第200話 神々の目論見


 神々の食事事情にも興味をひかれるが……。女神のお腹を満たしたところで、まずは肝心なことを聞くことにする。



 魔物発生の原因は、太陽と月の女神が日本へ来たせいだと確定する。


 詳しい原因をつらつらと聞いたが、話の内容が複雑すぎてよくわからなかった。簡単に言えば、「無理やり日本へ来たことで、異世界との因果がまじりあい、魔物が発生する状態になった」ってことらしい。うん、自分で言っておいてアレだが、よくわかりません。

 

 一方、幻想結界については、日本の神々がほどこした緊急的な措置だった。


 結界には2つの目的があり、即時的なものと長期的なものに分かれている。まずは魔物や人類を封じ込めること。そしてもうひとつは、日本人を異世界へ送ること。言わば、超大規模な転移装置というわけだ。


 なんと、すべての日本人を異世界へ送ることで、現在発生している現象をリセットできるらしい。なんだかよくわからん理屈だが……人が一時的にいなくなることで、因果の乱れが正常に戻るんだと。


 もちろん学生村長も送還されるし、与えられた加護も消える。肝心の2柱神は完全に抹消されるようだ。


「理屈は……まあ置いといて、いきなり異世界に放り込んだら、大量に死人がでますよね? 1億人以上いるんですけど……」

「ん? もちろんそうですけど……なにか問題が?」

「いやいや、全国民が消えたらマズく……ってそうか。向こうで死んだら戻ってこれるのか」


 どうやらそのへんも織り込み済みのようだ。死に戻りすれば、異世界の記憶も能力もない状態で日本に帰ってくる。運よく、いやこの場合、運悪くか。どうにか街にたどり着き、そのまま異世界で粘るヤツもいるだろうけど、それはそれ、って感じみたいだ。


 ちなみに子どもや老人は、転移してすぐ、日本へ強制帰還される仕組みらしい。さすがは神様、ご都合てんこ盛りの神対応だった。


「女神さま、二神と学生村長だけを戻すのではダメなんですか?」

「んー、それを説明するのは難しいですね……。なんというか、もはやそういう次元の問題ではないんですよ」

「……じゃあ、私たちはどうなります?」

「それは大丈夫です。神にまつわる者は対象外ですから」


(なるほど。やはり私たち以前にも、異世界経験者がいたんだな)


 それはともかく――。


 何も知らない日本人はもちろんのこと、異世界の住民たちにしてみれば、なんともはた迷惑な話となる。だが……日本の神々からすれば、そんなことは些細なことだ。ナナーシアさまも平然と受け入れているしね。このあたりは、人智の及ばない道徳観なのだろう。


 まあなんにせよ、ナナシ村の住民には何の影響もないらしい。


「あ、そうだ。祖父や甥、それにあの村の人たちって……どの場所に飛ばされるか分かりますか? 出来れば保護したいんですけど」

「あー、彼らなら心配ないと思いますよ? 少なくとも、私の世界へ転移することはあり得ません」

「それって……爺ちゃんたちも?」

「はい。先ほど、彼らを司る神から聞いてきたので間違いありません」


(やっぱり爺ちゃん、異世界経験者だったのか。ステータスもバグってたし……神まで降臨させていたとはなぁ) 



 それとここからは余談なのだが――


 日本の神々としては、魔物がはびこる世界自体がダメなわけじゃない。今回の転移措置は、あくまでイレギュラーな状態をリセットすること。それこそが目的なのだ。


 魔物自体は世界中で、はるか昔から存在している。日本でも、邪鬼や妖怪といった魔物が徘徊していた。当然、それを倒す能力者も――。


 すでにあの頃から、現代ファンタジーは始まっていたのだ。




◇◇◇


 全国民転移だとか、爺ちゃんの秘密だとか、結構エグい話もあったが、肝心なことは知れた。神界に戻った女神をあとにして、椿とふたり、今後のことを話し合う。


 日本にいる同志を勧誘する案は継続。そのために、女神と異世界のことを日本中に知らしめる。信じるか信じないかは各自の判断に任せればいい。


 ただ、さっきの事実を公表していいものか……その判断に迷っていた。


「全国民転移とか……公表したら大騒ぎですよね」

「まあ、信じる人は少ないだろうけどね。どっちかと言えば、デマを流すイカれたヤツとして晒し上げられるかも」

「信じたら信じたで、異世界での保護を迫られそうな気がします」

「だよなぁ。どっちにしろ公表するメリットはないわ」


 保護するにしても、大陸の何処に飛ばされるかは不明。保護できる規模は限られるし……そもそも助けようという義務感も湧いてこなかった。公表するメリットがないどころか、自ら厄介事に首を突っ込むハメになる。


 そりゃあ、人道的観点からすれば非道な選択なのだろう。


 だが、私たちは神ではないのだ。人々を救済するという使命感も持ち合わせていない。信用されずに嘘つき呼ばわりされるか。信用されても助けずに、非人道的だと非難を浴びるか。どちらに転んでも最悪の展開が透けて見える。


「この事実を知るのは、女神と俺たちだけ。神々からのお告げもなしだ」

「じゃあ、私たちさえ黙っていれば――」

「ああ、そういうことだ」


 結局、この件については一切公表せず、限られたメンバーだけで共有することに決まった。


 来たる転移の日を迎えるまで、村人になれるものだけを囲うことに。「異世界人と生活してみたい」だとか、「いずれは異世界を体験してみたい」なんていう連中を集めるつもりだ。


 異世界PRには、スマホの動画機能を使えばいい。帯電の魔道具で充電ができるし、映像データを日本へ持って来れることは既に検証済みだ。


 街での生活風景、強大な魔物との戦闘シーン、獣人たちとの共同生活など、アピールできることはたくさんある。これらを動画で流しつつ、女神も配信に乗っけてしまおう。こうなったら、とことんやっちゃうのが良いと思うんだ。ついでに広告収入を得られたら最高だ。


「そんなに上手くいくものでしょうか? 私、そういう知識には疎くてよくわかりません」

「俺も良く知らないけど……うちのメンバーには適任者がいるだろ?」


 配信に関しては樹里のノウハウがあるし、夏希あたりに演出を頼めば、きっといいものが出来上がる。完全に他人任せだが、という魔法の言葉を使えば万事解決する。


「途中で雲行きが怪しくなったら異世界へ逃げ帰ろう。なにも無理してこっちに住む必要はないよ」

「そうですね。それくらいの気持ちで挑むのが正解なのかもしれません」

「まあ、なるようになるさ」







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