06『神獣の森ー言葉』


 何事もなく時は過ぎてゆき……時はあっという間に更に1ヶ月経っていた。


「僕の名前は一才育人だよ?」


「いくとー?」


「うん、ここまで育ててくれてありがとうね」


「人間の赤ちゃん……話せる迄に1年ぐらいかかるはず?」


 ご最もな意見である。

 正直僕自身驚きが隠せない現状、寝て起きると声が急に出せるようになっていて、まぁ元々言葉は知ってるからそのまま喋れるようになったんだ。

 ちなみに一人称は元に戻した。元々僕の一人称は僕、解体屋の親方っぽさを出す為、俺なんて使ってたが性にあわないことが分かったので転生したついでに戻しておいた。


「つんつん~いくとー?」


「ん?どうした?」


「……?」

(あ、つつきたかっただけなのね?)

 というより違和感があるんだろうな、つい先日まで何も喋れないよちよち歩きだった僕が急にこんなふうに話し出したんだからな。


「というかさ、拾われた時からずっと聞きたかったんだけど……どうして僕を拾ったんだ?見てる限り食うのに困ってるぐらいだろ?なのに僕の分の食事とか大変じゃなかったのか?」


 いやー自分で言うのもなんだけど、キモイだろうな。

 なんせ生後2ヶ月の赤ちゃんがこうも喋りまくってんだから、姉と妹が目を合わせるのも無理はないと思う。


(流石に追い出されそうだな)

 妹と姉がこっちを向いてきた、僕はこの奇妙ながらも結構楽しかった生活に終止符を打たれる覚悟を決め下を向く。

(……赤ちゃんだからか?少し寂しい感じがするな)

 足を開いて座ったまま下を向く僕、罵倒が飛んでくる程度、いやほっぺを叩かれる程度の覚悟は決めていた。

(……よく考えたら、この子達の裸見放題……じゃなかった、かなり見てしまってるもんな~けっけられたりするのはやだな)

 さりげなくビビってたりする。


 だというのにやはりこの子達は優しい。

「ぎゅ~赤ちゃん1人だった、可哀想」

「ぎゅー赤ちゃんは1人だと死んじゃうよ?」


 どうやら、こんな急に喋りだした気味の悪い赤ちゃんに対しても、この子達は僕が化けてるとか疑う事もなく優しくしてしまうようである。

(やばい、泣きそうかも)

 僕はこの子達の為なら何でもしよう、そう思った。



 ☆☆☆☆☆



 僕が喋るようになっても生活は続いた。

「がんばって、がんばって、なでなで~~」

 なんだろう、凄く恥ずかしいけど嬉しい。


 結局身体は赤ちゃんの僕である、よちよち歩きができるようになったからと言ってすぐに筋力がつく訳では無い。

 妹との訓練……よちよち歩きはまだまだ続きそうである。


「ぎゅ~今日の分のぎゅーだよ?」

「あっうん……ありがとう?」


 姉も姉で毎日これは欠かさない。

 一応前世の記憶をもったまま赤ちゃんしてる訳だから、このハグが愛を与えるという行為であることを知ってるが故に歯痒いところでもある。

(赤ちゃんは愛に飢えてるって言うもんな……いや、僕は別に飢えてないぞ?)享年31歳童貞。頭に嫌なものが掠めた気がした。


 ☆☆☆☆☆


 喋れるようになって良かったことと言えばこれだろうな。


「『火』」


「火がついた」


「これは魔法かな?」


 どうやら僕には生まれつき魔法が使えるみたいだ。

 使い方は簡単、言語理解により気がついた時にはこの子達と同じ言葉を話しているのだが、前世の言葉を思い出して口に出すだけである。


 火と言えば火が出て、水と言えば水が出る、距離は目で見てここに出したいなと思えばそこに出るし、出したい量も目分量?ではあるけれど、思った通りに調整できる感じ。


「他にお手伝いする事とかあるかな?」


「ねぇね?」


「ないかな?」


 まぁ魔法なんか使えたからと言って、僕達には対して必要ない気もする。(ライター感覚?)宝の持ち腐れ感が凄い。





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