第359話 最悪の予兆
★ホム視点
アルフェ様が風魔法で跳躍してアーケシウスの頭部に乗り、わたくしもそれに続く。マスターはわたくしたちの搭乗を確かめると、
「ギャッ! ギャギャッ!」
「ギャギャッ! ギャッギャギャッ!」
エーテル遮断ローブを脱いで魔力増幅装置を手にしたマスターのエーテルに反応して、レッサーデーモンたちが目玉をぎょろぎょろと動かしながら追ってくる。大きく裂けた口から覗く長い舌からはとめどなく滴る涎が、その渇望を如実に表している。飢えている魔族にとって、マスターは本当に格好の餌なのだ。
『殲滅してやりますわぁ~!!』
マリー様の声から少し遅れて、アーケシウスを追ってくるレッサーデーモンの群れにスパークショットが炸裂する。最大照射で放たれた
血涙で染め上げられた地面の上をスパークショットの閃光が薙ぎ、生まれ出でようとしていた魔の手をも殲滅する。血涙も攻撃の出力に耐えきれずに干からび、がさがさと乾いた血糊がアーケシウスの
これで魔族の出現は一時的に止まったわけだが、わたくしたちにはほっと一息吐いている暇はない。
「リーフ!」
素早く行動を起こしたのはアルフェ様だった。アルフェ様に誘われるように、エーテル遮断ローブで再びエーテルを隠したマスターが、アーケシウスから飛び降りる。
マスターは、
「…………」
マスターがアムレートの魔法陣を書き終わるまでに、どのくらいの時間が必要なのだろう。少なくとも、今、
赤黒く汚れた血涙の上にざわざわと波紋が立っていく。それが目玉に変わり、レッサーデーモンや
エーテル遮断ローブで今は守られているけれど、マスターには、光に蛾が集まるように無数の魔物たちが寄ってくる。わたくしはどこまでそれをお守りすることが出来るのだろう。
「マリー先輩! メルア先輩!」
魔族の生まれ出る気配を感じ取ったのか、アルフェ様が
『わかってるって! けど、次の発射までちょっと時間が――」
通信に応答したのはメルア先輩だ。その声が聞こえたのか否か、
『うわっ、なにこれヤバい!』
「……メルア先輩!?」
メルア先輩の悲鳴のような声に、アルフェ様が
『調子に乗るなよ、虫ケラども!!』
デモンズアイから怒号が響き、その声にアークドラゴンが反応する。エステアを振り切ったアークドラゴンは、そのま天高く舞い上がったかと思うと、研究棟の方へ向かった。
『戻りなさい! 私が相手よ!!』
『マリー!』
『迎撃するのみですわぁ!!』
常にパッシブになっている通信に、忙しなく声が重なっていく。
「ダメだ! 逃げろ!」
警告を発したのはマスターだったが、遅かった。
最大出力のスパークショットの一閃が、アークドラゴンを貫かんと発射されたのだ。だが、アークドラゴンの硬い皮膚はそれを難なく弾き、軌道が逸れたスパークショットは暗雲の彼方へと消えた。
『え……?』
飛翔するアークドラゴンの羽音が、
『やめて!!』
『きゃあああああああああっ!』
エステアの悲鳴に、マリーとメルアの悲鳴が重なったかと思うと、研究棟の建物が轟音を立てて崩落する音が続いた。
『いやぁああああああっ!!』
『マリー! メルア! 応えて! お願い!』
痛切なほど繰り返される呼びかけに、答える声は聞こえない。
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