第351話 決死の作戦

「よっしゃ! それじゃあ、やるっきゃないな! 責任重大だぜ、リーフ!」

「うん、わかってる」


 ヴァナベルが僕の背を叩き、背中を押してくれる。


「リーフなら大丈夫だよ」


 失敗した時のことなんて、今は考えていられない。アルフェの言葉が心強い。


「それじゃあ、作戦メンバーには多機能通信魔導器エニグマを改めて配りますわぁ~。通信は常時パッシブにして、音を届けてくださいまし。非常時に触ってる余裕なんてないことは、ワタクシが証明致しますわぁ~!」

「「おお、有り難い」」


 マリーが配布する多機能通信魔導器エニグマに真っ先に手を伸ばしたのはリリルルの二人だった。


「リリルルちゃん!?」

「「リリルルは、あの化け物たちに恨みがある。特に、占い小屋を破壊したレッサーデーモンとやらを生み出したあの目玉には、損害を命を以て償ってもらう」」

「……このダークエルフのお二方は、リゼルとライルの代わりに加えていいんですの?」


 マリーは今の活躍で既にリリルルを戦力として認めているらしい。生徒会メンバーであるリゼルとライルの行方が知れないのは心配だが、今は探している時間も待っている余裕もない。


「リリルルちゃんの魔法は頼りになるし、ワタシと魔法のタイミングを合わせることも出来るけど……でも、……大丈夫なの? リリルルちゃん?」


 アルフェの問いかけにリリルルは全く同じ顔で微笑み、アルフェの手を取った。


「「心配には及ばない、アルフェの人。我々エルフ同盟は、こういう時こそ助け合わなければ」」

「ありがとう」


 リリルルに合わせて、アルフェがくるくるとステップを踏む。こうしていつも通りのなにかが出来ることが、きっと心強いだろう。


「結界魔法実行部隊は、リーフとアルフェ、リリルルだけですか?」

「いや、あたしも行く。あたしの魔眼なら、魔族の動きに先手を打てる」


 プロフェッサーの問いかけにファラが手を挙げ、ホムとエステアがそれに続く。


「狙撃部隊は、ワタクシとメルアで参りますわぁ~!」

「だね! うちらなら遠隔攻撃が出来るし。あっ! その前にししょー!」

「なんだい、メルア?」


 問いかけにメルアは忙しなくポケットを探りながら、続けた。


「ブラットグレイルを使えば、ししょーのエーテルをもっと増幅出来る? ……いや、ししょーを危険な目に遭わせたいって意図は全くなくて、……その、どーすればししょーの作戦を強固に完璧に出来るかってことなんだけど……」

「いいアイディアだよ、メルア。でも、そのブラッドグレイルを取りに行く暇はない」

「違うの! 持ってるんだって、ほら!」


 ポケットを探っていたメルアが、得意気な笑みで差し出したのは、ホムの飛雷針と少し似た鍵のようなデザインの小型魔導器だった。鍵の部分にブラッドグレイルが嵌め込まれ、紅く美しい光を湛えているのが素材の金属部分に反射して美しい。


「うち。ししょーに貰ったブラッドグレイルで、魔力増幅装置、作ったの。後で見せて驚かせようと思って」


 つまりこれは、メルア特製の魔力増幅装置なのだ。僕が手を翳すと、金色の光が煌めいて僕の周りを乱舞した。この光景を僕は知っている。昨日のことなのに、ずっと昔のことのように思える夢の舞台の景色だ。


「……凄いよ、メルア。僕がRe:bertyリバティのために作った衣装のアイディアを、こんな風に見せてくれるなんて思いもしなかった」

「浄眼持ちのうちやアルフェちゃんみたいに、みんながエーテルを見られたらいいなって思ったんだよね」


 僕に褒められて嬉しいのか、メルアが照れ笑いに顔を赤く染めながら頬を掻いている。


「だから、これはししょーに託す。一応オンオフ出来るから、今はオフで」


 ボタンを押すと、鍵のぎざぎざ部分が引っ込む。どうやらぎざぎざ部分の簡易術式が、術式起動の引き金トリガーになっている構造のようだ。


「ありがとう」

「もしなくしたり、壊したりしてもいいからね。そうしたら、ししょーにもっと凄いのおねだりするから」

「うん。そうしよう」


 正直僕も、自分のエーテルを増幅させたらどうなるかは想像もつかない。もしかしたら僕のエーテル量に反応して壊れてしまうかもしれない。


「……私とタヌタヌ先生はここに残るべきね」

「戦力の一極集中はメリットもあるが、失敗すれば文字通り全滅が早まるからな」


 生徒たちの分担が決まったことを受け、マチルダ先生とタヌタヌ先生が互いに頷き合う。


「お二方にこの場は託します。ヴァナベル、ヌメリンは、作戦部隊のサポートをお願いします」


 プロフェッサーは異論がないことを述べ、ヴァナベルとヌメリンに持ち場を指示する。


「プロフェッサーと公安部隊はどうするんだ?」

「あなた方と共にリーフたちを目的地に届けた後、蒸気車両を駆使して逃げ遅れた人たちの救出に回ります。いいですね、リーフ?」

「充分です」


 僕たちは、自分たちにしか出来ないことをする。失敗出来ないからこそ、助け合わなければならない。


「それで、目的地は?」


 プロフェッサーの問いかけに、僕は大闘技場コロッセオを指差す。


「この街の中心――大闘技場コロッセオです」


 今にも零れそうに滴っていたデモンズアイの血涙が、遂に零れ落ちた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る