第374話 ハーディアの指名
高等部の敷地は、レッサーデーモンや
「あら~! 揃いも揃って魔力切れを起こしちゃって~! はい、回収♪ 回収♪」
蒸気車両で正門前に到着した僕たちを迎えたマチルダ先生が、僕を除く全員を回収していく。
「わたくしは大丈夫です」
「ダーメ! もし、また魔族が襲ってきたらどうするつもり?」
頑なに残ろうとしたホムは、マチルダ先生に強い口調で反対され、僕に不安げな視線を寄越す。
「……回復が優先だよ、ホム。僕もその方がいいと思う」
いくらホムンクルスで回復が早いとはいえ、ホムの限界を感じていた僕は、素直に従うようにとホムに言い聞かせた。
「わかりました。すぐに戻ります」
ホムは素直に引き下がり、マチルダ先生の案内で魔力回復の点滴を受けるために皆と医務室へと移動する。
皆が治療のために回収された後、正門の前には、僕とプロフェッサー、それに迎えに出てきてくれたタヌタヌ先生が残された。
「……よく頑張ったな」
タヌタヌ先生が、戦いで大きく損傷を受けた機兵四体と僕のアーケシウスを見上げながら静かに口を開いた。
「……ありがとうございます」
僕はタヌタヌ先生の言葉に頷き、改めて高等部の校舎を見渡した。
「こっちも思ったよりも被害が少なくて良かったです」
「生徒たちが力を合わせて結界を張ってくれたからな。沢山の魔法が融合して、白銀に輝くそれは美しい結界になったんだぞ」
目を細め、今なお残るアムレートの光結界魔法よりも更に低い場所を身振り手振りで示すタヌタヌ先生の言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
――そんなことが可能なのだろうか。
喉元まで出掛かった言葉を呑み込み、代わりに息を吐き出して口を噤む。きっとその結界に手を加えたのもハーディアの仕業だろう。学園を守ろうと力を合わせる生徒たちに感銘を受け、その魔力を合わせる手助けをしたのだ。そうでもしなければ、バラバラな魔法がひとりでに一つの結界を成すなんてことはあり得ない。誰かが導かなければ起こりえない奇跡なのだ。そしてそれが出来るのは、ハーディア以外にいないだろう。
「この学園の生徒は、儂らの自慢だ。カナルフォードの学生たちは、本当に素晴らしい勇気を見せてくれた。知識と力があっても、魔族に立ち向かうなど、そうそう出来るものではない」
タヌタヌ先生はひとしきり生徒の行動を褒め称えた後、思い出したように目許を腕で擦った。明言は避けたものの、発言そのものはハーディアの言葉と類似している。タヌタヌ先生たちに対しても、先行して高等部へと入ったミネルヴァが僕たちと同様の説明を行っているのだろうということは、容易に想像がついた。
「……一連の出来事は、神事となるといいますが、皇帝へはどう報告するのですか?」
「表向きは、黒竜神とカナルフォード学園の生徒らによる魔族の撃退ということになっています。神事という神聖な儀式として印象づけることで、魔族の侵略という不安要素を国民から出来るだけ遠ざける……とのご意向です」
問いかけにプロフェッサーが淀みなく応え、タヌタヌ先生もそれに頷く。
「なるほど……」
ハーディアが考える辻褄合わせには、それしかないのだろう。僕たちを試したという意図が気に掛かるところではあるが。
「……そこで、ひとつ先方から要望があるのですが、いいですか?」
「僕にですか?」
プロフェッサーに同意を求められ、思わず聞き返す。
「はい。ハーディア様があなたを指名されているとのことです。カナルフォード学園の生徒を代表して、対話する機会を設けたいと」
何を話すのかはわからないが、指名されているものを断る理由はないし、断れるはずもない。
「わかりました。僕で務まるものならば」
自分でもどういうわけか、やや緊張した声が出た。
「では、校舎のエントランスで待っていてください。迎えが来るはずです」
プロフェッサーがそう言いながら、近づいてくる動力音に首を巡らせる。視線を追うと、帝国軍の蒸気車両が数台近づいてくるのが見えた。
「帝国軍の関与はないはずでは?」
「魔族との戦闘に関してはそうですが、人々の救援活動は制限されていません。彼らは公安部隊とともに救援物資の配布を行います。日中はあたたかかったとはいえ、日が落ちれば冷えますし、空腹の人達もいるでしょう。さて、私もそろそろ行かなくては」
歩き始めたプロフェッサーに続いて、僕も歩き出す。タヌタヌ先生は帝国軍の引き継ぎがあるのか、その場に留まって僕たちを見送っている。
「……なにがあるんですか?」
「黒竜騎士団への引き継ぎを兼ねて軍部に出す報告書を作成する必要があるのです。生徒からの証言も取る必要があるので、医務室のエステアから意見を聞こうかと」
戦いの前線にいたエステア、誰よりも早く異変に気づき、ナイルの救出のために
「生徒会長の彼女なら適任でしょう」
「そう思います」
僕が頷くと、プロフェッサーも確信を持って頷き返し、不意に歩を止めた。
カツンと、冷たい音が大理石の廊下に響く。前方に視線を向けると、そこには僕たちが校舎に入って来るのを待っていたかのようにミネルヴァが佇んでいた。
「リーフ・ナーガ・リュージュナだな。ハーディア様がお呼びだ」
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