第127話 これぞまさに芋づる式


異世界生活306日目-信仰度:1455pt

 領主会談から6日後



 開拓を始めてから2週間。整地作業も順調に進み、周りの景色もさらに広がっていた。


 開拓地の中心部には、大きな長屋が所狭しと立ち並んでいる。1軒あたりの許容人数は30人くらいだろうか。それがすでに、25軒も完成している。もちろん、今も急ピッチで増設中だ。


「住む人もいないのに大丈夫なの?」


 普通はそう思うだろう。ところがどっこい。昨日、初めての移住希望者が訪れたのだ。



 そのきっかけは、転移の魔法陣を街に置いたことに始まる。



 いつでも気軽に街へ行ける――そんな状況が出来上がり、村人たちも利用するようになった。その目的は、買い物だったり見物だったりと様々だが、安全に、しかも一瞬で行けるとなれば、出かけたくなるのは当たり前だ。


 しかも、自分たちのレベルも格段に向上している。そこらのゴロツキに絡まれたところで、返り討ちにするのは造作もない。

 そんな後押しもあり、午後からの自由時間を利用して、街へと繰り出していったのだった。


 そして街へ行けば当然、現地の人との交流が発生する。服屋だったり飲食店だったり、中には酒場へ行くヤツなんかもいる。とにかく、いろんな人と話す機会があるわけだ。


 そこでおっさんは閃いた。「街の人を芋で一本釣りできないかな」と。


 隆之介派閥による監視の目があるとはいえ、領主はこっちの陣営なんだ。村のことや芋のことを大っぴらにしても、状況が変わった今なら問題ない。

 そこで私は街に行く村人たちに、こんな噂を広めさせたのだ。



「ナナシ村の開拓民になれば、あの幻の芋が食える。しかも毎日、腹いっぱい食えるぞ」


 街から戻ってきた村人にさっそく手ごたえを聞くと、その効果は抜群、たちどころに噂が広まった。まだ数日だというのに、至るところで話題になっている。


 ――そして昨日の昼頃、早くも移住希望者が訪れてきたってわけだ。



 昨日開拓地を訪れたのは8人、いわゆる貧困街と呼ばれる地区に住んでいた2つの家族だった。風呂敷を背負って登場した家族は、半信半疑ながらもここへ来たらしい。

 だが、実際にこの光景を目にした瞬間、安堵の表情を見せながら開拓民となることを志願してきた。

 2日目となる今日も、まだお昼前だというのに、結構な人が開拓希望に訪れている。

  


「おっ、また2人来た。これで今日は10人目か。椿、受付を頼むよ」

「はい、いってきます」


 開拓地の入り口では、移住者の鑑定と住民登録をしている。村の戦士を見張りに立て、鑑定用の『女神の水晶像』も置いてある。


==================

<女神の水晶像:300pt>

 触れることで能力鑑定が可能な女神像

==================


 なんとこの水晶像、300ptとお手軽なうえに、鑑定結果が像の頭上に表示されるという優れものだった。

 鑑定した本人しか見れないと、いくらでも虚偽きょぎの申告が出来てしまう。まさかこんな機能まであるとは……ご都合展開に大感謝だ。


(しかし、早く検問所を作らないとダメだな。一応見張りは立たせてるけど、あれではどうにも締まりが悪い。それに台帳の作成も誰かに任せないと――)


 まさか、移住者がこんなに早く来るなんて思わなかった。ルドルグに検問所の建設を頼みつつ、住民管理の仕組みを考えるおっさんであった。

  



