第27話 チーム『金の匙』
『フフフ……やっぱりね。私の目に狂いはなかった』
妖艶な声色が、脳内を所狭しと駆け巡る。
『これからもゆっくりと、アナタの行動を観察させてもらうわ』
———誰だお前は。でもこの声、確かどこかで……。
『もっと私を楽しませて。絶対に失望させちゃ、イヤよ? じゃあ、またね』
———おい! 待ちやがれっ! やっぱりお前、あのときの……!
暗闇に埋もれていく声に向かい、もつれた足で追いかける。
泥沼に浸かったように、うまく足が前へと進まない。
がむしゃらに手足を動かしていると頭を覆うもやが晴れ、だんだんと覚醒していく。現実へと連れ戻される。
そして、俺は目を覚ました。
意識が繋がって少しずつ明瞭になると同時に、嫌でも体の重みが伝わってくる。
倦怠感と焦燥感が波のように押し寄せて、俺は体を起こすこともままならなかった。
唯一動かせる首だけを動かし、まだ焦点が定まらない視界で周りを確認する。
「ここは……どこだ?」
「おお! ようやく目が覚めたかい。心配してたんだ、みんな。ここは50階層、
埃と土の匂いが充満した、備品がほとんどない室内。劣化が激しい木材を乱暴に建て付けただけの粗末な壁の至るところから、眩い外光が差し込んでいる。
意識が今だまどろみの中へと沈殿している俺は、隣のベッドで寝ている男の顔を、思い出せないでいた。
「……アンタは……?」
「こりゃ失礼した。自己紹介が後になって申し訳ない。俺はマルク。君に命を救われた
肩から腹まで包帯で巻かれている短髪で無精髭を生やしたマルクは、ゆっくり上半身を持ち上げると、俺に向かって深々と頭を下げてきた。
「……ああ、あのときの……。へへっ、そんな真似はよせって。俺が勝手にやったことなんだ。礼なんて言われる筋合いはねーよ」
「君……ヤマトくんと言ったね」
「大和、でいい」
マルクは無骨な顔に似合わない笑みを含ませて「ではヤマト」と言い直す。
「以前、この50階層辺りを
マルクは俺たちを
きっとエリシュがそう名乗ったのだろう。短い会話の中だけだが、このマルクには人を惹きつける何かを感じる。そう、例えるなら信頼感、安心感といった類のもの。付き添っていた仲間が命懸けで守るほどの男なのだ。
だからと言って、俺の外見がこの国の王子だったり、玲奈を探していることを迂闊に話す訳にもいかない。きっとエリシュもそこら辺の事情は
「……いや、ねーよ。俺たちはもうちょっと上の
「そうか……いや、ヤマトの強さなら、それも当たり前かもしれないな。つまらないことを聞いてしまった。忘れてくれ」
マルクはそう言って俺から視線を逸らす。
その直後、建て付けの悪い小屋の扉から、軋む音が聞こえてきた。
「マルクさーん。ヤマトさんはまだ目が覚めませんか……って! おいクリスティ! エリシュさん! ヤマトさんが目を覚ましましたよ!」
布袋を両手に抱えたやや長身の男が、振り向きそう叫ぶ。
その後ろから、やや小走りでエリシュが駆け寄ってきた。
「……無事に目が覚めてよかったわ、ヤマト。体の調子はどう?」
「ちょっとダルいけど、別にどこにも異常はないぜ。メシ食えば治るレベルだ。こんなん」
「ヤマト。取り込み中悪いが、ウチの連中からも礼を言わせてもらいたい。ヤマトがそれを求めていないのは承知しているが、我らは命を救われた身。どうか聞いてやって欲しい」
マルクの視線の先を追う。エリシュの後でソワソワしている二人組。
俺が「好きにしてくれ」と答えると、二人はエリシュの前に躍り出た。
「俺、アルベートって言います! 危ないところを助けてくれて、ありがとうございました!」
細身だけどしなやかで力強さも窺える、癖のある赤毛の青年が礼を言い。
「私はクリスティです。本当にもうダメかと思いました。ヤマトさんは命の恩人です!」
茶色い長い髪を二つに結った、同じ年頃の少女が頭を下げた。
俺は顔を上げるのを待ち。
クリスティの顔をマジマジと見る。
———別に玲奈に似ているって訳じゃないが、知的なカンジ? そんなところが似てるっていや似てるかも……。
「おい、アンタ……クリスティって言ったっけ? ここ最近で病気とか何かで死にかけたこと、なかったか?」
「……は? い、いやないですけど……死にかけたのだったら、一昨日キュクロープスに襲われたときくらいで……」
———そっか。残念だけど仕方ないか。この50階層の
……ん? 一昨日?
「お、おいエリシュ! もしかして……」
「ええそうよ、ヤマト。あなたは一日以上寝ていたの」
マジか!! 道理で腹が空きまくってると思った訳だ! って、そんなこと、どうでもいいわ!
「ちょ、ちょっとヤマト! 何してるの?」
「何って決まってるだろ! 玲奈を探しに行くんだよ!」
ベッドから立ち上がろうとする俺の肩に、エリシュの両手が乗せられた。力強く。
「馬鹿を言わないで。あなた、本当に死にたいの? せめてもう一日、体力が回復するまでは安静にしていて」
「だってよ! この
俺とエリシュの押し問答に、マルクが
「ちょっといいかな。もしかして二人は、この
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