異世界村長【書籍発売中】

七城

第一部 異世界村長編

第1話 始まり


 その日、日本中がまばゆい光に包まれた。


 予兆もなく、唐突に起こったその現象は、


 のちに『集団神隠し』と呼ばれる原因不明の失踪事件だった。


 


◇◇◇◇◇◇


 季節は初夏、今日は土曜日。久しぶりの2連休となれば、いやおうでもテンションが上がる。俺は朝からパソコンの前に陣取り、お目当てのゲームを起動していた。


「さて、今日もじっくり領土を拡げるか!」


 サバイバル系や、歴史シミュレーションが大好物。そんな独身の俺は、今年で40になるおっさんだ。自慢じゃないけど、そこそこの収入もあり、小さな庭付きの一軒家も所有している。


 趣味といえば、帰宅後や休日にやるゲームだとか、異世界系小説を読みあさることだった。これでも若い頃は、いつか家庭を持って幸せな生活を――

 

「いや、この生活も全然悪くないわ。むしろ良いまである」


 職場で愚痴をこぼす既婚者たち。ネガティブなことしか話題に上がらず、その思いを余計に後押しする。


 我が家に単身、なんでも自分で決め、自分の都合で動き、好きなようにできる。別に他人と関わるのが苦手なわけではない。ただ単純に、この気楽な生活が気に入っているのだ。


「さてっと、早速始めていきますか!」


 最近お気に入りの歴史シミュレーション。じわじわと領地を拡げながら、国力を徐々に高めていく。焦らずじっくりやるのが私のスタンダードだ。


「やっぱ、初期の基盤整備が肝心なんだよなぁ」


 それからしばらく没頭していると、気が付けばもう正午を回っていた。まあこれはいつものこと。幸せな時間はあっという間に過ぎてしまう。職場にいるときとは真逆だ。


「あ……腹減ったな」


 ふと思いたち、何か作ろうかと冷蔵庫で物色を始めたときだった――。


 冷蔵庫の扉を開けた瞬間、部屋全体が真っ白に見えるほど強烈な光に包まれたのだ。


「え? なにこれヤバくない?」


 突然の出来事に混乱して、その場から一歩も動けずに固まっていた。体感にして5秒ほどだろうか、すぐに光が収まり、目の前に広がった光景は――――





 それまでと変わらず、冷蔵庫の中身が見えてるだけだった。











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