第161話 『範囲指定++』
異世界生活380日目-59,630pt
ケーモス襲撃事件から、はや5日、今では村の生活も平常運転に戻っていた。ダンジョン狩りも再開しており、開拓地の警戒態勢も解除されている。
ドラゴによる演説も無事に終わって、あとは何人来てくれるのかを待つばかり。帝国の計画によれば、あと5日ほど拘束したのち、全ての住民を解放するらしい。
拘束している10日の間に西の防壁警備を整えつつ、獣人国との国境にも、新たな壁を建設する予定のようだ。
肝心かなめ、街にいる住民たちの反応だが……こちらは正直言って微妙な感じだった。当たり前のことだけど、大半の人が激高していたんだと。
これが無差別虐殺されたとかなら、恐怖におびえて怒るどころではなかっただろう――けれど帝国はソレをしなかった。さすがに兵士は全滅したが、特務隊や冒険者含め、抵抗する者以外はほぼ無傷で拘束していた。
(日本人ゆえの対処なのか、それとも別の狙いがあるのか……まあ、考えたところで仕方ない)
騒ぐ住民たちをなんとか落ち着かせ、ようやく話を切り出すドラゴ。選択肢のひとつとして、開拓地での生活保障を淡々と説明したらしい。彼の感覚だと、話を真剣に聞いていたのは約2割ほど、残りは終始疑いの目で見ていたようだ。
――と、まあこんな感じだったんだけど、今は毎日の炊き出しを継続しているところだ。襲撃初日から今日まで、朝昼晩、芋をメインに腹いっぱい食わせている。
これもどこまで効果があるかはわからないが……少なくとも、食事中だけは悪くない雰囲気が漂っている。ひとまずあと5日間はこのまま続ける予定だ。
◇◇◇
「桜、どう? 体制は決まった?」
「はい、大筋は決めましたよ。警備隊30名とナナシ軍20名を常駐させます。戦力の約3割弱ってところですね」
今日は桜とふたりで、開拓地の警備体制を検討している。日本帝国への警戒と、今後増えるかもしれない開拓民への対応がメインだった。
「うん、良さそうだね。集団転移の危険はなくなったし、あとのことは結界で防げる。結界の高さも一気に上げたし、もう乗り越えてくる心配もほとんどないはずだ」
「そうですね。でも……ほんとに良かったんですか? 貴重な能力強化を使っちゃって」
「もちろんだよ。使わないと意味ないし、まだ1回分残ってる」
「ならいいんですけど……ちょっと申し訳ないかなって」
実は先日、あと2回残していた能力強化を1つ使った。その対象は『範囲指定+』、その中にある『形状・幅・高さを自由に変更できる』って項目だ。
帝国にいる土魔法使いは、領主館に張った高さ10mの結界を1日で超えてきた。「こりゃヘタすると20mでもヤバいな」と考え、ロアと杏子に検証してもらったんだ。
土壁を階段状にしたり、ブロック状にして積み上げてみたり、そのほかにもいろんなパターンを試していった。もちろん、彼女らが優秀だからこそってのもあるけど……時間さえかければ、帝国のヤツらでも乗り越えるのは可能という結論が出た。
とはいえ20mならまだしも、30m、40mと高くなればなるほど、乗り越えるのに相応の日数がかかる。森の結界は毎日巡回しているので、何日も気づかないなんてことはまずありえない。見つけ次第、結界の位置をズラすなり魔法で破壊してしまえば十分対応できる。
検証により、ある程度の高さを確保できれば問題ないことがわかった。今回はひとまず、結界の高さを50mに変更して様子をみることに決めたのだった。
「気づかってくれて嬉しいよ。これは私の意志で決めたことだし、他のことにも融通が利く能力だ。絶対に役立つと思ってる」
「ですか……。私の発案だったから気になっちゃって、でもそう思ってくれるなら良かったです」
「ぶっちゃけ、桜の頼みなら何に使ってもいいくらいだ。皆には内緒だけどな」
「おっと? これはついに、私ルートのフラグが立っちゃいました?」
「それ、わかってて言ってるよな? ……人としても、ひとりの女性としても魅力的だよ。転移初日からずっと一緒なんだ。お互い、悪い気はしてないだろ?」
1年以上の同居生活。互いの気心も知れてるし、良い所も悪い所も隠さずさらけ出している。肉体的な関係はないけど、精神面では強く支えあっていた。
「ですね、私も同じ気持ちですよ。椿さんを含めて私たち3人は特別な関係だと思ってます。啓介さんの誠実なところも好きですし、もう少し待ってようかなって感じですよ私は――」
「ああ。正直俺も、いつまで我慢できるかわかったもんじゃないしな。その時が来たら……よろしくな」
