第72話 みんなの武者修行


異世界生活163日目



 朝、夜明けとともに準備をして、日本人メンバー全員で南の勇者たちのもとへと向かっていた。



 中途半端な時間に行くと、向こうの連中とすれ違うかもしれないので、勇人たちが出かける前に押しかけようという魂胆だ。

 先ぶれを斥候のレヴに頼んでも良かったのだが、見知らぬ顔を見せると向こうを警戒させるかもしれない。それならばいっそのこと、早朝に着いた方がいいのでは、とみんなで話し合って決めたのだ。



「みんなで一緒に行動するのって、久しぶりで楽しいねー」

「何言ってんだよ夏希、昨日だって一緒だったろ?」

「冬也くん、無粋なこと言っちゃダメよー」

「はい冬也。減点1ね」

「えぇ……」


 夏希はいつも村に残ってるからな。こうやって全員で何かやるのが嬉しいんだろう。


(冬也のヤツ。適当に話を合わせときゃいいのに……。こういうところはまだまだだな)



「おい村長! 手が止まってるぞ!」

「お、そうか? すまんすまん」

「もっと手綱に集中っ。馬に意志を伝えないと意味ないぞ。――ったく、もっと集中しろよな」

「ちょっと冬也、村長に当たるなんて情けないよ!」

「ちがっ、俺は指導をだな……」


 今は冬也に、御者の指導を受けながら荷馬車を運転しているところだった。


 冬也は毎日、ダンジョンへ向かう際の御者をしていて、今ではいっぱしの運転技術を身に着けていた。ラド師匠曰く、とてもスジが良く、馬との相性も抜群らしい。


 イライラを私に向けていたが、かわいそうなので甘んじて受け入れてやる。


 ――と、そんなことを考えているうちに、現地へと到着した。




◇◇◇


「おーい、朝早くすまん。私だ、啓介だー」


「「「おはようございまーす」」」


 私たちが声をかけるとすぐに物音がする。砦の中から煙が立っていたので、朝食の支度でもしてたかな。早くから押しかけて申し訳ないけど、既に起きてたみたいでホッとした。


 すぐ出迎えてくれたので、結界を固定してから中へ入っていく。



「今日は日本人メンバーを連れて来たんだけど、大丈夫かな?」

「ええ、もちろん。皆さん歓迎しますよ」

「ありがとう。じゃあ中で自己紹介させてもらおうかな」

「お邪魔しまーす!」

「どうもどうもー」


 早朝からお邪魔したにも関わらず、勇人も他のみんなも暖かく迎え入れてくれた。

 当然、私たちの持ってきた支援物資が目当てだろうけど、少なくとも悪い感情は持ってないようだ。



 勇人たちは朝食もまだだったので、パンや果物なんかを差し入れ、一緒に食べながら自己紹介に突入する。

 前回渡した分の米や麦なんかはとっくに無くなったらしく、私たちが来るのを今か今かと待っていた、と女性陣がぶっちゃけていた。


「啓介さん……なんかすいません」

「いいんだよ。正直に言ってくれるほどには打ち解けてきた証拠だからな、気にする必要はないよ」

「ありがとうございます。僕もまた会えて嬉しいです!」

「あれから変わったことは無かったかな?」

「んー、変わったことですか……。あっ、オークを倒せるようになったので、おいしい肉には困らなくなりましたよ!」

「おー、それは良かった。今回は米も多めに持ってきたから、主食のほうも期待してくれ」

「ほんと、何から何まで……うっ」


 ちょっと涙目になりながら感謝してくる勇人。気持ちは嬉しいが、このまま泣かれても困るので話題を切り替える。


「みんなの自己紹介も終わったようだし、さっそく今日の本題に入りたいんだが、いいだろうか」

「本題ですか?」

「ああ、実はな。勇人やみんなに、スキルや魔法の手ほどきをして欲しくてな。それでこんな早朝から押しかけてしまったんだよ、悪いな」

「来てくれたのは嬉しいですけど、手ほどきって……。僕たちが教えられることなんてあるんでしょうか?」

「もちろんだ。是非お願いしたい」

「そうですね……。じゃあ、お互い教え合うって感じでどうですか?」

「助かるよ。――おいみんな! 勇人の許可はもらったぞ。食べ終わったらそれぞれ指導してもらえよー」



 こうして桜は杏子さんとペアに。春香と秋穂、それに冬也は勇人に師事を仰ぐことになった。

 椿や夏希は、他の勇者メンバーを指導することになり、農耕や細工スキルの披露をしながら交友を図る。


「啓介さんはどうするんですか?」

