第237話 魅惑の踊り子


 昼食後はみなさんお待ちかね、村の教会へと移動する。


 女神さまの話によれば、適正値がもともと高い日本人は、ほぼなんらかの職業が与えられるという。ただ残念なことに、ユニークスキルが発現することはないらしい。あれは異世界転移した場合のみ、限定的に付与されるんだってさ。


 ならばいずれ行われる大規模転移、その人たちはどうなんだと尋ねるも……答えはNOだった。現地を管理する神が召喚しない限り、特殊スキルの発現はあり得ないと言い切っていた。


「春香、念のため全員分の鑑定を頼むよ。もちろん手伝うからさ」

「おっけー、任せといてっ」


 女神の水晶像を能力強化すれば、他者のステータスも閲覧可能になるのだが……まだどうするか踏ん切りがつかなかった。ダンジョン生成のことも含めて、そろそろ決断しなくてはならない。


 一応説明しておくと、女神像の強化先はこんな感じになる。


===================

<女神の水晶像:300pt>

触れることで能力鑑定が可能な女神像

※他者の閲覧可能<NEW>

※忠誠度表示追加<NEW>

===================


 まあ、能力強化のことはさておくとして――


 なにせこれだけの大人数、何が起こるかわからない。せめて初回くらいは確認をしておきたかった。まず大丈夫だろうけど、賢者や強盗、それに魔王みたいな職業が現れても困る。私と春香も中で待機して、授与されたスキルを鑑定することになった。



 と、教会に入ったところでナナーシアさまのお姿が――女神像と同じポーズをとりながら静かに並んでたたずんでいた。


「ナナーシアさま、そこでなにを……」

「うふふ、初回くらいは立ち合おうかと思いまして。そのほうが雰囲気がでるでしょう?」

「……また例の神様のアドバイスとか?」

「いえ、これは女神からの初回特典です。早く仲良くなりたいですし」


(なら自分で授与すりゃいいのに……)


 私の心を読んだのか、若干ふくれっ面の女神さま。そんな彼女を尻目にしながら、最初の一組目が入場してくる――。


 ここの規模的に一組30名が許容限界。教会の女神像は1つしかないので結構な時間を要するのだ。


 全員の授与式が終わる頃には日もすっかり暮れかかっていたよ。女神も最初はノリノリだったが、急用ができたとかで途中退場をしている。仲良くなりたい気持ちはいったい何処へ……。


「あの人、絶対飽きたよな」

「途中でソワソワしてたもんねー」

「まあいいや、そっちはどうだった?」

「とくに問題がありそうな人はいなかったよ。珍しい職業は結構いたけど」

「そうか、私のほうもそんな感じだ」


 結局のところ、危ない職業や尖ったスキルを所持するものはいなかった。ざっくりまとめたところ、全体の98%は既知の職業で収まっている。

 近接物理職が60%、四属性魔法職が3%、農民が25%で細工師等の職人系が10%という感じ。やはり魔法系統の所持者は少ないようだった。


 ただ残りの2%程度、この人たちの職業は珍しいものばかり。


 もともと騎手だった男性が『騎士』に、学校の先生だった人が『教師』に、理髪店で働いていた女性が『美容師』になっている。ほかにも『薬師』や『陶芸家』、そして待望だった『魔導技師』も1名誕生していた。この人たちも従前の職業から派生しており、魔導技師の人は元プログラマーだったらしい。


「魔導技師はありがたい。魔石は腐るほどあるんだし、どんどん開発してくれると助かる」

「美容師さんもいいよねぇ。今まで自分たちでやってたからさ、わたしはこっちのほうが嬉しいかなー」

「娯楽施設の一画に店を建てようか。まあ本人が希望すればだけどな」

「あとでお願いしてみよっかなー」


 次にファンタジーっぽいところだと、『踊り子』や『祈祷師』だろうか。前者はいわゆるバッファーの役割で、踊ると周囲に好影響を及ぼすスキルだった。

 後者のほうは、主に天候を操作するスキルみたいだ。ただしスキルLv1の段階では、『雨乞い:低確率』という能力しかない。


「ねえ祈祷師って凄くない? そのうち神様クラスも呼び出せそう……」

「んー。そもそも神様たち、自ら降臨して配信までしてるしな」

「たしかに、今さら感はあるかー」

「でも実際、かなり有能なスキルだよ」


 自在に天候が操れるなら農業との相性は抜群だし、サバイバルには持って来いのスキルだ。使いようによっては大規模殲滅系の攻撃職にもなり得る。祈祷師から予言者へ、そして『神の使い』へ至るルートだってあるかもしれない。


「そういえば啓介さん、踊り子のスキル……まだ見てないでしょ」

「ああ、そのときはちょうど休憩してたな。なにか秘密でもあるのか?」

「実はあれ、凄いんだよねー」


 思わせぶりな春香曰く、踊り子のスキルは『踊り』で、周囲にいる仲間の能力を底上げするというものだった。とまあ、ここまでは普通なんだが……とある特殊効果が存在していたらしい。 


「着衣の布面積が少なければ少ないほど、効果が上乗せするのよ。オールパージ状態だと……なんと10倍の効果になるみたいだよ」

「おいマジかよ……」


 効果10倍もそうだけど、とんでもなくエロい能力なのが凄い。「魅惑の冒険ライフが始まりそうだな……」と、ついそんな期待感が生まれてしまう。


「いまその人とパーティー組むところを想像したでしょ?」

「ぼ、冒険には命がかかってるんだ。そんな考えは不謹慎極まりないな」

「じゃあ向こうから誘われたら?」

「……やぶさかではない」


 諸君ならおわかり頂けるだろう。ファンタジーの踊り子といえば、エスニックな感じのお姉さんというのが定番だ。そんな人が危ない恰好で……実物はいったいどんな人なんだろう。


 そう思っていると――


「あ、あの人だよ。ほらっ、あそこで話してるの人」


 春香が指さす方向には、さらさらストレートヘアの素敵な女性の姿が……。かなり清楚な印象で、職業とのギャップがこれまたすごい。まわりを男性陣に囲まれて楽しそうに会話をしている。


「おいおいマジか、彼女が踊っちゃうのかよ……パネェな」

「啓介さん、だから一番右側の人ね?」

「右側って、ゴリマッチョのおっさんじゃねぇか。それがどうした?」

「わたし、女性だとは言ってないけど?」


 …………。


 これからしばらくの間は、週に2回のペースで受け入れを予定している。駐屯地での現地審査もあるので、まだまだ忙しい毎日が続きそうだ。ちなみにさっきの彼女は『魔導技師』だったよ。今後は存分に活躍してくれることだろう。


 明日からも頑張ろう、そんなことを考えるおっさんであった――。



「ねえ、無理やり終わらせようとしてるけどさ。夕飯のネタになるのは確定だからね?」

「ちょっと何を言ってるのかワカラナイ」

「冒険者は命をかけている……やぶさかではない……彼女パネェな。これだけあればオカズには十分だよねー」

「…………」


 久々に発動した春香トラップ。見事にハマったおっさんに、逃げ道などあるはずもなかった――。




<新規入居者の職業一覧>


『近接戦闘職:550名』

戦士、剣士、槍士、拳闘士、騎士


『魔法職全般:30名』

魔法使い、治癒士、封術師


『生産職全般:310名』

農民、細工師、調理師、木こり、パン職人

すし職人など


『その他:14名』

教師、美容師、薬師、陶芸家、祈祷師、

航海士、潜水士、占い師、魔導技師、

踊り子、小説家、漫画家、アニメーター




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