第129話 任命式
「じゃあ紹介するよ」
私がそう言うと、壇上にあがった3人の補佐官に視線が集まり、村人全員から歓声が湧きおこる。
「まず一人目は椿だ。彼女には『村長代行』を任せる。開拓地において、彼女は私と同等の権限を持つ。いわば開拓地の統括者だ」
ここにいる誰もが椿のことを慕っている。今日までの実績と、彼女自身の人柄もそれを裏付けていた。
「村長代行を命じられました椿です。最初に宣言しますが、私は村長をなにより優先します。他のことは二の次となりますことをご了承ください」
ニッコリと微笑みながらそんな宣言をかます椿だったが、村人の反応は随分とゆるい。女性陣は「うんうん、わかってるよ」って感じだし、野郎のなかには「さすが村長夫人だ!」と、ヤジも飛ばす者もいた。
「……まだ夫人ではありません。ですが、ハッキリ言って狙ってます!」
(わざわざ返さなくてもいいのに……。そんなこと言うと余計に――あ、また変に騒ぐヤツらが……)
半分以上本気なのはわかっている。だが今は、場の空気を和らげるためだと信じつつ、ヤジを収めて話を続ける。
「はい、じゃあ次に行くぞ! 二人目は春香だ。彼女には『人事担当』の責任者を命じる」
春香は持ち前の明るさと会話のうまさが際立つ。誰とでもすぐ仲良くなれるし、気取ったところも一切ない。しかも、上級鑑定という超重要スキル持ちだ。人事担当を任せるなら彼女しかいないと思う。
「どうもー春香でーす! 開拓民の受入れと台帳管理、村人の選抜なんかもやるからよろしくねー」
春香が自己紹介すると、またもや歓声が上がる。意外と言っては悪いけど、男性陣の視線が熱い。若返ったのもあるかもしれんが、かなりの人気ぶりだった。
「あっ、それとわたし、ベアーズさんとお付き合いしてまーす。そっちもよろしくねー!」
(んん? マジで? ベアーズと? 初耳なんですけど……)
ベアーズの方に向かって手を振る春香。そんな意中の彼も、恥ずかしそうに手を振り返していた。
(おのれベアーズ……独り身が好きだってのは嘘だったんかい! いやまあ、結婚はしてないけどさぁ。この件については、後で詳しく問い詰めてやる……)
それにしても……この暴露劇は何なんだ。椿も春香も、強烈なひと言をブッ込んでいくんだが……。
おかしい。当初はもう少し
「……次、最後の補佐官はメリナードだ。彼には『物資担当』を任せる。開拓民への配給はもとより、食糧の手配もすべて一任する」
「ご紹介に預かりました、メリナードです。我ら3名が中心となって、開拓計画を立案していきます。関係部署の方と連携して、より良い国にしていきたいと考えております」
素晴らしい! ――まさに模範とも言える素敵な挨拶だった。
「ちなみにわたくし、村長が国王になることを望んでおります。そんな国づくりができるように、皆さんのご協力をお願いいたします」
その言葉を聞いた村人たちは、割れんばかりの拍手をしていた。なんなら今日一番の盛り上がりを見せている。
(メリナード、お前もか……)
3人とも、ここぞとばかりに好きなことを語っている。メリナードは今もなお、ご満悦の顔で村人を扇動していた。
「村長、今日は我々の晴れ舞台です。決意表明のひとつやふたつ、大目に見てほしいものですな」
「……そう、だな。みんなを選んだのは私だし、思うとおりにしてくれ。ああそれともうひとつ、春香とメリナードの副官としてメリマスをつける」
残念ながらメリマスは街に行っている。彼なら何を言い出すのかな、そんなことを思いながら次の発表に移った。
「次は『建設担当』、責任者はルドルグだ。その副官にはマリアを任命している」
「わしが責任者とはなぁ。まあ柄でもないが……
「ええ、こちらこそよろしくねルド爺」
建設担当には、開墾・治水・建築を一手に引き受けてもらう。建築資材と家具全般を担当する夏希、水路や道路を担当するロア、伐採には木こり夫婦を配属している。
みんなには、開拓民を指導する立場となってもらうので、苦労をかけるが頑張ってほしい。
「そして『医療担当』の責任者は杏子に任せる。秋穂と葉月の三人で協力してくれ。開拓地には村ボーナスの恩恵がない。病気やけがの対処をお願いしたい」
「任せてください。私たちの治癒魔法も、開拓地でなら本領発揮できると思います」
