第5話 男
いつの間にか時間が経っていた。
どうやら私たちの家は、津波にのまれることはなかったようだ。
それからまっくらの夜を過ごし、男がやってきた。
「避難指示が出た。ここも危険だ。皆逃げて」
妹二人は、うろたえた。私も状況がさっぱり理解できなかった。
しかし、ここでしっかと冷静になるのが私の役割だ。私はこう応じた。
「お父さんと、お母さんが、迎えに来るのを、待ってるから。」
そう言うと、男はそうか、といってどこかへ去っていった。
……これが私たちの未来を大きく左右する決断だったなんて、当時の私はちっとも知らなかったのである。
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