15
「へ?」
何が起こったのか把握出来ずに間の抜けた声を上げる男。
そして、リュウが立っていた場所には――
――コウがいた。但し、眼鏡のフレームが青く輝いており、先程まで右手に持っていた眼鏡剣は左手で握られている。更に、右手が――消えていた。
コウは一瞬たりとも敵から目を離さないように男を睨み続けているため、長浦芽衣からは顔が良く見えない。が、それでも先程と全く気配が違うため、コウであることが分かった。
目の前の光景に、長浦芽衣は先程青塚としていた雑談を思い出した。
メジャックに辿り着く直前。コウと喋っていると、突然リュウが再び表に出て来たのだ。
リュウは「そういや」と切り出した。
「さっきコウの野郎が、俺の方が『女相手でも容赦なく戦える』って言ってやがったがな。実はアイツの方が容赦ねぇからな。いざとなりゃ、あいつは『全て』を斬る。俺はどんだけ硬いもんだろうがぶった斬れるが、デビルコンタクトがゼロから生み出すものだけは例外だ。それがどんなもんでも一切斬れねぇ。ま、コウの野郎の能力は使用時にちょっとした制約があるがな。あとよ、あいつのは融通が利かねぇんだ。何かを斬る時は、それが何だろうが、百パーセント能力を使っちまうからな」
そう言ってまたコウと入れ替わったのだが、リュウの言葉通り、コウは長浦芽衣の眼前で、正にデビルコンタクトが放った荒々しい風の暴力を剣で斬って掻き消した。『ちょっとした制約――使う度に身体の一部が消えて行くという代償』を払って。
初めは分からなかったようだが、起きた現象と現況――コウの身体の変化を見て何かに勘付いた様子の男が指摘する。
「右腕が消えたぁ? そうか、分かったぞ! お前、相手の技を斬って掻き消せるみたいだが、その度に身体が消えてくんだな? ヒャハハハ! 愉快な能力だなぁ! その能力を数回も使えば、自分で勝手にこの世から消滅してくれるじゃないか!」
嘲り笑う男を無視して、コウは前方を睨みつつ小さな声で呟いた。
「僕があの男を引き付けて大通りへ行って戦うから、合図したら長浦さんは後ろに走って、左に曲がってじっとしてて」
「……うん、分かった」
(さて、と。『煽る』なら、僕よりも断然――)
すっとリュウと入れ替わると――
「ハッ! 消えたんじゃねぇよ。右腕はわざと消したんだ。てめぇみてぇな雑魚なんぞ、左手一本で十分だからな」
「……何それ? おいらを挑発してんの?」
「おお、分かってるじゃねぇか。脳味噌無ぇのかと思ったら一応あるんだな?」
「おいらはそんな挑発には乗らな――」
「気持ち悪ぃんだよ、てめぇ。女に壁ドンしたくてナンパだぁ? 気持ち悪過ぎて吐き気がするぜ、この変態野郎。おえ~。何お前、もしかしていい歳して童貞なの? あ、童貞なら女の扱いが分かんなくてもしょうがねぇわな。悪ぃこと言っちまったな。いやぁ、すまんすまん」
すると、男はわなわなと肩を震わせ、その顳顬に青筋が立ち――
「お前、ぶっ殺す!」
「ハッ! 望む所だ」
お互いに啖呵を切った直後、リュウが敵を睨みつつ小さく長浦芽衣に合図を出した。
「眼鏡女、走れ!」
その声に小動物の様にピクッと反応すると、長浦芽衣は背後の小さな十字路まで走り、飛び込む様に左折。勢い余り地面を二回転したものの、上半身を起こしてその場に蹲った。
一方、長浦芽衣が走り出した直後、リュウは左手の眼鏡剣で地面を斬り付けていた。
轟音と共に地面が大きく陥没し、大量の土煙が上がる。
「ちっ、目眩ましか!? 小賢しい真似を!」
土煙を突っ切って猛スピードで自分の真下を通過し背後へと移動するリュウを目ざとく見つけると、
「逃がすかぁ!」
と、男は振り返って大通りの方へ、すーっと空中を飛んで行く。
市民の避難が完了して人っ子一人いない街中に、男の叫び声が響く。
「『
男が空中から放つ狂飆が、大通りの街路灯、街路樹、信号を細切れにし薙ぎ倒していく。
(やりたい放題だな、この野郎)
それらの攻撃を躱しつつ、リュウは乗り捨てられた幾つもの車を避けて巨大な交差点へと素早く走って行く。その後ろから男の攻撃が放たれ、次々と車を破壊していく。
「うろちょろと、鬱陶しい! 早く死ねよ! 『
(あの野郎が攻撃を終えた直後の隙を突いてみるか)
男から放たれた烈風を避けると素早く反転して助走し、リュウは力強く跳躍した。
「うわっ!」
五メートル程跳躍したものの、男は更に高く舞い上がってリュウが左手で振るう眼鏡剣を避ける。
「危ないだろうが! 『
自分の行為は棚に上げて不満を口にする男の右手から颶風が巻き起こり、リュウに襲い掛かる。
着地すると同時に高速で走りその軌道上から逃れると、リュウは近くのビルの壁面へと跳躍し、更に壁を蹴り、三角跳びで空中の男へと迫る。
「またかよっ!」
今度は十メートル程の高さまで届いたが、やはり男は更に高い位置まで移動してリュウの攻撃を躱す。
「空中ならどうしようも無いだろう! 『
高く跳躍したことが仇になり、まだ空中にいるリュウへと男の攻撃が襲い掛かる。
無数の風の刃を内包した突風が迫る。
リュウはそれを身体を捻りギリギリで躱す。
「ちっ。『
男が追撃するが、既に着地したリュウは素早く移動して回避する。
(もっと高く跳ばなきゃ攻撃が当たらねぇ。そのためには……)
リュウは左腕を振り翳すと、眼鏡剣を使い全力で地面を叩き斬った。
「おおおおお!」
先程の何倍もの衝撃で大通りには巨大な穴が開き、大量の土埃が舞い上がって空中にいる男さえその中に巻き込まれる。
「また目眩まししやがって! 小狡い戦法ばかりしてないで、正々堂々来いよ!」
更に上空へと舞い上がり、土埃の範囲から離脱した男が叫ぶ。
しかし、土埃の中からは何の反応も無く。
「おいおい、まさかおいらが怖くて逃げたってのか? あんだけ煽っておいて、情けない奴だなぁ」
挑発するものの、やはり反応は皆無。
「あれ? 本当に逃げたのか?」
土埃が消えて、地面が見える。
――が、どこにもリュウの姿は無かった。
「アイツどこに行ったんだ?」
きょろきょろと周囲を見回すが、どこにもおらず。
「下にはどこにもいな――え? 下には!?」
まさか、と、男が上を見ると――
――男の更に上空からリュウが斬り掛かかって来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。