第205話 聖理愛との会談
『ダンジョン編』に続いて、今度は『ナナシアの街編』を視聴していく。
そのコンセプトは、異世界人との共存
次々と移り変わる街の風景、楽し気に暮らす獣人たち、そこに映り込む日本人らしき人々。異世界に慣れた私が見ても、かなり幻想的な映像に思えた。
肝心の内容だが――、まずは中央の領主館から上空へとパンして、街を一望するシーンから始まる。もちろん禁断の部分は映っていない。
そのあとは鍛冶屋や工房、大食堂の食事風景をチラッと流し、最後は入浴シーンで締めくくっていた。むろん、肌面積は極力抑えられているし、規制がかかるような映像はすべてカットされている。
(この元動画、武士は全部見たんだよな? 実にうらやまけしからん……)
それはさておき、動画の内容は本当に素晴らしい。人々が街を歩くシーンだけでも興味を魅かれるほどだ。と、そんな私の隣では――、今か今かと感想を求める樹里の視線が突き刺さっていた。
「うん、こっちの動画も抜群の仕上がりだと思う。なんていうか、上質なファンタジー映画のPVを見てるようだった」
「しかもこっちは完全実写版ですからね! さすがにこれをCGでは難しいと思いますよ。なかには疑う人もいるでしょうけど」
「私も樹里と同意見だ。――けど、投稿を続けていけば問題ないだろ?」
「そうですね。これからは再生時間も長くする予定ですし、作り物じゃないことはわかってくれると思います」
まあ、それでも疑うヤツはいるだろうけど、定期配信していけば信じる連中も増えていくはずだ。一度バズってしまえば、あとは流れに乗って視聴者を確保できると思う。
夏希の構想では、ある程度人気がでたところで、私や女神の紹介をするつもりみたい。そのあたりは、爺ちゃんの村に拠点を移し終わってからになりそうだ。強制転移まであと10か月。まだまだ時間はあるので、じっくり腰を据えて進めていこう。
「――さて、と。そろそろ夕飯だし、みんなもナナシアへ戻るだろ?」
「ですね。予約投稿もできたし戻りますか」
「樹里さん楽しみだねー! どれだけ伸びるか気になるー!」
「夏希ちゃん、あんまり期待し過ぎると……ダメだったときに凹んじゃうよ? と言いつつ、わたしも期待してるけどねっ」
「これでガッポリ儲けたいよね!」
今どきの若い子もガッポリなんて言うんだな。そんなどうでもいい感想を抱きつつ、みんなで異世界へ戻ることに――
「あ、そういえば私も報告があるんだった。丁度いいから、ほかのみんなも集めて夕飯のときに話すよ」
(動画に見入っていた為すっかり忘れていたが……そういえばダンジョンのことをまだ話してなかったわ。別に今すぐどうにかなる訳じゃない、と思うが報告だけはしとかないとな)
日本にいるみんなとナナシアに戻ったあとは、日本にダンジョンができ始めたことを話す。
ダンジョンの魔物は狂暴かもしれないこと。公園にできたダンジョンは放置してきたこと。今後、別の場所にも出現する可能性があることを説明していった。
「――と、いうわけだ。私が見つけたダンジョンのことは、さっそくニュースになってたよ。現在は自衛隊が包囲してる」
「なるほど、そんなことが……」
「あ、それと桜」
「はい?」
「さっき話した犠牲者のことだけど、この前絡んできた奴らだったぞ」
「あら……それはご愁傷様ですね。――それより、啓介さんは中に入らなかったんですか?」
「単独で入るなんて無謀なことはしないよ。野次馬もたくさんいたからね。スマホで録画してるヤツもいたし」
「それが正解ですよ。ひとまず政府の管理下に置かれたわけですし、私もしばらくは放置で良いと思います」
「ああ、私もだ。最悪の場合、結界で囲っちゃえばいいしな」
まあそうは言っても、日本のダンジョンがどんな仕様なのかは気になるところ。
何階層まであるのか、どんな魔物がでるのか、地上に溢れることはないのか。調べてみたい気持ちもあるけど、まずは様子を見ようと思う。政府お抱えの冒険者もいるだろうし、ある程度のことはそのうち判明するはずだ。
◇◇◇
動画投稿を開始して3日が経過、私と椿は帝国の領主館を訪れていた。
色々と考えた末、
今から約10か月後、おびただしい数の日本人がこの世界にやってくる。それを知らせずに放置すれば、帝国内も大混乱となるだろう。
当然そうなったとしても、武力による制圧は可能だと思う。とはいえ、どんな状況に転ぶかは未知数だ。転移者のなかには、おかしな能力に目覚めるヤツがいるかもしれない。それに加えて、王国や獣人国からの亡命者が出てくることも十分考えられる。
極論を言えば、帝国に従わない者をすべて殺してしまえば済む。実際そういう可能性も大いにあると思う。しかしながら帝国は、日本人を救済し続けた結果、ここまで大きくなっているのも事実。
帝国民の大多数は、同郷の人々を保護したがるのではないだろうか。少なくとも、「邪魔だから」とか「数が多すぎるから」程度では納得しないだろう。
――と、まあそんなこともあり、聖理愛への貸しを作る意味も込みで打ち明けることにしたわけだ。ナナシ村にとっても、帝国が安定しているほうがなにかと助かるしね。
「聖理愛、急に邪魔して悪いな」
「そんなことないわ。あなたならいつでも歓迎よ。……なんてこと言うと、隣の奥さんに睨まれるかしら?」
のっけから先制パンチを浴びせる聖理愛に対し、隣にいる椿は警戒したり喜んだりで、表情をコロコロと変化させている。
「それで――、今日はどんな話をしてくれるのかしら?」
「ああ、実はちょっと込み入った用件でな」
「そう、わかったわ」
それだけ言うとすぐに人払いをする聖理愛。相変わらず察しがいい。
周囲に誰もいなくなり、3人だけなのを確認した後、日本の現状を打ち明けた。当然、私たちが日本へ戻れることや女神の存在についても話していく――。
「なるほど、ね。帝国までたどり着くであろう規模はどの程度かしら? ぜひあなたの意見を聞かせて欲しいわ」
「なんだ、あまり驚かないんだな。日本への帰還も含めて、結構重大なことを打ち明けたつもりなんだが?」
「これでも内心、かなり動揺してるわよ? たぶん、交渉術のスキルが発動してるんじゃないかしら」
そう話している最中もほとんど表情を変えることはない。悪意はまったく感じられないが……聖理愛の度量が未だに掴めないでいた。
「私の予想では4~5万人程度ってところだと思うよ」
「その根拠も聞かせてくれる?」
「根拠ってほどじゃないけど。まずは――」
大陸の東側に転移した人は魔物によって全滅。西側にしても、王国領からここまでたどり着けるとは思えない。よって、帝国内に飛ばされたか、もしくは獣人国から流れ着いた一部の人くらいだろうと説明する。
「ありがとう、とても貴重な情報だわ」
「ぶっちゃけた話、ナナシ村にも利があるからな。それで、どう対処するのか聞いてもいいか?」
「そうね……人数はどうあれ、今回は受け入れざるを得ないでしょう」
「ついでに言うと、帝国の存在は日本でも知れ渡ってるよ。ここを頼って来る人は多いと思う」
「今から準備すればじゅうぶん受入れ可能よ。もちろん全員保護するつもりはないけれど」
「そこは好きにしてくれ。私がどうこう言える立場じゃない」
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