「あんまり遅いと私から行くかもですけどね。さすがにそうなったら覚悟してくださいね?」
桜の言葉に黙って頷き、ふたりだけの会議はお開きとなる。
(不誠実だとわかっているが、別に悪いとは思ってない。椿にも筒抜けなのは確実だし、せめてキチンと話し合わないとな)
◇◇◇
午前中のやり取りもありつつ――その日の昼食後は、とある目的のために鍛冶場の様子を見に行くことに。
鉄を打つ軽快な音が聞こえるなか、入り口からそっと中を覗くと……所狭しと並んだ作業台に向かい、黙々と作業をしている職人たちの姿が見えた。
開設当初はベリトアとベアーズのふたりだけ、鍛冶場の中も閑散としていた。それが今ではこの通り。10名ほどの弟子が増えてかなり手狭になっている。近々ここも増築する予定なので、今しばらくは我慢してほしいところだ。
作業を中断させて申し訳ないが、一番奥に陣取っていたベアーズに声をかける。その手元には目的のブツがあり、今まさに仕上げ作業をしているところだった。
「よぉ村長、そろそろ来る頃だと思ってた。今ちょうど最後の仕上げだからな。そのまま見ていくだろ?」
「作業の途中にすまんな。もちろん見させてもらうよ、ありがたい」
私がそう返答するとベアーズはすぐ作業に戻る。真剣な顔つきで、何度も何度も刀身を確認しては微調整を繰り返していく。
いま彼が手掛けているのは、いわゆる『カタナ』というヤツだ。鍛造の工程なんかは違うだろうけど、パッと見た感じはかなりそれっぽい。冬也の動画知識だよりとはいえ、素人にはさして違いが判らない程度には仕上がっている。
「――よし、まあこんなもんだろう。金具と鞘は夏希に任せてるからな、完成まであと2日ってところだ」
「いやはや、実に見事なもんだよ。魔鉄製だからか、刀身が煌めいてるし……私も一振りお願いしようかな」
目の前にあるカタナは、魔鉄のおかげで強度はお墨付き、薄緑色の刀身が波打つように煌めいている。まるで妖刀みたいな雰囲気を醸し出していた。
「もちろん構わんが……これは武士ってヤツのためなんだろ?」
「ああ、武士のスキルはカタナが無いと発動しないらしい。最高の褒賞になると思うよ」
「そうか。まあ、これがカタナってのに分類されりゃいいけど……さすがにそこまでは保証できんぞ?」
「それなら大丈夫だ。この段階でも『カタナの刀身』って表示されてる」
「なら良かった。予備も含め、もう何振りか作っておく」
「ありがたい、よろしく頼むよ」
これは数日後のことだけど――
完成品を武士に渡したところ、『刀術』と『居合切り』のスキルも見事に発動していたよ。本人もびっくりするほど威力が上がっていて、居合による斬撃も、ド派手な見た目と破壊力を兼ね備えていた。
「村長……オレ、めっちゃ嬉しいっす! 村のために全力で頑張るんで! マジ期待しててくださいっ」
そんな感じで興奮しまくる武士。忠誠度もさらに上がって良かったんだが……調子に乗って死ぬのだけは勘弁してほしいところだ。
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啓介 Lv124 41歳
職業:村長 ナナシ村 ★★☆
現在の信仰度:59,630pt
ユニークスキル 村Lv-(870/5000)
『村長権限』『追放指定』『能力模倣』
『閲覧』『徴収』『物資転送』『念話』
『継承+』『女神の恩恵』
『範囲指定++』<NEW>
拡大する土地の範囲と方向を指定できる
※地域の制限なし
※地域により恩恵の制限あり
形状・幅・高さを自由に変更可能<NEW>
※最小幅1m、高さ制限100m
※高さ調整による拡張面積の減少なし
村ボーナス
★ 豊穣の大地
★★ 万能貯蔵庫
☆☆☆ 女神信仰
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武士 Lv42 22歳
村人:忠誠86
職業:武士
スキル:刀術Lv4
刀の扱いに大きく上方補正がかかる
刀で攻撃する際の威力が大きく上昇する
スキル:居合切りLv2<UP>
納刀状態からの居合切りで斬撃を飛ばす
※斬撃数:2
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『妖刀:
制作者:ベアーズ、夏希
希少度:☆☆☆☆
特殊製法により魔鉄を鍛えて仕上げた刀
魔力の浸透率向上、切れ味上昇
特殊効果1:耐久値向上
特殊効果2:斬った相手のMPを吸収
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