第239話 ダンジョン解禁
春香と村に戻った後、その足でダンジョン設置予定地へと向かった。
ここは村の中心に位置する場所で広い空き地となっている。すぐ近くには教会があり、中心部には撮影用の物見やぐらも立っていた。
丁度やぐらを取り囲むように、ドーナツ状に配置する予定なのだが……
果たして何個くらい置けるだろうか。ダンジョンのサイズが判らないので、まずは1つだけ設置してみることにした。
「あれ、意外と小さいんだな」
「このカタチ、どっかで見たような?」
地下に向かって階段が延びており、大人が3人並んで歩ける程度の幅がある。天井には屋根が付いていて、材質は白っぽい石のようだが……。
この形状、たしかに見覚えがあった。
「あっ、地下鉄だよこれ。地下に降りる所ってこんな感じじゃない?」
「あー、言われてみればそうかも」
春香の言うとおり、地上にある降り口とそっくりに見える。あれをそのまま、ひと回り小さくした感じだ。これなら20か所は余裕で置けるし、配列さえ無視すればその倍はいけそうだった。
ふたりでそんなやり取りをしていると、いつの間にやら人だかりが――。あっという間に大勢の人が集まってきた。
「もしかしてこれダンジョンですか!」
「すげぇ! 実物は初めて見た!」
「魔物は上がってこないんですか?」
しばらく質問攻めにあい、現場は大混乱となってしまった。これはマズいと感じて、ひとまず回収をしてみんなを落ち着かせる。
「今からダンジョンを設置するけど、調査が終わるまでは絶対に入らないでくれ。運用開始は数日後になると思うから、もう少し辛抱してほしい」
詳しい話は今日の夕飯どきに、そう伝えていったん解散するように指示を出す――。と、そこは勝手知ったる同志たち。無理に食い下がるようなヤツもおらず、各々談笑をしながら散っていったよ。
その後は撮影班を呼びつけ、レポーターの夏希が解説をしながらダンジョンを設置していく。
今回の設置したのは全部で10か所。中央のやぐらを囲うように、入り口を内側に向けて配置することに決まった。
こうしておけば見栄えもいいし、やぐらに設置してあるカメラから常時監視も可能となる。今後は村人の増加に伴い、徐々に増やしていく予定だ。
やがて撮影も無事に終わり――。
「ねえ村長、ダンジョンの中も撮りたいんだけど……どうしよう?」
「なら武士に頼もうか。あ、でも今日は様子見だけだぞ」
本格的な調査は明日に回して、今日は1階層を確認するのみとした。いくらレベルが高かろうとも、迂闊な行動はご法度だ。いつぞやの若者たちみたいになるつもりはない。
◇◇◇
ダンジョン設置の翌日、
朝から精鋭部隊が集い、さっそく調査を始めていた。桜と冬也をリーダーに据えて2班編成で挑むことに――。私も鑑定役として桜の班に参加している。カメラマン兼レポーターの武士も同じ班だ。
攻略は順調に進み、お昼過ぎには10階層のボス部屋まで到着していた。決して舐めているわけではないが……今となってはただ歩いているのと同じ、攻略にはなんの支障もない。
10階層のボス部屋には、お馴染みのオークジェネラルがいたよ。ここまでの道中もそうだったが、出現する魔物に変化はないようだ。毒矢や落とし穴のようなトラップも見つからなかった。
無事、というか無難に討伐が完了したのち、転移陣を使って地上へと戻った――。
◇◇◇
「冬也、そこのパン取ってくれ、2つな」
「あ、じゃあオレもその肉を分けてくれよ」
ダンジョン調査にも目途が立ち、今は遅めの昼食をいただいているところだった。
冬也の班はとっくに帰還しており、すでに15階層までクリアしてきたらしい。みんなで暴れまくっていたのが容易に想像できてしまう。
「んで、最下層はどうだったんだ?」
「ん? 異世界と同じだったぞ。オークキングを筆頭に、トンデモない数のオーク集団がいた」
「そうか、こっちも今のところ変わりないよ」
ボス討伐後には石柱が出現、破壊できるか試したが、傷一つ付けられなかったらしい。ドロップ品にも変化はなく、宝箱の出現もなかった。なお経験値の入り具合は、レベルが上がり過ぎているせいでわからない。
「なあ村長。このまま10か所、全部攻略するつもりなのか?」
「いや、その必要はない。あと2~3か所もやればじゅうぶんだ。ボス攻略をしたい連中だっているだろ?」
「あー、その気持ちは良くわかる」
すべてお膳立てされては興ざめというものだ。もちろん危険は増えるだろうし、最悪死ぬ場合だってある。それでも挑みたいヤツらのために、未開放のダンジョンを残す予定でいる。
護衛付きの解放ダンジョン、そして自力で挑む未開のダンジョン。
今後はこの2つを主軸にして開放することが決まった。
◇◇◇
その日の夕飯どき、
恒例の自己紹介が終わったところで壇上にあがる。もちろん目的はただひとつ、みんながお待ちかねの調査結果を伝えるためだった。
「明日からダンジョンを開放する!」
開口一番そう宣言すると――
多くの村人、とくに戦闘職の連中なんかは大はしゃぎしていた。ファンタジーの醍醐味であるダンジョン探索、それが叶うのだから当然のことだろう。
「ただし、中に入れば結構な確率で死ぬからな? 無茶するヤツを助けるつもりはない。それだけは覚悟しといてくれ」
つづく言葉を聞いた瞬間、それまで騒がしかった食堂が一気に静まり返る。
どんな方針で進むのかは各自の判断に任せるつもりだ。もちろん戦闘が苦手な人にはサポートをする。無茶をしても、生きて戻れば回復くらいはしよう。ただ、異世界でやっていたような過保護な真似はしない。
人数的にも無理だし、命のやり取りをして欲しいからだ。どの口がそれを言うのかって突っ込まれそうだが……レベルだけ高くても意味が無い。
と、そんな感じのことを淡々と伝えていった――。
「啓介さんおつかれさま、中々いいスピーチでしたよ」
「でも、あんまり効果はないようだ」
桜は気を使ってくれたが……周りのみんなを見る限り、効果は薄いように思えた。さっそくパーティー募集を始めたりして、ドンチャン騒ぎを再開してる。
「どうせ最初だけです。ダンジョンはそんなに甘くないですから」
「生きるも死ぬも自己責任だ。好きなようにやってみたらいいさ」
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