第126話 お見事でした


「では領主様、次は村人になって頂きます。今から居住の許可をだしますので、そのあと鑑定させてください」

「村人? え、どういうこと?」


 そう言われた領主は困惑しているが、それを無視して居住の許可を念じる。


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ウルフォクス Lv45

村人:忠誠62


スキル:身体強化Lv4

身体能力を強化する

※常時発動

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 ドラゴから私や村のことを聞いていたのか、忠誠度が結構高い。これには、元議長への信頼という側面もありそうだ。

 なんにせよ、忠誠度は噓をつかない。操られてるヤツの忠誠度がこんなに高いわけないし、詳細鑑定のどこにも異常は見当たらなかった。


 念のためその場で結界を張り、村に入れるかも確認してある。



「領主様、ありがとうございました。これで確認は終わりです。私はあなたの言葉を信じます」

「……そうですか、それは良かった。ところで私は、村人になれたんでしょうか?」

「はい、忠誠度も問題ありません。もちろん不都合がおありでしたら解除することもできます」

「っ、いえいえ! 私もぜひ村に行ってみたいです。――それと、私のことはルクスと呼んでください。ドラゴ様と同じく、ただの村人です」

「いつでもお越しくださいルクス様。村人一同、歓迎いたします」


 こうして、ケーモス領を治める領主が村人になった。



 それからしばらくは、街のことや村での生活について話していた。ドラゴやマリアも話に加わり、三人の武勇伝なんかもたくさん聞かされるハメになったが、終始楽し気な話題が続いていく――。


 もう察してる人もいるだろうけど、このルクスも相当な戦闘マニアだった。戦いの師匠であるドラゴと別れ、領主の仕事に追われる毎日。「魔物狩りができなくて狂いそうだ」と、思いっきりぼやいていた。

 ダンジョンの話をしたときなんかは……いや、これ以上の説明はいらんだろう。


 このまま話していると、領主を辞めて村へ来ちゃいそうだったので、本題に移ることにした。とはいえ、状況が変わってしまい、どう納めたらいいのか判断に迷ってしまう。


(……よし、どうせなら領主の立場を利用させてもらうか)


「ルクス様、実はですね。今日は、街との取引を中止するつもりでここに来たのです」

「増加でも現状維持でもなく、いきなり中止ですか。それはさぞ議会が荒れるでしょうね……」

「先に約束を反故ほごにしたのは議会ですしね。挙句の果てには奴隷の取り上げですから……仕方ないでしょ?」

「ええ、返す言葉も見つかりません」

「ですが今回、ルクス様が村人になりました。ドラゴさんとも旧知の仲ですし――ここはひとつ、私と取引しませんか?」

「ぜひ聞かせてください」

「私が提示するのはこの通りです」



1.奴隷の確保ができないため、食糧増産の目途が立たない。しかも約束を反故にしたので取引を中止にする。

2.領主とドラゴの説得により、取引中止は撤回、芋の販売量は現状維持とする。

3.ここからは密約だが、移住希望者や難民が出た場合、領主の手引きで開拓地に送ってもらう。

4.軍が村に攻めてくるのであれば、どうぞご自由に。全て返り討ちにします。


「と、まあこんな感じで、ルクス様の体裁ていさいも最低限は保てます。議会、というか隆之介が怒り狂って軍を差し向けてきたら、家族や知り合いと逃げ込んで来てください」

「私に家族はいませんが……友人を誘って逃げるのもアリかな」


 自分で言っておいてアレだが、領主がそんな無責任でいいのかと聞いたら――

「ドラゴ様に頼まれたから領主を引き受けた。そうでないなら絶対やってない。私のときもそうだったように、領主の首がすげ変わるだけだ」と、あっさりゲロってた。


 ちなみに家族は本当にいないらしい。領主になって間もないし、仕方なく嫁候補を探している最中のようだ。


 し・か・も、だ。嫁探しの話がでたところで、なぜか告白タイムに突入してしまった。


「この際だから言わせてください。――私はずっとマリアさんが好きでした。いや、今もです! あなた以外を伴侶にするなど考えられません!」


 これにはマリアもビックリ仰天、いきなり愛の告白をされアワアワしている。隣にいるドラゴは、なぜかウンウンと頷いていた。さらにルクスは「これでもう村人同士、立場の垣根もありません!」と付け加えていた。


『村長よ。実はこのふたり、両想いなんじゃ。マリアもルクスに惚れておるでな、ククッ』

『マジかよ……。俺はいったい何を見せられてるんだ……』


 こっちが真面目に話してるのに、なんなんだこれは。おっさんは凄くイライラしてきた。 


 

「あのさ、そういうのは二人のときにやってくれる? 今は大事な交渉の場だよね? せめて話が終わるまでは領主を演じてくれ……」

「あ……」


 村人であることを引き合いに出すなら、もう遠慮はしない。というか絶対してやらない。


「それでどうするの? この案でいいですかルクスさま。それとも全部帳消しにします?」

「あ、いえ、それでお願いします。私もうまくやりますので……」

「わかりました。それでは私はこれで失礼します。あとは若いおふたりでどうぞ」


 結局交渉はまとまったが、なんとも締まりの悪いエンディングを迎えた気分だ。


 早々に挨拶を済ませた私とメリナードは、先に商会へ帰ることにした。




◇◇◇


 その日の夕方――


 ついさっき戻ってきたドラゴとマリア。そのふたりと一緒に夕食を頂いているところだった。


 マリアの顔はウットリしてるし、聞くまでもなく引っついたんだろう。ドラゴがいろいろ話してくれたが、今日はそんな気分じゃない。話半分で聞き流していた。


「あっ、そういえばマリアさ。午前の買い物のあと、やたら綺麗な服に変わってたけど……ルクスに会うからか?」

「なっ、なによ悪い?」

「いや、悪くない。お互いの気持ちが通じて良かったな。おめでとう」

「あら、もう怒ってないの?」

「あのタイミングじゃなかったら、最初から祝福してるっての。それで、マリアは街に住むか?」

「いいえ、アタシは村に帰るわ。あの人もいずれ来るだろうし、新居の準備でもして気長に待つつもり」

「そうか。メリー商会に魔法陣を設置したし、会おうと思えばいつでも会えるぞ」

「とてもうれしいわ。それに『結界のネックレス』をルクスに持たせてくれたから安心よ。村長、本当にありがとう」


 とんだ結末になったが、村人が幸せになるならそれでいい。結果的には領主も取り込めたわけだしな。


「なあドラゴ――領主のこともマリアのことも、全部おまえの計画通りだったのか?」

「さぁて、どうかのぉ」

「……やっぱ議長やってただけあるわ。今回はお見事でした。これであの駄々っ子さえなけりゃなー」

「それもこれも儂じゃて。さあ、飯を食ったら村に帰るぞ! ダンジョンが儂を待っておるんじゃ!」

「ほんと、感心するよ」



 こうして、領主会談もある意味大成功して、村へと帰るおっさんであった。













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