「私はゆっくり荷下ろしでもしとくよ。それが終わったら、各所を覗かせてもらおうかな」

「荷下ろしなら僕も手伝いますよ!」

「いやいや、うちのみんなはもう待ちきれないみたいだ。気持ちは嬉しいけど、少しでも長い時間付き合ってくれると助かる」

「そういうことなら、こちらも精一杯やらせてもらいます!」

「杏子さんも、手の内を明かすのは嫌だろうけど……よろしく頼みます」

「いえ、大丈夫ですよ。啓介さんもあとで見に来て下さいね」

「お、それはありがたい。私も魔法に興味があるので、必ず見に行きますよ。異世界談義もしたいしね」

「はい、ではまたあとで」


 女性同士は割と早い段階で打ち解けていた。勇人がらみでちょっかいを出さない限りは上手くやってくれると思う。夏希と春香は少し心配だが、あのふたりもなんだかんだ空気を読むのはうまいからな。肝心なところでヘタはうたないだろう。



 みんなと別れた私は、持参した積み荷を砦に運んでいく。


 今回は米や麦などの食料や調味料、着替え用の服や靴を持ってきてある。ほかにも剣と防具、農耕道具や大工道具も用意してきた。

 与えすぎは良くない。それはわかっているが……。勇者一行をこの場所に留めて置きたいので、色々と運んできた次第だ。


「啓介さん、農具を持っていきますね」

「お、椿か。そっちもよろしく頼むよ」

「はい、お任せください。夏希ちゃんともしっかり話したので大丈夫ですよ」

「村長ー、わたしもこの道具持ってくねー」

「ああ、夏希もよろしくな」

「りょーかい!」

「あとで見に行くからまた後でなー」



 荷運びもひと通り終わって一息つく。


 さっきこっそり鑑定結果を聞いたら、勇者たちのレベルが結構上がっている。非戦闘職の人も均等にレベルアップしていた。


(たぶん杏子さんが調整してるんだろう)


 最初に会ったときから実質的なリーダーは彼女だった。ここまで生きてこれたのは間違いなく杏子さんのお陰だろう。



「さてっと、どこから見に行こうかな」


 やることも無くなった私は、とりあえず勇人のいる場所へ向かう。


「フッ……ハッ!」

「はぁぁ!」

「くっ……」


 川沿いのひらけた場所へ行くと、勇人を相手にしている春香と秋穂がいた。どうやら模擬戦をやっているようだ。


 流石は勇者、というところか。レベルで劣る勇人の剣撃は、ふたりに全く引けを取らない。むしろ勇人が押している。

 剣術Lv3に身体強化Lv3が合わさり、それに加えて直感Lv3のスキルも発動しているのだろう。レベルの上ではかなり格上、しかもふたり相手に、全く怯むことなく次々と剣を振っている。


「よぉ冬也、勇人はどうだ?」

「見ての通りだよ。まるで別次元だな」

「冬也から見てもそうなのか」

「ああ、次は俺とやる予定だけど、手加減の必要はないかもな」

「そこまでか……」


『まあもちろん、アレは抜きでの話な』


 アレとは当然、魔剣士のスキルを言ってるんだろう。口には出さず念話で話しかけてきた。


『魔剣士のスキルありならどうだ?』

『今なら間違いなくれる。勇者のレベルが上がればわからんけど』

『そうか、まあ今回はうまく相手してくれ』

『わかってる。けどオレも、勇者との戦闘で成長したい。ある程度は本気でやらせて欲しい』

『ああ、全てお前に任せる』


 冬也もまだまだ先を見ているようだ。


 普通は天狗になりそうなもんだが、そんな素振りはなく、貪欲に強くなろうとしている。こういうところは私も見習うべきだし、素直に尊敬している。



「ふぅ、ありがとうございました」

「いやー、勇人くん強いね!」

「うん、いい経験になる」

「僕のほうこそ、いい勉強になりますよ」

「ねえ、あの時の動きだけどさ――」


 どうやら一回戦が終了したらしい。お互いを褒め合いながら、しばらく模擬戦の考察をしていた。



 勇人のスキルにある超回復の効果だろうか。疲れも全く見せず、話しが終わったあと、すぐに冬也との模擬戦が始まる……。


「冬也くん、僕のほうが格下だ。最初から全力で行かせてもらうよ!」



 そう言い放った勇人は、光のオーラを全身に纏って冬也に飛び込んでいった。


















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