
「バージェ候、ご迷惑をおかけしました」
「なに、百騎長に貸しがつくれてうれしいよ。必ず倍にして返せよ」
サレが生返事をすると、候は話を変えた。
「いや、痛快だったな。私もモウリシア・カストは好きになれない。機会があれば世の中というものをもっと教えてやってくれ」
「いや、それは私より候のお仕事では?」
というサレの言に、候は高笑いで返した。
「できないな。カストは老執政[スザレ・マウロ]のお気に入りだから、彼の悲しむことはしたくない。私は老執政にはずいぶんと世話になっている。……いくさ人としての彼は本当にすばらしかった。いや、今もいくさを差配させればそうそう若い者には敗けないだろうが・・・・・・」
「・・・・・・分を越えていると?」
「それは言いすぎだよ。彼は理想家なのだよ。……間違ったな」
サレが返答を控えていると、候が立ち止まってささやいた。
「しかし、それは百騎長も同じだ。公女[ハランシスク・スラザーラ]の件、よくよく考えることだ」
「とは申しましても、薔薇園[執政府]が・・・・・・」
言いかけるサレを無視するように、候が再度歩み始めたので、サレはあわてて横についた。
「私にそういうくだらない言い訳は許さん。薔薇園など、私の一言でどうでもなる。また、百騎長は分かっているだろうが、そもそも薔薇園に、公女のお決めになられたことをくつがえす権能などはないのだ。公女の傍にはべるか、夜逃げするか。そうそうに決めることだな。どちらにしても、百騎長にとっては、自らの信念とやらを曲げることになるだろう。しかし、公女の近くに百騎長がいれば、多くの人間が救われることになると私は考えている。すくなくとも私は助かる」
「‥‥‥権力には近づきたくありません」
「それは、百騎長が都にいる間は無理だな。公女がお隠れになるようなことがないかぎり。・・・・・・生まれもって権力に囚われた存在なのだよ、百騎長は」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます