第12話 村ボーナス☆


「おいしかったですねー」

「とても美味しかったです」


 この世界に来てまだ二日目だと言うのに、久しぶりに感じる豪勢な晩餐だった。残った米もおにぎりにして、明日の楽しみとしている。


 いまは食事を終えて、テキパキと後片付けをしているところ。そろそろ終わるかなというタイミングで、私は二人に声をかけた。なるだけ早い段階で伝えておきたいことがあったのだ。


「あのさ。この後暗くなっちゃう前に、大事な話をしておきたいんだが……いいだろうか」

 

 二人は少し緊張した顔で頷き、一緒にリビングへ向かうことに。



「最初に言っておくんだが、椿と桜は良き協力者だ。人格も能力も申し分ないと思っているし、私を頼って欲しいとも思ってる。それを頭に入れて、これから話すことを聞いてほしい」


 そう言って自分の考えを椿と桜に話した。

 

・自分の命を一番大事に思ってること。身に危険が迫ったときは、自分の生存を優先するつもりなこと

・信用のおけない他人は、受け入れるつもりがないこと。他人には、私や二人の親族や知り合いも含むこと

・場合によっては、敵意のある転移者を殺してでも排除するつもりがあること

・最後に、信用のおける村人は、決して無下にはせず大事にすること


 私が話している間、二人はひと言も発せずに黙って聞いていた。


「啓介さんの言いたいことは理解しました。私はその方針で構いません」


 なんとなく、桜はそう言うんじゃないかとは思っていたが、はっきり聞けて安心した。そして椿は――

 

「私は……。もし家族や友人に遭遇したとき、たぶん平然としている自信はありません。ですが、受入れできないときは諦めます」

「そうか、二人ともありがとう。隠さずに言うけど、椿がそこまで覚悟するとは、正直思ってなかったよ」

「最初は全然ダメでしたけどね。……あと、家族と疎遠なことも理由のひとつです」


 私は聖人でも人格者でもない。いざとなれば、必ず自分の身を優先することだろう。口先で調子のいいこと言っといて、いざとなったら手のひらを返す。そういうのが嫌で、今回の話を早めにしておきたかった。

 もちろん、先に言ったから許されるとは思ってない。でも、人間なんてこんなもんだろ。


 自分の傲慢をさらけ出したことで、今までずっと感じていた焦りが、スッと消えた気がした。


「よし、明日からはじっくり生活基盤を整えていこう」


「任せてくださいっ」

「精一杯頑張ります!」




 ◇◇◇


 異世界生活3日目


 今朝はスッキリとした目覚めだった。昨日の夕飯と決意表明のお陰だろう。自分の発した言葉に対し、ウダウダと悩むつもりは毛頭ない。


 リビングに行くと、二人の姿は既になかった。テーブルに『川に水浴びへ行く』と、書置きがあるのを見つける。しばらく帰ってこないだろうと思い、先に朝食を済ませたが……。まだ戻る気配がないので、ステータスの確認をしながら待つことにした。

 

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啓介 Lv1

職業:村長 (村名なし)村

ユニークスキル 村Lv2(2/10)


『村長権限』

村への侵入・居住と追放の許可権限を持つ。※村人を対象に、忠誠度の値を任意で設定し自動で侵入・追放可能


『範囲指定』

村の規模拡大時に、拡大する土地の範囲と方向を指定できる

=================


(とくに変化なしだな……)


 代わり映えのない画面の文字を何となく見ている。


(あ、村の名前でも付けてみるか)


 ふと、そんなことを思った。村の呼びかたに拘りもないため、適当に考えてみる。


(異世界村、日本村、日下部村……んー、なんか違う。まあべつに名なしのままでもいいか)


 全然思いつかないので諦めていると、ステータス画面に変化があった。


============

啓介

職業:村長 ナナシ村 ☆

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「え? 今ので決まっちゃったの?」


 おいおいと思い、慌てて変更できるか確認したら、何度でも変更は出来るようだ。それよりも、村名の横についてる☆が気になり注視してみた。すると――、


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☆豊かな土壌

村内の土壌品質に上方補正がかかる。作物が病気、連作障害にかからない。※解放条件:初めての収穫

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「これはまさに……思わぬ収穫だわ」


 うっかり名前を付けちゃった自分を褒めてあげたい。書かれている内容も申し分ないものだ。肥料要らず、病気知らず、連作可能と三拍子揃っている。これなら素人農園でもやれそうな気がしてきた。

 

(解放条件は<初めての収穫>か。昨日、家庭菜園の野菜を採取したときかな?)


 この☆印、村の特性みたいなヤツに関しては、『村ボーナス』と勝手に命名した。村の名称に続いてセンスのカケラもないが……まあ、別段問題にはならないだろう。


 と、そうこうしているうちに、桜と椿が帰ってきたようだ。

     

「「啓介さん、おはようございます!」」


 二人とも元気そうで顔色もいい。昨日私が宣言したこともそれほど気にしてないようだった。まあ、気を使ってくれてる可能性もあるけどね。


「おはよう。川の様子はどうだった?」

「気分も体もサッパリしました! 洗濯もしておきましたので干しときますね。あ、とくに異常とか遭遇もありません」

「そうか。早速なんだが、二人もスキルの確認をしてみてくれ。それとこれから、毎朝ステータスの確認をすることにしよう」


 アナウンスがあるかも知れんが、二人のスキルを把握しておきたい。


「了解です!」

「わかりました」


 桜と椿が順番にステータスの確認をしている。忠誠度は少し上がっているが、スキルに変化はないようだ。


「まだ変わりはないですね。早く強化したいところですが……」

「まあ、焦ってもしょうがないよ。それはそうと、先ほど村ボーナスが手に入ったよ」

「「村ボーナス?」」

「私がそう呼んでるだけで、とくに呼称があるわけじゃないけどね」


 そう言って、二人にステータスを見せると――。予想どおり、村の名前には突っ込まれたが、その効果のほうは絶賛だった。


「これはすごい効果ですね。私の農耕スキルとも相性がよさそうです」

「昨日の敷地拡張の件と言い、ご都合展開が続いてますね! 主人公補正が効いてるのかも?」

「いやいや、都合が良いのは分かるけど勘弁してくれ。主人公なんか厄介過ぎるし、変なフラグが立ちそうで怖いわ。マジで」


 朝から思わぬ収穫に、三人の気分は高揚していたのだった。



=================

啓介 Lv1

職業:村長 ナナシ村 ☆

ユニークスキル 村Lv2(2/10)


『村長権限』

村への侵入・居住と追放の許可権限を持つ。※村人を対象に、忠誠度の値を任意で設定し自動で侵入・追放可能


『範囲指定』

村の規模拡大時に、拡大する土地の範囲と方向を指定できる


村ボーナス

☆ 豊かな土壌

村内の土壌品質に上方補正がかかる。作物が病気、連作障害にかからない。※解放条件:初めての収穫

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桜 Lv1

村人:忠誠93

職業:魔法使い

スキル:水魔法Lv1

念じることでMPを消費して水を出すことが出来る。飲用可能。

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椿 Lv1

村人:忠誠75

職業:農民

スキル:農耕Lv1

土地を容易に耕すことができる。

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