第188話 日本への帰還


「啓介さんが神界に来ていたとき。その間なら、誰かを呼び寄せることが……あるいは可能だったかもしれません。確証はありませんけど」


(なにやら、思いもよらぬ展開になったな……)


 考えてみれば、2柱神を信仰する者はまだ大勢いるだろうし、信仰度によって神力を得ていた可能性は十分にある。その力を使って、いずれかの女神が……もしくは両方ともが動いたのかもしれない。


「そういえば、女神の間って誰でも呼べるんですか? ナナーシアさまが降臨される前までは、私しかいけませんでしたよね」

「そうですね、条件としては2つ。女神の加護を受けている、もしくは特別な力……いわゆるユニークスキルを持っていることです」


 女神の加護かユニークスキルね。私が把握している中で、現在消息不明なのはただひとり。もし日本へ戻っているなら、いくら探しても見つからないはずだ。


 やはり、女神と接触したのは……


「もうひとりの村長――日本へ戻ったのはたぶんそいつですね。時期的にも合致しますし、ユニークスキルっぽいですからね」

「なるほど……たしかに条件は合いますね。それに自宅があったということは……転移の基点となる座標物も存在したはずです。それが冷蔵庫だったのかはわかりませんけど……」


 私が神界へ行ってる間に、女神ともうひとりの村長が接触。しかるべきタイミングで次元門を開き、日本へと戻った。たぶんこんな感じの流れだと思う。

 思念体の状態で転移できるのかは知らんが、当然、女神も一緒に行ったんだろう。その際、加護を授かった可能性もあるし、それなりの力をつけた状態で乗り込んでいった、とも考えられる。



「ほかの女神が関与しているとして、日本へ行く目的はナナーシアさまと同じですよね?」

「はい、そのとおりです。あとは……日本で神力を得て実体化するつもりなのかもしれません」

「なら、村長の職業はうってつけですね。日本で村人を増やせばいい」


 この世界と違い、日本の治安は抜群にいいのだ。忠誠度の下限も、かなり低い数値まで下げることが可能だろう。魔物がおらず、教会がないとしても、信仰度を稼ぐ手段はいくらでも思いつくはずだ。



 そんな会話を耳にして――、ほかのみんなは不安そうな表情をしている。


 もうひとりの村長については、例の調査のときに伝えてあるが……まさかこんな展開になっているとは思いもしなかったのだろう。「日本は大丈夫なのか」「すでに占拠されてるんじゃ……」「もう帰れなくなってたりして」なんてことをボソボソと話していた。

 

「みんな、この件についてはまだ確定したわけじゃない。それに異界の門は開いてるんだ。結論を出すのは、調査をしてからでも遅くないよ」

「でも村長、門は封印しなくていいの? 日本へ戻ったヤツが、門を通って村に来ちゃうんじゃ?」


 私が声をかけると、夏希がそんなことを心配してきた。まあ、そう思うのも不思議ではないけど……たぶん大丈夫だ。不安を解消するために、次元門の仕様について説明していく。

 

「それはないと思うぞ。あれは許可なく使えないはずだし、繋がってる場所も日本にある私の自宅だしな。女神さま――そうですよね?」

「はい、村長か私の許可なく利用はできません。座標も固定されていますので、なにも心配ありませんよ夏希さん」

「ですか……。あ、でも女神さま――だったら子ども村長の自宅って、なんで消えちゃったの? どうやって異世界に戻ってくるの?」


 その疑問について、女神が答えたのはこんな感じだ。


 まずは自宅が消えた理由。それは恐らく、正規の手順を踏まずに異世界転移を強行したから。そのせいで家ごと戻るしかなかった。

 本来であれば、日本にも、そして異世界にも自宅が同時に存在する。今回自宅ごと消えたのは、女神降臨を待たずして、無理やり転移したからだと教えてくれた。


 そして異世界に再び戻る方法。この場合も、最初のときと同じように、自宅ごと転移して来るはずだと言っている。

 ただし、現在その場所には私が張った結界がある。その結界を解除しなければ、異世界へ戻ることはできないと注釈を入れていた。固定された座標値に、干渉できない異物が存在している。そんな状態にあるようだ。


