幼馴染が私の婚約者を奪いました。確かに、奪いたくなるほど彼は完璧です。『ある一点』を除いては……
下柳
第1話
「突然で悪いが、君とは婚約破棄だ。僕は、真実の愛を見つけてしまったんだ」
私、エルシー・ハットンは、婚約者であるジェフ・ハウザーに婚約破棄を言い渡された。
彼の隣には、一人の女性がいる。
彼女はジェフの腕に体を寄せ、自分の立場をアピールしている。
その女性、彼の幼馴染だというスーザン・クレノンが、私に向かって不敵な笑みを浮かべている。
どうやら、ジェフの真実の愛の相手というのは彼女のことらしい。
「見た目も性格も完璧な彼は、あなたにはもったいないわ。悔しいでしょうけど、彼は私を選んだの。あなたではなくてね。残念だったわね」
勝ち誇った顔で私にそう言うスーザン。
しかし、私は全く気にしていなかった。
なぜなら、私はジェフと婚約破棄しようとしていたからだ。
確かにスーザンの言う通り、彼は完璧だ。
ある一点を除いては。
最近その秘密を知った私は、ちょうど彼と婚約破棄しようとしていたのだ。
だから、スーザンが婚約者を奪ってくれるのはありがたかった。
怒るどころか、感謝しているくらいである。
「どうしたの? 震えているわよ。うつむいたまま何も言わないなんて、よほどショックだったのね」
高くて下品な声で嬉々としているスーザン。
しかし、彼女の言葉は全くの見当違いである。
私が震えているのは、悲しいからではなく、嬉しい気持ちがあふれているからだ。
うつむいているのは、喜んで笑顔になっているところを見られたくないからだ。
そうとは知らず、スーザンはいつまでもはしゃいでいる。
まったく、暢気なものだ。
今が人生の中で幸せの絶頂期だとでも思っているのだろう。
まあ、それは正しい。
そして、これからもどんどん二人で幸せになれると思っているのだろう。
しかし、それは間違いだ。
今が幸せの絶頂期なのは間違いないが、これからさらに上り坂になることはない。
これからは下り坂しかないのだから。
しかし、私はわざわざそんなことをスーザンに言わなかった。
彼には秘密があって、あなたはそのせいで苦しむことになりますよ、なんて、そんなこと言えるはずもない。
彼女は幸せな気分を味わっているのだから、わざわざ水を差すのは野暮である。
だからせめて、最後の幸せくらいはゆっくりと味合わせてあげたいと思うのが人情というものだ。
「それじゃあ、私たちは新しい生活を二人で始めるから、これで失礼するわね」
スーザンは勝ち誇った顔を浮かべながら、ジェフと共に仲良く去っていった。
「まさか、こんなことになるなんて思わなかったわ……」
こんな展開はまったくの誤算だが、嬉しい誤算である。
スーザン、ジェフを奪ってくれてありがとうございます。
あなたは彼の抱える秘密のせいで、私の代わりにとんでもない目に遭うことでしょうね……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます