第3場 いきなり現れた新入部員

 年度が明けて初めての部活の日。一年ずつ学年を上げた俺たちだったが、それ以外は何の変化もなく、再び聖暁学園演劇部として再集合した。高等部三年生に進級した先輩部員たちは、俺たちが全国大会に進出したおかげで引退時期が伸び、夏休みまで演劇部員として活動することになっていた。


 だが、そんな変わり映えのしない演劇部の中において、一人だけ「非正規」の部員が増えたのが唯一の相違点だ。他でもない、海翔だ。真新しい制服に身を包み、晴れて聖暁学園中等部一年生になった海翔は、意気揚々と俺たちの部活に参加した。


 元々サッカーをやっていて体力のある海翔は、初っ端から基礎錬を高校生の俺たちを置いてきぼりにする程軽々とこなしていく。発声練習もそつなくこなすし、俺は既に兄貴としての面目が丸潰れだ。


 そんな海翔は葉菜ちゃんがいないのをいいことに、部長にベタベタ甘えては、少しでも気を引こうと必死だ。だが、海翔がどんなに頑張っても、部長は海翔を軽くいなすだけで、その度に海翔は膨れっ面をしていじけるのだった。


「皆、お待たせー! 新学期早々皆に嬉しいお知らせよ!」


と、そこにいつもにも増してウキウキした様子の美琴ちゃんが俺たちに合流して来た。この人がこういう浮かれた声を上げている時は、碌なことが起こらないんだよな……。


「新入部員が二人も気てくれました! じゃじゃーん!」


美琴ちゃんはそう言うなり、二人の少年を俺たちの前に引っ張り出した。ほーらね、やっぱり! 俺の嫌な予感は当たった。その二人の新入部員らしい少年のうち、一人はあの新堂希だった。やっぱりあいつ、演劇部に入ることにしたのか。航平は一気に警戒感を強め、俺をギュッと抱き寄せた。そんな俺たちの様子を希は鼻で笑う。相変わらずのふてぶてしさだ。


 そして、新入部員として希の横に立っているもう一人の少年。こちらはこちらで何やら一癖も二癖もありそうなやつだ。眼鏡をかけ、何やら自信なさげにモジモジしている。希はともかく、こっちは基礎錬や発声練習をまともに出来るのだろうか。


「じゃあ、二人とも、自己紹介してくれるかな?」


美琴ちゃんが二人を促す。


「わかりました。俺は四月に高等部に進級した新堂希です。一ノ瀬先輩は俺と面識ありますよね?」


希は俺を一瞥した。


「あ、ああ。でも、特別公演の時にチラシを配った時にちょっと話しただけだろ」


「そう……でしたかね?」


希は意味深な調子で俺を見てニヤリと笑った。航平の俺を抱き寄せる力が強くなる。続けてもう一人の少年が自己紹介を始める。


「ぼ、僕も、新堂くんと同じく、高等部に進級した畑中はたなかゆうです。よろしくお願いします」


こちらは、今度は見た目通りおどおどした小さな声で、その自己紹介する声も震えている。


「この二人はつむつむとこうちゃんを超える正に史上最高の逸材を超える逸材たちよ!」


美琴ちゃんは嬉しそうにそう叫んだ。俺と航平を超える? 冗談じゃない。俺も航平も一年間ずっとこの演劇部のために力を尽くして来たのだ。聖暁学園演劇部史上初めての全国大会進出まで果たしたのだ。そんな俺たちをこんなポット出の若造に簡単に超えられてたまるか。俺は途端に不愉快になった。


「わたしもビックリしたわ。まさか、こんなスーパーイケメンながテニス部を蹴って演劇部に来てくれるなんて」


?」


航平が美琴ちゃんに尋ねる。


「新堂希くんのことよ! のぞむだからね! ほら、つむぐから来ているでしょ。うちの部員の中でイケメン第2号として、名前もつむつむのを受け継ぐことにしたの」


 何がイケメン第2号だ。って、俺の時から始まったばかりで一年しか経っていない癖に。その癖、俺のネーミングをパクるなんて生意気なやつ。俺は希を一瞥した。希は爽やかな笑顔を美琴ちゃんに振り撒いている。へんっ。立場が上の人間にはああやって媚びへつらうんだよな。忌々しいやつ。


「そして、そんなのむのむに釣り合う奇跡のようなスーパー美少年がこちら。よ!」


何がだよ。冴えない眼鏡くんじゃないか。すると、美琴ちゃんは優の眼鏡をいきなり取り外した。


「ほら、皆、見て! ゆうゆは眼鏡を外すと見違えるほど美しい美少年な素顔を表すのよ!」


俺はその優の素顔に驚いて思わずのけぞった。こんな整った顔の少年は見たことがない。何処となくあどけなさが残る童顔で、肌は一点の曇りもない白。小さなホクロさえ見当たらない。優は恥ずかしそうにモジモジしながら、


「よろしくお願いします」


と挨拶した。こちらはまだ希より謙虚そうな子なだけマシか。


「そしてそして……やっぱり来ていたわね。ようこそ、聖暁学園演劇部へ。つむつむの弟、パシフィックくんです!」


と言って、最後に美琴ちゃんは海翔を皆の前に連れ出した。


「パシフィック?」


海翔が困惑した表情で尋ねる。


「だって、あなたの名前、という漢字から始まるでしょ? 海といったら、まず想像されるのは太平洋。でも、だとちょっと可愛げがないから、と呼ぶことにしたの!」


いや、どちらも似たり寄ったりだと思うのだが。俺はこれからも海翔は海翔と呼ぶことにしよう。


 こうして俺たち聖暁学園演劇部は三人の新たなメンバーを加えて再出発を果たした! といっても、既に問題含みな新入部員が揃ったような気がしているのだが。自主公演、このメンバーでやるんだよな。一体、どうなるんだか。

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