 予期せずして、相手の転移を妨害しているわけだ。まあ、戻って来る必要があるのかは定かじゃないけどね。少なくとも、こちらの世界にいる限りは何も恐れることはない。


「調査メンバーと日程が決まり次第、一度日本へ行ってみるつもりだ。その結果はすぐに伝えるからさ、その時もう一度話し合おうか」



 かくして、来たるべき日に向けての準備が始まる――。




◇◇◇


異世界生活555日目-240,194pt


 それからから2週間が過ぎ――


 ついに、日本へ旅立つときが来た。



 いまは朝食を頂きながら、いつものメンバーと顔を合わせているところだった。


「おい村長、くれぐれも無茶すんなよ……」

「安心しろ、ちょっと覗いてくるだけだし。それより冬也、留守中の警備を頼んだぞ」

「こっちのことは任せてくれ。……なあ、ちゃんと戻って来いよ?」

「心配するな。すぐに戻って来るよ」


 昨日も別れの挨拶をしただろうに……。ていうか、日本で一泊したら戻る予定だし、なにも今生の別れってわけじゃない。


「桜さん、啓介さんのこと……よろしくお願いします。私もついて行きたいけど、街のことを任されたので……」

「街には椿さんがいないとですもんね。能力継承のこともあるし……でも大丈夫、私が啓介さんを守ります!」


 今回の調査にあたり、椿に全能力を継承してある。もし私が死んでも、椿が残っているのでひと安心だ。それに今回は、女神さまも居残り組だ。そんな万全の体制を整えている。


「ねえ、さっきから別れのシーンで盛り上がってるけど……出発は昼からだよ? 今からそれだと疲れない?」

「秋ちゃんの言うとおり! だいたい、明日には戻って来るんだし、みんな心配し過ぎだなんだよ、ねぇ?」

「うん、もちろん油断は良くないけど。たった1年や2年で、日本がどうこうなってるはずがないよ。もうひとりの村長だって、戻って半年くらいでしょ?」


 たしかにそうだ。異世界帰りがひとりいたところで、やれることなんてたかが知れている。日本には自衛隊がいるし、警察だっているのだ。戻ったヤツが暴れた結果、アッサリ捕まってる可能性のほうが高いと思う。


 仮に仲間がいたとして――。そいつらが化け物クラスの戦力なら別だが……拠点の様子から察するに、あまり切れ者という印象はない。偏見かも知れないけど、怠け者っぽい感じがプンプンしてたし。


「とりあえず、このあと荷物の詰め込みだ。みんなも手伝ってくれ」

「魔石と食材、魔道具関係……女神特典は向こうで試すんでしょ?」

「ああ、日本にあるパソコンでも交換できるらしい。転移陣とか、女神像なんかで試す予定だ」


 ほかにも教会や万能貯蔵庫の設置、大地神の加護(村ボーナス)が適用されるかの確認、魔法や鑑定が使えるのかを確認するつもりでいる。

 今回の相棒を桜にしたのもそのためだ。水と氷、それに火魔法も使えるし、有事の際の判断力を加味して決定した。


「ああそうだった。みんな、身内の確認をしなくてほんとにいいのか? 誰か保護して欲しければ遠慮するなよ?」


 ちなみに私は、爺さんと甥っ子のところに寄るつもりだ。割と近場だし、今の身体能力なら走っても30分程度で到着するはず。村に誘うかはわからんけど、生存報告だけはしておくつもりでいる。


 だがほかのメンバーは、なぜか誰ひとり願いでない。いまさら遠慮してるとも思えないので、のっぴきならない事情でもあるのだろう。そういえば以前、身内の話になったときもあまり語らなかった記憶がある。


(まあ、これ以上深く聞くのもアレだし話題を変えるか)



「ところでみんな、日本がファンタジー世界になってたらどうするよ?」












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