当初は、責任者を秋穂に任せるつもりだったが、秋穂と葉月が話し合って、リーダーを杏子に頼んだらしい。葉月とは長い付き合いがあるし、秋穂も杏子のことを「お姉さん、お姉さん」と慕っている。
私としても安心して任せられる人材なので、なんの文句もなかった。
「最後は『戦闘担当』だ。これについては、『警備隊』と『ナナシ軍』の2つに分けることにした」
桜を壇上に呼び、隣に立たせる。
「まずは、全てを統括する『総司令』を桜に任命する。彼女には、警備隊とナナシ軍、そしてダンジョン攻略の編成の総合管理を任せる」
「桜です。――自分や家族を守るには、自らが力を持つしかありません。たとえ戦闘職でなくても、強くなることはできます。強要はしませんけど、ひとりでも多くの人が参加してください。いつでも待ってます」
あれ? 彼女も何か言うかと思ったけど……これで終わりみたいだ。ちょっと拍子抜けしたが、話を続けていく。
「では続けて、『警備隊』の隊長をラドに任命する。警備隊には、開拓地の巡回警備、門番、森の入口での案内役を任せる。開拓民の取締まりは、ラドに全権を持たすから、そのつもりで頼むよ」
「しかと任された。我らはもう、ゴブリンや転移者に怯える集団ではない。どんな強敵にも立ち向かうと誓おう。みなの志願を待っている」
ラドの言った通り、今やミノタウロスすら狩れる実力を持っている。職業やスキルも手に入れ、最強の戦士団と化していた。私の信頼も厚く、これ以上ない適任者だった。
「もうひとつの部隊、『ナナシ軍』の責任者は冬也だ。その副官には勇人と立花をつける。この部隊には、敵対者との対人戦をやってもらう」
「軍団長の冬也です。ナナシ軍は殺し合いをします。人と人が命を懸けて戦うことになります。その覚悟がある者は入隊してください。以上です」
「ナナシ軍には、平常時の警備もしてもらう。桜、冬也、ラドの3名は常に連携をして事態にあたってくれ」
「「「はい」」」
なるほどたしかに、これは冗談交じりで話せる内容じゃない。3人とも、笑みの一つも見せず、真剣なまなざしで語っていた。演説を聞いていた村人たちも、みんな食い入るように聞いていたのが印象的だった。
「今日の話は以上だ――。話を聞いて奮起する者、迷う者もいるだろうけど、最後は自分で決めてくれ。どの道を選んでもかまわない。自分のできることで村と私に貢献してくれ」
こうして新体制も整い、明日から本格的に動き出すことになる。
解散となったはずの食堂には、まだ全員が残っている。おのおのが責任者のもとへ駆け寄り、様々な問いかけをしていた。
冗談交じりに春香や椿に話しかける者。
真剣な表情で桜たちのもとに行く者。
理由はそれぞれだが、みんなの表情はとても晴れやかだった。
<掲示板に張り出された一覧表>
===================
<代表者>
『開拓創始者兼村長:啓介』
・各部署の任命権を持つ
・啓介の指示は絶対の優先事項となる
・普段はお飾り
<補佐官>
『村長代行:椿』
・村長と同等の権限を持つ
・開拓地の総管理者
『人事担当:春香』
・住民の受入れと台帳の管理者
『物資担当:メリナード』
・物資および食糧の配給
『補足事項』
・春香とメリナードの副官にメリマスをつける
・開拓地の開発および人員配備は、補佐官3名で決定する
・村長から直接指示がない場合は、各自の自由裁量で運営する
<建設担当>
『責任者:ルドルグ』
『担当者:マリア・夏希・ロア・村の建築班・木こり夫婦』
・開墾、治水、建築作業に従事する開拓民のまとめ役
『補足』
・ルドルグの副官にマリアをつける
・いずれは現領主のウルフォクスを配属予定
<医療担当>
『責任者:杏子』
『担当者:秋穂、葉月』
・開拓地の医療と戦闘部隊を兼務する
<戦闘担当>
『責任者:桜』
・副官にドラゴをつける
・治安維持、対外戦闘、ダンジョン攻略の統括責任者
・警備隊、ナナシ軍、医療担当を含め、部隊編成の権限を持つ
<警備隊>
『隊長:ラド』
『担当者:兎人と狼人の戦士団11名・斥候2名・ウルガン・ウルーク』
・開拓地の巡回警備、門兵、森の入口案内役
<ナナシ軍>
『軍団長:冬也』
『担当者:勇人、立花、ドラゴ、ドリー、ドルト、ドレス』
・冬也の副官に勇人と立花をつける
・敵対勢力との交戦部隊、平時は治安部隊に配属する
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