第115話 最後の能力?


異世界生活271日目



 選抜メンバーが遺跡ダンジョンへ向かった翌日、以前メリー商会で村人にした連中が村に移り住んできた。

 女性店員五名はそのまま商会に残っており、その家族十六名が先行して移住してきたカタチとなる。



 今後、帝国や王国との関係が悪化する恐れもあり、「家族だけでも早めに移住させたい」という意向だった。もし何かあったときも、少人数の方が逃げやすい。



 今回村にきたのは、旦那さん五人と子どもが十一人、小さい子の人数もかなり増えてきた。こうなることを想定して、ここ1か月の間に学校兼託児所っぽいものを用意して正解だった。


(まあ、案を出したのは私じゃなくて椿だけどな……)



 羊人の旦那さんや子どもを学校に案内して、校長のメリッサ先生に声を掛ける。


「メリッサさん、ここの調子はどう?」

「あら村長さんいらっしゃい。おかげさまで順調ですよ」


 周りを見れば、様々な種族の子が楽しそうにしている。羊人の子どもたちも、興味津々の様子であたりを見渡していた。


「もし人手が足りなかったら、遠慮なく言って下さい」

「大丈夫ですよ。各種族から1人ずつ常駐していますし、大きい子も面倒を見てくれますから」

「なら良かった。それでは先生、今後ともお願いします」

「はい、お任せください」


 教室の広さも十分足りているようだし、雨の日の遊び場にもちょうど良さそうだ。そんなことを考えながら、五人の旦那さんたちを職場に連れて行った。



「村長さん、私たちの仕事場まで用意して頂き感謝します。さっそく準備にかかりたいと思いますが、よろしいですか?」

「もちろんいいよ。でも昼からは基本自由時間だからな。仕事してもいいけど……ほどほどにしろよ?」


 実はこの五人、街ではちょっと珍しい仕事をしていた。せっかく村人になったことだし、村でもそれを職業にしてもらおうと、専用の施設を建設したのだ。


「これだけ立派な設備があれば、街でやってたときと同じ……いえ、それ以上を期待してください! 染料も浄化装置も一級品ですし、我々も楽しみです!」


 そう、今回建てたのは染物そめもの工場だ。街では衣類や革製品なんかを扱っていたんだと。水を浄化する魔道具も用意してあるので、川下や海への影響も考えなくていいらしい。染料も道具も、メリナードが奮発して手配してくれた。

 話しによると、糸や布染めはもちろんのこと。モノにもよるが、完成品を染めたり着色することも可能みたいだ。職人のなかには、家屋や家具を担当する『塗装屋』もいるマルチな職業だった。


「あとで椿に顔を出させるからさ。他の職人との連携はそのとき確認しといてくれ。完成品を楽しみにしてるよ」

「はいっ、村のために頑張ります!」


 五人ともやる気満々だ。子どもは安心して預けられるし、何かあってもすぐ会いに行ける。街に残った奥さんは心配かもしれんが、結界が守ってくれるだろう。





◇◇◇


 午後からはいつものように、村の中をふらふらと巡回していた。このひと時が実に心地いい。


 この言葉だけ聞くと、「お前、なんもしてねぇじゃん!」と思われるかもしれないが……まあ、その通りだ。何もしてない。しかし、村長が何もしてないってことは、村が安定してる証拠だ。決してサボタージュしているわけではないのだ。



 そんなことを自分に言い聞かせ、自宅付近を歩いているとき――



 突如としてアナウンスが聞こえて来た。

 


『村人のが規定値を超えました。ユニークスキルの解放条件<村の守り神>を達成しました』


『能力<女神の恩恵>が解放されました。特定能力の解放により<信仰ポイント>が表示されます』


『ユニークスキルのレベルが上限に達しました。おめでとうございます』


『今後は信仰ポイントを消費することで、様々な特典が得られるようになります。詳細はモニターで確認できるようにしてあります。たくさん集めて――いつか会いに来てくださいね』



 なんかいつもと雰囲気が違う。説明がとても親切でわかりやすい。

 しかも最後の言葉なんかは、電子音ですらなかった。透き通るような女性の声で、とてもやさしい語り口調だった。名乗りはしなかったけど、「絶対女神さまでしょ」って確信があった。


(いつか会いに来てって……そんな特典もあるってこと?)



 ひとまず冷静になろうと、自宅の居間へと向かう。モニターで詳細が見れるらしいし、ひとりだけの空間で落ち着きたかったのだ。


(能力のことはさておき……スキルレベルが上限になったってことは、これ以上能力は覚えないってことだよな。そっかぁ……)


 贅沢なのはわかってるけど、伸びしろがないのはちょっとキツい。目標や期待するものがないってのは……なんとも残念だ。


 そんなしょげた気持ちの中、新たな能力を信じてモニターに触れる。



=================


啓介 Lv91

職業:村長 ナナシ村 ★★☆

現在の信仰度:24pt<NEW>


ユニークスキル 村Lv-(150/5000)

『村長権限』『範囲指定+』『追放指定』

『能力模倣』『閲覧』『徴収』

『物資転送』『念話』『継承』

『女神の恩恵』<NEW>

信仰度を消費して女神からの恵みを授かる ※信仰度は、村人の人口やレベル・村の発展・教会への祈り・魔物討伐等により獲得できる


村ボーナス

★   豊穣の大地

★★  万能貯蔵庫

☆☆☆ 女神信仰

=================


 ステータス表記で変化したのは、『現在の信仰度』がポイントで表示されたこと、それに村スキルが『Lv-』になったことか。


(やっぱスキルレベルは上限ってことだな。……いや、肝心なのは恩恵の内容だ! 諦めるのはまだ早いぞ俺!)


 気を取り直し、『女神の恩恵』部分の詳細を表示させると――そこにはもの凄い種類の特典が映し出されていた。


(うおっ、マジか! って、トンデモないのも混じってるんだが……いいのか?)


 ちょっと微妙なものから、世界の核心に迫るような恐ろしいものまで、消費する信仰ポイントと共に並んでいる。しかもこれ、種類ごとに並び替えできる仕様になっていた。消費ポイント順やら、種類別やら、かなり融通がきいている。この機能も『女神の恩恵』の一部なんだろうか……。


 

 

 ――見れば見るほどテンションが上がっていく。


 喉から手が出そうなほど魅惑的な恩恵の数々……。


 さっきまでの落胆などどこ吹く風、その一文一文を、食い入るように見つめるおっさんの姿がそこにあった。















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