第55話 鉱脈の調査


異世界生活128日目


 北の鉱山へ向けて歩くこと2時間、ようやく現地に到着した。


 昨日村人になった熊人3名のほか、ルドルグとメリナードのふたりも同行している。


「道中の路面も状態が良いですし、馬車を利用してはいかがしょう」

「馬車か……。それは名案だが、村まで連れてこれそう?」

「馬ならなんとか引いてこられますし、荷台は私の空間収納があります」

「そうか。ダンジョンへの移動にも使えそうだし、用意してくれるとありがたい」

「お任せください」


(この際だ、街から元集落までの道も開通させるか。今さらコソコソする意味もないしな)


 などと考えつつ、小休止を入れてから視察に入った。いまは熊人たちが試し掘りをしているところだ。獣人領にある鉱山と地層は変わらないが、鉱石の含有量はこちらのほうが多い、という見立てらしい。


「掘り進めないとわからねえですが……、かなりいいものが採れると思いますぜ」

「それはよかった。敷地を拡げた甲斐があったよ」


 三人とも同じ意見なのでひとまずは安心だ。私の鑑定結果でも、鉄や銅などが確認できたし大丈夫だろう。


「あとは集積所とか、製錬の魔道具を設置する施設なんだが――」


 そう言って、必要な広さや建物の大きさなどの話に入った。どちらも専門的なことなので、ルドルグと熊人たちに全て任せるつもりだ。素人が口を出してもロクなことにならない。


 そのあとしばらくメリナードと話していると――、どうやら打ち合わせも終わったようで、ルドルグたちがこちらにやって来た。


「お、もう決まったのか?」

「ああ、それなんだがな。建物自体は大したこと無いんだが、山肌に沿って20mほど敷地を拡げて欲しいそうだ」

「ぜんぜん構わないよ。それくらいならまだ余裕がある」


 そう言いながら10mの幅で敷地を拡げていく。


「これくらいでどうだ? もう少しならいけるけど」

「いや、これで十分だ。後は任せておけ、明日から早速取り掛かるぞ!」


 製錬炉は高熱を発するため、屋外に設置しなければならない。あずま屋みたいな感じで、雨よけの屋根だけ作るらしい。ほかにも3つほど小屋を建て、保管所や休憩所、転送用として利用する計画だ。


「採掘の方は施設が整い次第でいいから、試運転程度で稼働させてくれ。本格的にやるのは人員が確保できてからにする」

「りょうかいでさぁ!」


 今のところは、村で利用する分だけ確保できればいい。作業時間についても、毎日夕暮れ前には村へ帰るよう指示してある。


 あと、熊人の妻や子供についてなんだが、全員が村の中での作業を希望していた。子どもに採掘作業はキツいだろうし、農作業をしながら、兎人の子供たちと仲良くなってくれれば良いだろう。



◇◇◇


異世界生活129日目


 翌日の早朝、


「では村長、次回は馬や鳥、それと人材の手配が整い次第お伺いします。急いで準備しても20日はかかると思います」

「無理して急ぐ必要はないからな」

「はい、では行って参ります」


 そんなやり取りのあと、メリナードたちが村を出発する。彼らが歩いて行く姿をみて、荷馬車の必要性を強く感じていた。


 やはり、街までの交易路を最優先すべきだろう。馬車を使えば、ナナシ村から街までは3時間程度になる。馬の休憩を考慮しても半日足らずだ。

 路面に関しても問題ない。土魔法でしっかり固めてあるから、馬や荷台、そして尻への負担も少ないはずだ。なんにしても、街との距離が半日となれば交易も格段に捗る。


 

 ――というわけで、今日から本格的な開拓に取り掛かっていた。


 木こりの職業を持つ兎人の夫婦や、ラドたち戦士団のメンバーはもとより、冬也や桜たちもダンジョン探索を中断して参加している。


 総勢16名による開拓作業は、「おいコレ、重機でも使ってるんじゃないか?」と、勘違いするほどの速度で進んでいた。むろん私も、伐根をしたり路面整備をしたりでフル稼働している。


 桜の水魔法で前方の木々をなぎ倒し、身体強化を駆使したラド達がその木を引っ張り出す。木こりの二人が器用に枝打ちをして、力のある者が集積場所まで運ぶ。土魔法で周辺の土を柔らかくして、木の根を強引に引き抜いていき――、その凸凹の路面をロアと私で平坦にして固めていった。


 ナナシ村から元集落までの15kmの道のりは、約50日の期間を要して既に開通している。元集落から街へも同じく15km程の距離があるが、この分なら相当早く開通しそうだった――。


「皆さんお帰りなさい。夕食の準備は出来ていますよ」


 日暮れ前には作業を切り上げ、大勢で談笑しながら村へと戻る。と、椿たちが夕食を用意して待ってくれていたみたいだ。


「みんなおつかれさん、初日にしてはかなり順調だった」

「そりゃそうだろ村長、もう散々経験したからなー」

「でも、往来にかかる時間がちょっと勿体ないですよね。明日からは集落に寝泊まりすることを提案します」


 そう発言した桜だ。体力も上がって道が整備されたとはいえ、到着までに2時間はかかった。往復で4時間のロスはたしかに効率が悪い。


「桜殿、我らはまったく構わないが……、村に残る者は風呂が使えないのではないか?」

「あ、私はぜんぜん平気ですよ? 水浴びでも問題ないです」

「わたしも大丈夫だよ。開拓優先でいいからねー」


 ラドはそう憂慮していたが、椿と夏希は平気みたいだ。獣人族のみんなにしても、元々風呂の習慣がないので問題ないと言っている。


「んじゃ、明日からしばらくは集落で寝泊まりしようか。食料なんかは『物資転送』があるから支障ない」

「――では、昼食と夕食を早めに作って万能倉庫へ運んでおきますね」

「おー、椿、それは助かるよ」

 

 こうして明日から開拓組は、集落で寝泊まりすることとなった。往復にかかる時間の短縮に加えて、食事の準備いらずとなれば、さらなる効率アップは間違いないだろう。


 あ、それともうひとつ。長期で村を離れるため、斥候の一人は村に残すことにしたよ。思わぬ事件というのは、得てしてこういうときに起こるからね。



◇◇◇


異世界生活145日目


 集落を拠点にしてから15日が経過した。したのだが……。


 もう開通間近というところまで完成していた。いくら効率が上がったとはいえ、この早さは異常過ぎる。前回に比べて、3倍以上の速度で進んでいた。


 もちろんこれには理由がある。私たちがそれに気づいたのは、開拓を再開して2日目のことだった――。


「なぁ村長。敷地拡張ってさ、一旦固定すると解除はできないのか?」

「ん? 解除か……どうだろう。そういえば試したこと無いわ」

「解除するとその拡張分が消滅する、ってことなら意味ないけど……。何回も拡張できるなら便利だろ?」

「そうだな、いざという時の安全地帯として使えそうだ」


 せっかく確保した安全地帯。それを解除するなんてこと、今まで考えたこともなかった。


「試しにやってみるのはダメなんかな。リスクもあるけど、スキルを把握しとくのは大事なことだろ?」

「うーん、拡張分が残り少ないからちょっと迷うなぁ」


 解除自体が可能でも、その分の敷地が戻ってこなかったら……なんてことが頭をよぎり、なかなか踏ん切りがつかないでいた。


「冬也はそもそも、何でそんなことを思いついたんだ?」

「うん? だってさ。固定や解除が自由にできるんなら、今やってる伐採だってアッと言う間だろ?」


 冬也のその一言に、作業をしていた周りのみんなも、手を止めて興味を示していた。




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