第164話 日本帝国の軌跡
「この子とは、この世界に転移した時からずっと一緒よ。今日はそのことを話しておこうと思ったの、あなたへの友好の証として、ね」
そう語った聖女は、今日に至るまでの経緯を話してくれるらしい。どこまで事実かはわからんが、私もすごく興味がある。アマルディア王国のことは何もしらないし、この機会に少しでも聞いておきたいところだ。
「まずはこの子の紹介をするわ。ほら
聖女にそう促された女性は一瞬ビクッとしたあと、おずおずと口を開いた。相変わらず顔はうつむいたままだ。
「あの……わたし
「どうも初めまして、ナナシ村で村長をしている啓介です。こっちは竜人のドラゴ、うちの頼れる戦士です」
「村人のドラゴじゃ、よろしくのぉ。しかし、そなたが勇者だったとはな。良かったら一度手合わせなぞどうじゃろ?」
「え? あの、そういうのはちょっと……」
どうやらこの勇者、だいぶ奥手? というか引っ込み思案な性格のようだ。姉が明け透けなぶん、妹でバランスをとっているのか。それはよくわからんが、少なくとも戦闘狂でないことは確認できた……のか?
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職業:勇者
ユニークスキル
導く者Lv-:自身に集う全ての者は身体能力が大きく向上する
勇者の威厳Lv-:自身から敵対しない限り魔物に襲われない
スキル
剣術 Lv5
身体強化Lv5
光魔法 Lv1
治癒魔法Lv1
超回復 Lv5
直感 Lv5
幸運 Lv1
空間収納Lv4
限界突破Lv2
消費MP減少Lv3
取得経験値増加Lv2
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歳は18、身長が低いのもあってか見た目はもっと幼く見える。黒髪ボブの可愛らしい感じなんだが、ずっと俯いてるせいで表情の起伏がほとんどわからない。姉のご機嫌を伺うかのように、チラ見しては俯くの繰り返しだ。
こうしている今もかなり居づらそうにしていた。おっさんが嫌いなのか、それとも精神的な負担を感じているのか。そのあたりはよくわからない。
一方、肝心のステータスはまさに勇者という感じだ。ユニークスキルの内容は勇人と全然違うけど、ふたつとも超強力な能力に感じる。
(どちらかといえば統率者――軍隊向きなのかな? でもそれにしてはスキルレベルの偏りが激しすぎる……)
剣術や身体強化、それに超回復と直感が飛びぬけて高い。逆に魔法系統は全然伸びてないし……幸運もなぜかLv1のままだ。
(なんだろこれ? 一見すると、脳筋主人公にしか思えんのだが……本人の性格は非常に大人しそうだし、うむ……全然わからん)
そうこうしていると、姉である聖女がたまらず声を掛けてきた。
「この子は昔からこういう感じなのよ。それでどう? こっちの勇者の品定めは済んだかしら? 手の内を見せた意味も汲んでくれるとありがたいんだけど」
「ああ、ずっと気になっていたからね。そっちの誠意として受け取らせてもらうよ」
「そう、なら良かったわ。じゃあ次に、私たちのこれまでについて話しましょう」
そう語った聖女は、この世界に来てからのこと教えてくれた。転移直後のことに始まり、辺境伯との共謀、ケーモスへたどり着くまでの経緯はこんな感じだ――。
・私たちと同日、あの光が収まると――王城の広間へと転移していた。その場にいたのは『勇者』『聖女』『剣聖』『賢者』の4人。勇者の姉である
・国王は「伝説の勇者一行の再来だ」と、喜んでいたらしい。すぐに鑑定の儀が執り行われ、正式に国賓として迎えられた。まさにテンプレどおりの始まり、選ばれし者の待遇だった。
しばらくの間は、首都の中にあるダンジョンで戦力強化をしており、その途中で勇者と姉が合流したらしい。聖理愛がどうやって生き抜いたかは割愛するが、初期の騒動に紛れて上手いことやったようだ。
薄々そうだと思っていたが……この姉、異世界知識は相当なものである。ヘタすりゃ私たちより詳しいかも知れない。
・それからややあって、本物の『聖女』が原因不明の死を遂げる。まあ、不明も何もあったもんじゃない、その首謀者は彼女に決まっている。
そしてこれ以降、勇者一行の指揮は聖理愛がとるように、次いで『賢者』が参謀というポジションだったらしい。言わずもがな、賢者も剣聖も、聖理愛とは良い仲になっていた。
・辺境伯との結託は、本当に偶然だったと姉本人は言っている。要約すると、相思相愛と利害の一致、これが決め手だったようだ。ちなみに姉の本命はこの辺境伯らしく、コイツも例に漏れずおっさんだった。
聖理愛に魅了系スキルはないはずなんだが――天賦の才とでも言えばいいのか、見事手玉にとっていた。
・あとは概ね情報どおりだ。オークを湧かせて各地を回り、王国と獣人国の戦力バランスを均衡させて、このケーモスに拠点を構えることになる。
唯一の想定外は、元帝国領にオークを大発生させられなかったこと。本来なら、両国の戦力をそこに充てさせたかったが、賢者が死んでしまったため、計画がとん挫してしまった。
「――とまあ、こんなところかしらね。どこまで信じるかは……あなたにお任せするわ」
「いや、じゅうぶん参考になったよ。で、今後はどう動くつもりなんだ? わざわざここまで来たんだし、両国と戦争ってわけでもないんだろ?」
「私たち日本人の数だと、このケーモス領くらいがちょうど良いの。北の防壁を押さえてれば問題ないし、あとは相手の出方次第というところね」
聖理愛の計画だと、ケーモスを首都として、北と西にも街を作ってオークと獣人に備える予定らしい。現在の人口は約9万、それぞれ3万人規模の街にして、この地で生きていくと言っている。
「なるほど。じゃあ、私たちのいる大森林には手を出さないと?」
「少なくとも、あなたが存在している限りは不可能だと考えているわ」
「それは、私が死んだら攻めてくるってことか?」
「そんなわけないじゃない。その頃にはわたしだって死んでるわよ、自分が死んだあとのことなんかどうでもいいわ」
「そうか。――ところで、日本への帰還はもう諦めたのか?」
「あら、なんでそんなことを聞くのかしら」
「賢者のスキルで何か知ってるんじゃないのかと思ってな」
賢者のユニークスキル『叡智の書』、そこには日本への帰還方法なんかも記されていた可能性がある。迂闊に聞くのはどうかと思ったが、読心術を警戒しつつも話題に出してみた。
「わたしが聞いた限りではなかったわね。あの人のスキルレベルが上がれば……ってまあ、今となってはそれも叶わないことよ」
「じゃあ、帰りたいという気持ちはあるのか? 他の日本人たちも含めて聞きたい」
「他の人がどうなのかは知らない、別に知りたくもないし。ちなみに私は全くないわよ。この世界の方がよっぽど生きやすいもの」
なるほど、日本への帰還には全く興味がないらしい。まあ、おっさんハーレムも作ってるようだし、彼女にとっては今が最高なのかも知れない。
と、そんな感想を抱いていると――今までずっと沈黙していた妹のほうがボソリとつぶやいた。
「あ、あの……わたしは帰りたいかも、です。ファンタジーの世界は大好きですけど、人と争うのはもう……したくありません」
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