第31話 トイレの秘密

 

 二人と一緒に庭へ出てから主要メンバーを招集した。


 『徴収』のスキルについて説明したところ、「遠慮なく吸い取ってくれ」と言うので、様子をみながらそうさせてもらう予定でいる。今は説明もおわり、敷地の拡張を試すところだ。


「そういえばラド、部屋でのやり取りは聞こえてたか?」

「いやいや、いつも聞き耳を立てているわけではないぞ」

 

 ほれっと言って、ラドが両方の兎耳をピンと立てた。日本の言葉で、「聞き耳をたてる」というのがあるけど、兎人族の場合は実際に耳を立てていた。


「こうやっているときが聴覚強化の発動中だ。特段何かない限り、普段の生活ではこっちで聞いている」


 私たちと同じ形の耳を差してそう言った。たしかに普段はウサ耳が垂れており、思い返せば今までもそうだったなと納得する。


「他の者にも普段は聞かないよう言いつけてある。村長の不興をかうことはない。安心してくれ」

「そうか、別に疑ってるわけじゃない。気を悪くさせたならすまん」

「いや、かまわないぞ」


 聴覚強化の仕組みがわかったところで、敷地拡張を念じてみる。すると以前と同様、グググッと結界が広がっていったのだが――、


「おおー! 今回は規模が半端ないですね! てか、結界の高さまで変化してませんか?」

「これが村長の力か、とてつもないな……」


 敷地拡張のことは村のみんなにも伝えてあったが、実際に目にしたのは初めてなので驚いていた。


「村長、計測もするでしょ?」

「時間はかかりそうだが、なるべく正確に把握しておきたいからな。結界は固定しなくても有効だけど、一応の警戒はしてくれよ」


 前回敷地を拡げたとき、計測するのに結構な時間がかかった。その経験を踏まえて、今回は長尺ひもを用意してある。そのおかげで割とスムーズに測定できたが、流石にこれだけ広いと時間はかかりそうだ。



 それからたっぷり20分かけて、ようやく測定が終わった。計測の結果、結界の高さが10mから20mに変化していた。肝心の広さについては、1辺の長さが500mの正方形で、「ここはどこぞのテーマパークか?」って思うくらい広大な土地が広がっていた。


「このまま拡張しちゃうんですか?」

「いや、今回はしばらく保留するよ。いくつか考えてることもあるんだ」

「良いと思います。慌てて拡げる必要性もありませんしね」


 点滅している結界を元に戻すと、森も元通りに復元されていく。その光景をみて、またもみんなから驚きの声が沸いた。


「ははっ。村長よ、そのうち国でも興すつもりか?」

「ナナシ国かぁ。ちょっと締まらない感じだけど、イイかもですね!」


 ラドの言葉に、夏希が笑いながら答えていた。


 ――と、そんな冗談を言い合いながら、各自の作業に戻って行く。そして夕方、街で転移者に遭遇した場合の対処など、いくつかの最終確認をして解散した。いよいよ明日は出発の日だ。




◇◇◇


異世界生活44日目


 次の日、夜明けとともにラドたち五人が荷を背負い出発した。順調にいけば5日で帰ってくる行程だ。朝早い時間にも関わらず、村人総出での見送りとなり、皆、ラドたちの無事を祈っていた。


「何事もなく帰ってくるといいんだがな」

「はい、無事を祈るばかりです」

「心配するより信じて待とうぜ村長!」

「そうだな、私たちも自分の仕事をしっかりやっていこう」


 当初はラドたちが出ている間に、奪われた集落にいる日本人の偵察を、と考えていた。


 しかし、ヘタに刺激して予期せぬ動きをしたり、ラドたちとかち合う危険を考慮して中止となったのだ。ヤツらも、ラドたちから街の場所を聞いているはずだし、教会で自分たちのスキルを知った可能性もある。そのまま街に居つけばいいが……集落に戻っていると厄介だった。


 集落が奪われてから2週間、食糧も魔物の肉くらいしかないはずだ。買い出しにせよ移住するにせよ、街に行ってる可能性は高い。


「オレと桜さんは魔物狩りに行くけど、村長はどんな予定なんだ?」

「ロアと一緒にトイレを新設しに行くよ」

「そっか、そりゃありがたい」

「啓介さん、検証のために徴収率90%にしといてくださいよー」

「ああ、そうしとく」

 