◇◇◇


 結局、今日の移住希望者は12人、昨日よりも増えている。


 検問所に先立ち、門の建設はその日に終わったので、夜中に不法侵入してくる心配はない。門を壊されたらそれまでだけど、いずれはもっと堅牢な門扉を作ればいい。


「ふぅ。みんな今日もおつかれ。――それにしても、こんなに上手くいくとはなぁ……門番とかどうしようか」


 今は主要メンバーを集め、対策会議の真っ最中だった。今後も移住者が増えていくことを考えると、早急に決めておかなければならない。


「村長、入国管理は我らに任せてくれ。兎人の聴覚を使えば、来訪者の接近もいち早く察知できる」

「そうか、ラドたちがやってくれるなら安心だ。志願者がいなければ、私からお願いするところだったよ」

「持ち回りでやれば、開拓の仕事や魔物狩りもできる。それに我らはみな、こういう時のために鍛えてきたのだ。是非やらせてくれ」


「でしたら、各部署の支援はメリー商会が担当致します。入国審査から物資の管理まで、ひと通りのことはこなして見せますので」

「うん、ぜひお願いしたい」

「我々商会一同、村長のお役に立てれば光栄です」


「椿、報告のまとめ役は――」

「もちろんです。私にやらせてください」

「ああ頼む。みんなありがとう、これで一安心だ。――ところで、さっきから入国入国言ってるけど、別に国を作るわけじゃないぞ?」


 さすがに、そこまでの規模になるとは想定してない。「せいぜい街どまりだろう」と思っていると夏希が――。


「いやいやー、わっかんないよー。昔みんなで言ってたじゃん。ナナシ国が出来ちゃうかもって」

「アレはただの冗談だろう。いくらなんでもそこまでいくか?」

「人がたくさんいれば国になる、ってわけでもないでしょ? 安全な領地に豊富な食糧、それに強力な兵士も揃ってる。あとは『王様』がいればバッチリ国だよ!」

「ふむ、言われてみればその通りだ……。だとしても、私は王にならんぞ? そのときはここにいる誰かに任せるわ」

「え、なんで? 国王とかかっこいいじゃん! 村長がやればいいのに」

「いや、なんでって言われてもな……。国王なんて、なにひとつ良いことないぞ。なあドラゴ?」


 連合国家とはいえ、実際、国のトップだった御仁に問いかける。


「そうじゃな。あんなもん、自由もへったくれもない職業じゃ。次から次へと仕事が湧いてくるからのぉ……(ダンジョンへも滅多に行けんし)」

「ほらな? まあ、最後の愚痴はともかく。好んでやるもんじゃないし、簡単にできるもんでもない」

「そんなもんかなぁ。なんでも思い通りできそうだけど」

「それなら今のままで十分だ。守るものが増える分、どんどん自由が減るんだよ」


 国の運営なんて無理ゲー過ぎる。全国民の忠誠を得るなんてことは、絶対に不可能だ。寝首をかかれて死ぬのも勘弁願いたい。


「でも村長、開拓民の数がもっと増えたら、そんなことも言ってられないよ? しっかり役割を決めないと」

「お、秋穂。何かいい案でもあるのか?」

「最低でも、代表と補佐役は絶対必要。それに警備隊と物資の配給担当もいないと困る」

「うん、他には?」

「開拓地には村ボーナスの効果がないから、病気と怪我の対処もしないとだよ。あとは……街で暮らす条件、規則はハッキリ示さないとダメ」

「なるほど……。とくに規則は早めに出さないとマズいか」


 代表はひとまず私がやるとして――補佐役が数人、治安維持と配給の機関は作らないとな。そしてなにより、開拓の主旨は移住者を村人にすることだ。それを前提とした規則を決める必要がある。


 もう村のほうは安定している。みんな自主的に動いてくれるし、開拓地に人材を割いても問題ないか――。


「よし! 部署と人選は私が決める。当然、村のみんなにも協力してもらうからな。やりたい仕事があれば数日のうちに教えてくれ。開拓地の規則は私と補佐役で決定するつもりだ」


 ここにいる全員、そう宣言した私をみて頷いている。共に過ごした時間と、忠誠度による裏付けもあり、裏切りの心配もない。

 


 この世界に飛ばされて約10か月――


 村から街へ、いずれは国へと、


 私たちの異世界生活は、次の段階へと移行する。














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