第337話 愛を知り、愛を歌う
「みなさまぁあああああああ! 大変ぇええええええん! お待たせいたしましたぁあああああああああーーーーー!! この特設ステージは、ご存じ、ジョニー! ジョニー・スパロウが司会進行を務めさせていただきまぁああああああすッ!!!」
司会として颯爽と現れたのは、
「まさか、ジョニーを呼んでるなんて……」
「うっわ~! ひっさびさにマリーの本気を見たわ……」
事前になにも聞かされていなかったらしく、エステアとメルアが驚きのあまり絶句している。
「うふふっ。ライブ会場を盛り上げるに相応しい司会といえば、ジョニー・スパロウ以外に思いつきませんわ~!」
マリーが本当にあっさりと言って退けたのが、いっそ清々しい。
「にゃははっ! まあ、
「ジョニーさんの声を聞くと、頑張ろうってすごく思うよね。なんでも出来る気がするもん!」
それだけジョニーのあの熱のこもった司会には、不思議な力があるということだ。アルフェが影響を受けたのも当然で、観客はそれ以上に興奮した様子で歓声を上げている。その歓声はすぐに、僕たちの登場を待ち望む期待の声へと変わっていった。
「
「
生徒会総選挙でのお披露目とは比べものにならない、
「すっごい声援だよ! もう、やるっきゃないね!」
「ええ! みんなの期待に応え、それを上回るライブにしましょう!」
メルアの意気込みにエステアが頬を上気させて応える。大観衆の声援がエステアの不安を吹き飛ばしたその瞬間を、目の当たりにしたような気がした。
「行こう、アルフェ」
「うん、リーフ、ホムちゃん……」
アルフェが僕の手を取り、ホムに片手を伸ばす。
「みなさま、手をつないで参りましょう」
ホムの提案にエステアが手を取り、メルアとファラがそれに続く。
その間も、
「準備はよろしいですわね。では、参りますわよぉ~!」
マリーが大きく手を振り、ステージと僕たちを隔てていた暗幕を取り払うよう指示する。それを合図に、ジョニーの声が高らかに響き渡った。
「それでは、早速登場していただきましょう! リバティイイイイイイイイイイーーーーーー!!!」
手を繋ぎ、足並みを揃えて進む僕たちはたくさんの光と歓声、拍手を一斉に受ける。光に包まれたステージは、今まで立ったことのあるどの場所よりも眩しい。
「みんな、行くよ」
アルフェが歌うように口を開く。歓声でほとんど聞こえないはずのその声は、僕たちの胸に染み渡るように強く優しく届いた。
目を合わせて微笑み合い、手を解いてそれぞれの位置に着く。
「ねえ、あれ見て、金色の光……キラキラしてる!」
前方に座っていた小さな女の子が、僕たちの周りを乱舞するエーテルの光に気づいて指差した。ああ、それは僕のエーテルが衣装の簡易術式を通じて具現した光だ。ステージの上を漂う穏やかな風はエステアとホムの感情が共鳴した証。そして弾むように揺れる僕たちの衣装は、僕たちの楽しいという感情の表れだ。
柄にもなく興奮している。平常心なんて保てないほど、楽しくて、嬉しくて堪らない。こんなに沢山の人の期待と好意が、アルフェの感情を介して僕にも伝わってきている。僕が生み出した簡易術式の効果が、こんなに広く影響を及ぼすなんて思わなかった。
「……ワン、ツー……」
エステアに代わりリードギターを務めるホムが、皆と目を合わせながら合図する。ファラのドラムがリズムを刻んでいく。
「ワンツースリー」
――奏でよう、僕たちのラブソングを。
第一音が重なった瞬間、僕たちは――
「もしも世界が明日変わっても――」
アルフェの澄んだ声が、想いを込めてラブソングを歌い上げる。
「ワタシのキミへの想いは変わらない――」
目を合わせ、僕もベースを奏でてその音に応える。
――僕も、僕も同じだよ、アルフェ。
想いを込めた分だけ、衣装が僕のエーテルに反応して煌めき出す。ステージが金色の光に溢れて煌めく。観客席に驚愕と興奮のざわめきが広がっていく。みんな笑顔で、僕たちのラブソングに合わせて手を振り、身体を揺らし、唇を動かしている。
ステージ上には、キラキラした眩しい景色が広がっている。
みんなの笑顔が弾けて、音が踊っている。なんて楽しいんだろうと感じながら隣を見れば、ホムがこの上ない優しい笑顔で僕と目を合わせてくれる。
ホム――僕の大切な
ホムのギターに寄り添い、共に歩んでいるのはエステアの芯の通ったギターの音色だ。彼女の戦い方と同じ、真っ直ぐで淀みない美しい音色は、僕たちの強さを表現してくれている。
僕たちは、きっと大人になるだろう。これから目覚ましく世界も変わるだろう。
だけど、この瞬間をこうして過ごせる奇跡を全身で覚えていたい。
ファラのドラムが力強く、それを訴えて、メルアの
ああ、このステージで僕たちは本当の意味でひとつになっている。
やっとわかった、エステアはこの未来を表現したくて、この曲を作って僕たちに託してくれたのだ。
遠くの人に届くように、文字通りアルフェが美しい歌声を響かせている。アルフェの声に滲むアルフェの想いが、ステージを更に煌めかせている。アルフェが歌いたかったラブソングは、今、ここにある。きっと、今完成した。
そしてみんなで造り上げたこのステージで、僕はもう一度愛を知る。
アルフェに出逢えていなかったら、僕は今でも愛を知らないかもしれない。孤独のままで良いと思っていたかもしれない。でも、今は違う。
アルフェが幼い頃に僕に約束を結ばせてくれて本当に良かった。
あの約束が僕がひとりではないと教えてくれる。僕に本当の意味での強さをくれる。
リリルルの占いを聞いた後だからなのか、アルフェと一緒に作った歌詞に深みが増している。もしも、リリルルが言うような残酷な運命の波に呑まれて、世界が明日変わったとしても、僕はアルフェが好きだ。アルフェもきっと僕を好きなままでいてくれる――そうあってほしい。
ああ、僕は愛を知らなくて、ずっと一人で生きていけると思っていたのに、いつの間にかこんなに欲張りになってしまったんだな。女神はそれを幸福を知り、求める権利に気づいたのだと笑うだろう。だけど、だけどそれでいい。
誰に笑われようとも、アルフェが僕にくれたこの気持ちは僕の宝物だ。そしてアルフェはそれをいつだって最高の輝きに導いてくれる。
この愛は、僕だけのものではなく、アルフェと二人の大切な宝物だ。アルフェはそれをこの歌を通じて、どこまでも真摯に僕に伝え、教えてくれたのだ。
―――――――
作中で
よければMVを観にきてください。
https://www.youtube.com/watch?v=1ZFR8BZpDYc
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