ずるいやり方

エリー.ファー

ずるいやり方

 あの病院を襲う。で、要求を通すんだ。

 な、簡単だろ。

 大丈夫だって、できるさ。俺たちは四十人いる。病院の中に何人いようが、全員、脅せば動けなくなるはずさ。

 恐怖で足に根を生やす。

 そうして、ビビっている間に銃声をもう三発か四発。もちろん、人質には当てたりはしねぇ。人質の数は多い方がいいし、そうすれば交渉もきっといい方向に進む。




 警察が来たら、俺が出ていく。で、そこで自分たちの要求を伝える。そのために拡声器は持って行ったほうがいいかもしれないな。病院の中にもあるかもしれないが、わざわざ探すのも、探させるのも得策じゃない。持っていこう。準備はしておいてくれ。

 銃は何丁ある。

 六十丁か、悪くない。二十人は二丁ずつ持てるから、安心と言えば安心だな。暴発しないようにだけ注意をしてくれ。




 まず、裏の二つからは十人ずつ、表の三つからは六人でいこう。病院の周りにいる人間たちを遠ざけてくれ、大丈夫だ、そこまで徹底的にやらなくてもいいんだ。中に入れないようにするから、外に恐怖を伝播させて注目を集める役だと思ってくれ。

 表の方が人が圧倒的に多いから、入った瞬間に天井に向かって二発撃とう。で、間をおいてから一発だ。二発で注目させるが、この時点では人質共は浮足立っているだけだ。次にもう一発。これで病院内を支配する。

 ソファーがあるところが、確かかなり広かったはずだ。人が多いといっても、そこに全員を集めることは可能だろう。

 絶対に怪我をさせるな。

 これだけは守ってくれ。

 捕まった時のリスクをとにかく減らす。




 明後日の午前十一時。

 当日は七台のキャンピングカーに分けて乗って、病院に向かう。駐車場にまで入っても良いが、目立つし基本は乗り捨てる。みんなは乗っている間に中で着替えてくれ。服のサイズについては、この後に聞くから教えてほしい。顔が割れないように目出し帽を用意するが、あれは慣れていないと視界が遮られて動きにくいものだから、動きの確認だけは丁寧に行ってくれ。もちろん、使うものはすべて一度触ってもらうから、その時に分かることと思う。明日、俺の家で打合せ。明後日、午前十一時キャンピングカーの中で最終打合せ。

 失敗は許されないからな。

 そのつもりで。

 


 要求内容については、詰めない。

 本来は正確に、精密にしておくべき部分なんだろうが、それは行わない。

 一つは、この要求の本質は社会的状況によって変わるからだ。場合によっては、実行に移さなくても良い可能性だってある。実行前日、いや、当日の銃声を鳴らすその瞬間まで不必要になると祈っておいた方がいい。

 笑えない冗談だな、すまない。

 世界は大きく変わる。

 というか、変わるしかない。

 俺たちみたいな無敵の人間が現れて、罪のない一般人が巻き込まれる。これを避けるためには、こっちの要求を飲むしかないというのは分かっているはずだ。そして、それは俺たちにとっても、望む平和が手に入るという意味では同義だ。

 さあ、仲間は俺も含めて百十四人。

 病院内にも仲間がいる。

 銃は二百丁以上。

 計画は完璧だ。

 でかい茶番劇をしよう。そして、絵空事を要求しよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ずるいやり方 エリー.ファー @eri-far-

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