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下校した青塚は、家路に就いた。
(高校、かぁ……)
見慣れた町並みの中を歩きながら、青塚はぼんやりと考えていた。
地方都市、N市。人口二百三十万人の中核都市であり、玄関口である通称
(博士たちが無理矢理転入させてくれたしなぁ、暫くは通ってみるか)
博士が勧めてくれた高校だが、青塚が余り気乗りがしないのには、理由があった。
青塚は十歳から十七歳までの七年間、たった一つのことのためだけに生きて来た。
それは、『デビルコンタクトを倒す』ということだった。
デビルコンタクトとは、先程の男子生徒二人が使っていた『身体強化のコンタクト』のように、コンタクトを使って常人では手に入れられないような能力を手にして、それを元に眼鏡狩り(眼鏡を掛けた人々を襲うこと)を行う犯罪者たち、或いはそのコンタクトその物のことだ。
何故眼鏡を掛けた人々を襲うのか? それは、はっきりとは分かっていない。『元々眼鏡を掛けていて馬鹿にされた者達がコンタクトに替えて、不特定多数の眼鏡を掛けた者達を襲うことで自分の過去を清算しようとしている』という説もあったが、それだけでこれほど悪質な犯罪を、しかも大勢の者が犯すとは考えにくかった。
さて、『ニューコンタクト』と呼ばれる次世代型コンタクトが発明されて久しいが、最初はコンタクトをつけて脳で考えるだけでインターネットにアクセス出来たり、メッセージを送るなどの通信が取れたり、物を拡大して見ることが出来たりと便利だった。
だが、脳と直接結びついている眼球に触れることで脳へと刺激を与えて超能力のような力を引き出す新たなニューコンタクトが発明されると、情勢が一気に変わった。
犯罪組織が目をつけて、眼鏡狩りに使うようになったのだ。そして、新たなニューコンタクトは『デビルコンタクト』と呼ばれるようになった。
無論、国はデビルコンタクトを規制した。厳しい罰則もつけた。
しかし、それでもデビルコンタクトは増え続け、彼らによる犠牲者もまた増加の一途を辿った。
その種類により様々な超能力を引き出せるデビルコンタクトは、銃や警棒などの通常の装備では対処が困難で、警察の手に負えるような存在ではなかった。
そして、そんなデビルコンタクトに恨みを抱いて標的にして倒し続けて来たのが、青塚だった。彼が目指すのはこの世から全てのデビルコンタクトを消し去ることなので、正直学校などどうでも良かった。
復讐に燃える彼に対して、博士は若者らしい、普通の暮らしをさせたかったのだろう、彼が十五歳になった頃、「高校に行ってみてはどうじゃ?」と提案した。
青塚が「試験勉強などしている暇は無い」と言うと、「しなくとも入れるようにする」、と言われた。
そして、二年後。普段の仕事の合い間を縫って進めて来た博士たちの準備が整った。否、本当はもっと早く準備が出来ていたのだが、気乗りしない青塚が転入学する時期をずるずると引き延ばしていたのだ。何はともあれ、博士たちが用意した正規とは程遠い方法によって、高校どころか中学校すらも行ったことが無い青塚は有名私立高校へと転入学することが出来たのだった。
ふと。
青塚の脳裏に、誰かの声が響いた。
『僕が将来、良い学校行って、良い会社入って、たくさんお金稼いで、お姉ちゃんを楽させてあげるから!』
それは、幼き日の自分自身の声だった。
(……学校か。全ては姉のためだった。その姉は、もう、いない……)
(……けど……博士と千夏ちゃんが折角頑張ってくれたしな)
(まぁ、デビルコンタクトは、登下校中とか土日に出来るだけ倒せるように工夫しよう)
デビルコンタクト退治の時間が減っていまうが、そこは致し方ないと青塚は自分を納得させた。
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