第187話 異界の門


「皆の者、しばし儂の話を聞いてくれるか? なに、そう慌てるような話ではないからの。そのまま食事を続けてくれて構わん」


 ドラゴの話が始まると――、まだ状況がわかってない者、なんとなく察している者、一部でやたらと気合の入っている者など、みんなの注目が集まる。



「実は先ほど、女神さまがご降臨なされた――。それでの、ナナーシアさまとしては、街の住民とも親しく交流したいそうなんじゃ。ついてはここにいる皆も、そのつもりで温かく迎え入れてほしい」


 ドラゴはそこまで言うと、私のほうを黙って見つめていた。きっと「ここまでエスコートしてこい」ということなんだろう。


 食堂全体はもの凄くざわめいている。


 待望の女神降臨となればそれも当たり前だろう。大半の者が天井を見上げているので、「女神は天から舞い降りる」というのがこの世界でも通説なのかもしれない。


「ナナーシアさま、ご案内しますので一緒に参りましょう。もうここまで来たら、しれっと歩いて行くのが最善だと思います」

「はい、よろしくお願いします」


 私と一緒に、歩いて壇上へと上がる女神さま。ドッキリ作戦が功を奏したのか、思わず平伏してしまう者もでなかった。


 女神はとても美しいが、格好は村人のそれと同じなので、そこまでの違和感もなく自己紹介が進んでいく――。私も終始平然をよそおい、村人を紹介するかのような態度に徹していた。


 やがて、女神の最終目標や日本への帰還方法、新たに進化した『女神信仰』についての説明などもしつつ、歓迎ムードに包まれながら女神のお披露目が終わる。


 随分とあっけない降臨の儀だったが、『親近感』に関しては十二分に得られたと思う。




◇◇◇


「――結果的には大成功、ですかね? 少なくとも騒ぎにはならなかったですし」

「ええ、とても満足していますよ。みなさん、私の話も普通に聞いてくれましたし、信仰心の高まりも強く感じました」


 食堂でのやり取りを済ませたあと、午後からはナナシ村に移動していた。『異界の門』解放の瞬間を見るため、私の自宅周辺には、村人たちも大集合している状態だ。



「村長、冷蔵庫持ってきたぞー。設置場所はこのへんでいいのか?」

「ああ。結構デカくなるらしいけど、これだけ広ければ平気だろう。自宅にも転移陣にも近いし、丁度いいと思う」


 冬也が冷蔵庫を運んできたので、さっそく置き場を指示する。ここは自宅の真正面。以前、鍛冶場やNATUKI工房があった場所だ。冷蔵庫の扉が、自宅のほうを向くように設定してある。


「女神さま。今さらですけど、冷蔵庫って大きくなるだけですか? それとも形状自体が変化したりします?」

「大きさが変わるだけですよ。門としての機能は、冷蔵室と冷凍室のどちらかに設定できます。女神のおすすめは冷蔵室ですね」

「……そうですか、では冷蔵でお願いします。引き出しを開けて転移というのは、絵面的にも少々マズい気がしますので」


 うちの冷蔵庫は、上段が片開きの扉を開閉するタイプで、下段が引き出し式の冷凍室だ。正直どっちでもよかったけど、扉を開けて移動するほうがなんとなく安全な気が……しないでもない。


 設置場所や大きさが決まると、いよいよ儀式が始まる。神力を注いでいるのだろうか、女神が手をかざすと……冷蔵庫が徐々に大きくなっていく。とてもシュールな光景だが、日本人以外は非常に驚いていた。


 しばらくして、大型の物置程度になったところで変化がおさまる――。


(なんか、ファンタジー感のカケラもないけど……これが『異界の門』なんだよな。いや、じゅうぶん凄い現象だけども……)


 そんな感想を抱いていると、今度は門の機能を解放するらしい。


 冷蔵庫が大きくなった分、そのままでは扉に手が届かないので、土魔法を使って階段を作っていく。『異界の門へと続く階段』、そんな神秘的なイメージをしかけたが……ひとまず実用性を優先してスロープ状にしておいた。あとで樹里にお願いして、それっぽいものを作り直せばいい。