 トイレについては良い処理方法があると判明した。それは兎人族に聞いたこの世界の常識だった。


 なんでも排泄物を土に埋めて置くと、土中の魔素が分解してくれるんだと。残飯や死体までもがその対象だという。この世界では、各家ごとに深い穴を掘ったトイレがあり、使用するたびに土を被せて済ますらしい。


「夏希たち女性陣は脱穀と機織りを頼むよ、村で使う分も欲しいからね」


「「「はい!」」」

「お任せをっ」



 その日の昼前、1つ目の土中式トイレが完成。私が大工を担当して、ロアが土魔法で土台を作った。

 

「まずは1つ完成したな」

「はい。夏希さんもお上手ですが、村長の腕前も見事なものでした」


 ロアがそう褒めてくれるのも、すべて『能力模倣』のおかげだ。


「夏希の細工スキルを使ってるからね。それよりロアの土魔法のほうがすごいよ。もう攻撃魔法だってできるんだろ?」

「はい、桜さんがいろいろ指導してくれたので……。あんな使い方があるなんて、今まで思いつきもしませんでした」

「それをちゃんと理解して成功させるんだから、ロアに才能と技術がある証拠だよ」

「ありがとございます。村長のために、もっともっと励みますね」


 日本の知識に加えてあの桜の発想力が合わされば、鬼に金棒だろう。その証拠に、ロアは何種類かの攻撃手段を習得ていた。


「最低でもあと3つは作りたいから、明日もよろしく頼むよ」

「はい、わかりました!」



 午後からは、ルドルグと合流して新居の建築を手伝った。もう1つの集落。そこにいる兎人が移住するかもしれないし、しなくても無駄になることはない。


「なあ長よ。何軒建てる予定なんだ?」

「そうだなー、急がなくていいけど、もう6軒ほど建てようか。集会所の材料が揃ったら、そっちを優先する感じで頼むよ」

「あいよっ、いまは男手が足りねぇからボチボチやってくぞ。まぁ帰って来るまでにゃあ2~3軒できるだろうよ」

「ああ、無理せず程々にな」


(6軒建てても余力はあるが、そのあたりも考慮して拡張しないと……) 



◇◇◇


異世界生活48日目


 ラドたちが村をでて5日目。予定どおりであれば、今日にも帰還してくるはずだった。


 トイレは無事に完成。以前作ったものに比べ、随分とマトモなものとなった。兎人用の住居もあれから2軒完成しており、今日にも3軒目が仕上がりそうな勢いだ。


 それとこの4日間、冬也と桜から経験値を90%で徴収していた。お互いの距離は関係ないようで、私のレベルが6から11まで一気に上昇している。ひとまず検証はできたので、30%まで設定を引き下げた。



 そんな私は、ひとりで敷地の拡張について悩んでいる。


 村をそのまま大きく広げた場合、安全地帯は拡がるけど利用しない無駄な土地も増える。それに拡張をすると森の木々が消えてしまう。伐採してから拡張しようかを迷っているところだった。

 街のほうへと延ばすことも考えたが、現状ではあまりにもリスクが多すぎる。転移者に村の存在を公にするのは、もう少し先延ばししたい。


 ラド曰く、村から南に行ったところに海があるという。……が、断崖絶壁のため、とても降りられたもんじゃないらしい。海水から塩を摂ったり、魚を獲るのも無理そうだった。獣人族の街があるほうは、海岸に砂浜が広がっていて塩産業も盛んらしい。今のところは街で購入する方が無難だと思う。


 ――となると、一番良さそうなのが北へ延ばす案だった。


 まず、村の周りをある程度大きくする。そして残った敷地を、上流のほうへ向かって川沿いに細く延ばす。川を囲い込むかたちでだ。


 上流までの水源の安全確保と、北にある山での鉱物や石材採掘。念のためではあるが、東から来る魔物への防壁などのメリットがある。なんにしても、次にスキルアップするのがいつになるのか不明なので、今回は慎重に決めなければならない。


 

 それと結局、ラドたちは帰ってこなかったよ。悩んでいても仕方ないが、やはりどうしても不安がつのる――。






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