異世界村長【書籍発売中】

第85話 装備の強化

異世界生活１８２日目

　魔鉄の加工に成功して５日後

　異世界に飛ばされてから約半年。

　初めは私ひとりから始まった異世界生活だったが、今では１００人近い村人たちと、割と豊かな暮らしをしている。

　日本にいた頃から、領地育成ものやサバイバル生活系のゲームを趣味にしていたので、ある意味では、理想的な環境にいるんだと思う。ただここは現実なので一度死んだら即ゲームオーバー、セーブも無いしやり直しもきかない。

　とはいえ、強力な結界に守られているので、村の中で生活する分には死のリスクはほぼ無いと言っていい。

　そんななか、村に籠る生活から半年が経過して、ようやく外へ踏み出す第一歩となりえるアイテムが完成した。

　村の誇る巨匠、夏希の傑作がこちらだ。

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『結界のネックレス』

制作者：夏希

希少度：☆☆☆☆

結界宝珠をはめ込んだ希少なネックレス

身に着けることで以下の効果を発動する

・認識外の攻撃を弾く結界を展開

（物理攻撃、魔法攻撃、状態異常攻撃）

※結界発動中は宝珠に内蔵する魔素を消費

※村内の魔素を吸収して再充填可能

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　流石は春香の上位鑑定、今までよりもかなり詳細な情報までわかるようになっていた。

　まず目を引くのは希少度の項目か。☆が４つもあるので、いかにもレア度が高そうだ。最高が星何個なのかは不明だけど、希少価値が高いことは間違いないだろう。

　続いてその効果なのだが、「認識外の攻撃を弾く」とある。これについてはここ数日の検証により、概ね把握できている。

・「攻撃がくる、攻撃されてる」と認識しているときは発動しない

・認識外の攻撃なら物理も魔法も弾いてくれる。状態異常は未確認

・発動するごとに宝珠の色が変化。薄緑色が、だんだんと黒色へ

・村にいれば自動で充填され、色も元に戻る

・村長の魔力でも充填可能

　大体こんなところだが、不意の攻撃や状態異常攻撃にも対応するとなれば、戦闘時はもちろんのこと、結界外での安全確保も格段に向上するはずだ。しかも、私の魔力でも補充可能なのだから、常に結界の保険がある状態で行動できる。

　宝珠に内蔵された魔素の消費量についてなんだが、色の変化から想定すると20回発動して約半分消費、って感じ。春香の予想では「50回は耐えれるでしょ」ってことらしい。

「受けた攻撃の威力によって消費する魔素量が違うのか」、これについては今後も検証が必要だ。

　そしてもうひとつ、魔鉄により鍛えられた武器についてだ。

　いかにも秀逸そうな見た目通り切れ味は抜群で、通常の鉄剣と比べても、その違いは一目瞭然（りょうぜん）だった。それに加えて、夏希の技巧スキルにより特殊効果も付与されている。柄（つか）の部分にあるセンスのいい意匠（いしょう）が際立つ。

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『魔鉄（まてつ）の剣（けん）』

制作者：ベアーズ

希少度：☆☆☆

特殊な熱処理により魔鉄を鍛えて仕上げた剣

魔力の浸透率向上、切れ味上昇

特殊効果：耐久値向上

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　名称はシンプルだがその希少度、能力ともに素晴らしい。製作者がベアーズとなっているのは、彼が中心となって鍛造（たんぞう）したからだろう。

　魔力の浸透率に加えて切れ味の上昇、さらに特殊効果で耐久値も上がっている。冬也の魔剣士と相性がいいのはもちろんのこと、他の者が使用しても今までの剣とは比較にならないほどだ。

　記念すべき一振り目は、全会一致で冬也が所有することになった。

　冬也曰く、「普通に切っても十分すごいけど……魔力を流すとえげつない！」って感じで興奮しまくり。冬也の戦闘風景を見ていたみんなも、恐ろしいほどの切れ味だったと口を揃えて話していた。

　今日の時点で完成しているのは『結界のネックレス』が５つと『魔鉄の剣』が３本。それぞれの所有者は以下の通りだ。

『魔鉄の剣』

冬也　春香　ラド

『結界のネックレス』

啓介　メリナード　ウルガン　ウルーク　椿

　街にいることが多い三人を優先して、今後は忠誠度が高い順に配布する予定でいる。

　魔鉄による武器や防具の制作について、今後の施策を話し合ったのだけど、武器は剣と槍と盾を、防具は胸当てを中心に依頼した。頭部を保護する帽子や足元を守るブーツなんかも、既存の革製品に組み込むことが可能らしい。

「あ、魔法職用の杖かワンドも忘れないでくださいよ！」

「あ、それ私も欲しいです」

「なら私もぜひお願いします」

　村の貴重な魔法使いである桜とロアと杏子も、魔法関連の特殊効果を期待しているみたいだ。魔鉄は割と軽い素材なので、短杖くらいなら重さも問題ないんだろう。

「今回ので自信がつきましたから！　巨匠夏希にお任せあれ！」

「夏希ちゃん、なるはやでお願いね！」

「りょーかいです！」

　巨匠夏希を始め、鍛冶師の二人もやる気を見せているので、今後の装備強化にも期待が持てそうだっだ。

◇◇◇

　夕方、食堂に集まったときに、採掘班のみんなを囲んで談笑している光景を見てほっこりした気分になった。

　全員が、御礼と賛辞を口々に述べており、採掘班のみんなもご満悦な様子で、発掘したときの状況を事細かに語っていた。

「あんときはオレも驚きやしたぜ！」

「最初に見つけたのはオレっすよ！　ねえベッケルさん！」

「そうだな。アレは大手柄だったぞ」

「まさかあんなところにあるとはなぁ」

「きっかけはオレの一振りが――」

　――こんな感じの日常がいつまでも続くといいな、なんてことを考えながら今日という一日が過ぎていく。

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＜お知らせ＞

次回86話と次々回87話は、日本商会の会長視点で話が進みます。

一人称「オレ」は商会長のことです。よろしくお願いします。