 スロープも完成して、まずは指示通りに扉を開けてみたのだが――ここでひとつの異変が起きた。とはいえ、それに気づいているのは女神だけのようだが……。


「これはいったい……。いえ、まさかそんなはずは――」

「あの……ナナーシアさま?」

「啓介さん、ひとまず扉を閉めてください。異界の門は開かれました」


 女神は首をかしげて何やら思案しているようだ。ちなみに開いた扉の中は、何も映っていない鏡面のようになっていた。たしかに不思議な状態ではあるけど、私には何がおかしいのかわからなかった。


「お集りの皆さん、異界への扉は開かれました。まだ向こうへ行くことは出来ませんが、いずれは共に出向いてくれると助かります。今晩の宴も楽しみにしておりますので、どうぞよろしくお願いします!」


 なんだか良くわからないけど、これで儀式は終わりのようだ。集まっていた村人たちもやがて散り散りになり、大半は街へと戻っていった。今晩にも正式な歓迎会をするので、その準備に取り掛かるつもりなんだと思う。



◇◇◇


 異界の門を設置したあと、を集めて会合を開くことになった。一部、ドラゴたち主要なメンバーも同席している。


 集めた目的はただひとつ、「日本に帰るか、ここに残るか」の意思確認である。いまは村の食堂に集まり、女神からの説明をあらためて受けたところだ。


「女神さまへ協力するかは本当に自由だ。ここに残ってもいいし、日本に帰ってもいい。まあ、日本に戻れば大騒ぎだろうけどな……そのあたりは自己責任で頼むよ。とてもじゃないが守り切れない」


 そう宣言してから、みんなの意見や正直な思いを聞いていく。


「あの、一度日本に帰ってみたいけど……。向こうでの生活に馴染めなかったら、またこっちへ戻ってもいいですか?」

「ぜんぜん構わないよ。まずないとは思うけど、忠誠度が50未満に下がってたら無理だぞ?」

「じゃあ、家族や友達なんかを誘うのはアリですか? あ、もちろん忠誠度はクリアしてる前提の話で」

「本人が希望するなら歓迎するよ。私もいずれは募集してみようかと考えてるし。手段については……向こうの現状を見てから決めるつもりだよ」


 質問の大多数は、この2点が占めていた。他にも「日本でも村を作るのか」「日本を占領するつもりなのか」「日本にいる人を連れてくる手段があるのか」などの問いもあった。


 日本で村を作るかは、向こうへ行ってみないとわからない。自宅の状況とか、結界が張れるのかを確認してからになるだろう。


 それと日本の占領については……まずありえない、と答えた。そもそも占領する意味がないし、そんな無駄なことにポイントを消費したくない。日本で変なことになるようなら、さっさと戻って来るつもりでいる。


「現状だと、日本の物資を取り寄せる方法がない。そういうものを保管する場所として、結界を張るのはアリかと考えてるよ」

「なるほど、買い物くらいはできますもんね。お金は……まあ、それもなんとかなるか」


 最後の質問については、『女神の恩恵』を強化すれば解決する。特典内容を3つまで強化できるので、『異界の門』を選択する予定でいる。

 残りの2つをどれにするかは悩むけど、その都度決められるみたいので、じっくりと選べばいい。


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<異界の門+:―pt>

異界との渡来が可能となる次元門

※地球人の渡来に制限がなくなる<NEW>

※人以外の移動は不可 

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「と、まあこんなところだけど……女神さま、さっきのアレって一体何だったんですか? 異界の門に関係ありますよね?」

「はい。実はあの門……啓介さんが開けたときには、もう解放されてたんですよ。私が封印を解く前に使用できる状態でした」

「それって、ほかの女神が解放したってことですか?」

「どうやらそのようです。いつの段階で、どうやったのかはわかりませんが……女神にしか成しえないのは間違いありませんので」

「だとすれば、次元門をつかって誰かを日本に送り返したと?」


(たしか、太陽と月の女神は思念体になってるはず。実体を持たなくても、そういう力は行使できるのだろうか)


「考えられるとしたら、啓介さんが神界に来ていたときです。あの時なら、あるいは誰かを呼び寄せることが可能だったかも……」











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